288 / 552
始まる人類領域への侵攻
第288話 2つのグループが合流
しおりを挟む
洞穴の中では安堵のため息をつく者もいれば、目の前の光景が現実だとは受け止められない者までいた。雷光のごとく降ってきた剣がフライング・デビルを両断したのだから、状況を把握できないのは無理もない。
討伐されたモンスターはたった1体。
1,480体のモンスターのうち、1体が倒れただけにすぎない。だが、強い勇気を与えてくれる大きな奇跡だった。
「助かった……。助かったぞ……」
「やった。倒せる相手なんだ……」
「帰れるよ……。絶対。俺たち帰れるって……」
「みんなで生きて帰りましょう。ねえ? 諦めちゃだめよ。ちゃんと希望はあるのだから……」
生き残った7人の市民は男女かまわず抱き合うように体を寄せ合っていた。
一方で、彼らを盾にして戦いながらダメージすら与えることのできなかったハンターたちは皆うつむいていた。
特にリーダーの男は、何かを諦めたように目が虚ろだった。
ずっとこの場所にとどまるわけにはいかなかった。安全ではない以上、ここから動かなくてはならない。それは誰もが同じように共通意識として持っていた。全員で洞穴を出る。
女性が前方を指差しながら、小さな声で呟いた。
「あれ、何? あの白いの……」
赤い砂煙で視界が悪い中、前方になにかが見えた。豊満な体をしていて人のようにも見える。だが白い毛皮に覆われていて不自然に耳が長い。
「モンスターか!?」
身構えるハンターだったが、リーダーの男がそれを制した。
「兎の着ぐるみを着ている。俺達を撮影しているようだ」
兎はスマホを持ち上げ、反対側の手でちょいちょいと手招きをする。
「ついてこいと言っているようだ。おそらくは俺達を助けてくれたハンターの仲間だろう」
あたりは人間の残骸が散らばっていた。砂煙で視界が悪いことが幸いだった。血で染まった地面がハンターや市民の目に入ることはなかった。
彼らには目の前の兎が希望の道筋。ただ前だけを向いて亡霊のように従っていく。
時々強く砂が舞い、ほとんど前が見えなくなることもあった。
ハンターと市民は兎と一定の距離をあけていた。理由はないが、なんとなくそうしないといけない気がしていたからだ。
「リーダー。力の差を見せられてしまいましたね」
1人のハンターがリーダーに声を掛けた。
リーダーはうめき声とも取れるような地響きにも似た声を絞った。
「力の差なんてものじゃない。俺等とは違う世界の住人だ。到底、到達することのできない遥かな高みにいる」
――兎と距離を開けて歩いていた理由がここにあるのかもしれない。前を歩く兎は自分たちとは別世界の住人なのだと。神とまでは言わないが、立っている場所が違う、一段上にいる存在たち。
だからこそ、隣に並んで歩くことすらおこがましい。後ろに付き従うことこそが自分たちにふさわしい立場なのだ。
――格上に対して立場をわきまえる。
本当ならば、頭を垂れて従うべきだった。見た目で判断せず、実力者に判断を委ねるべきだった。そうすれば被害はもっと少なかったはずだった。
配信画面に映るリーダーの姿はそう物語っていた。
◆ ◆ ◆
生き残ったハンターが5人。市民が7人。
私たちのグループと合流した。
対面してすぐに、リーダーが頭を下げてきた。90度に腰を折り、謝罪の言葉を述べた。
「申し訳なかった。助けていただき、感謝する」
短い言葉で気持ちのすべてが伝わってきた。相手を見下す態度を改め、生き残るために最善の行動を取る。その決意が伝わる。
手には私の大剣を持っている。ここまで持ってきてくれたのがリーダーだった。
リーダーはもりもりさんに向かって頭を下げていた。この中では年長者であるし、私たちの引率者でもあるからだろう。
「ちょっと待ってください。あなたがたの命を救ったのはこちらの春菜さんです。その剣は春菜さんの物なんです」
もりもりさんが慌てて説明をすると、男は私に向き直った。
「春菜さん。本当にありがとう。あなたが剣を投げてくれなかったら、ここにいる皆は死んでいた。あなたは命の恩人だ」
私は大剣を受け取りながら、どうしたものかと考えていた。
適当に放り投げたらたまたまモンスターに当たっちゃいました、なんて正直に言えるような状況ではなかった。
しかし、それにしても、たまたま当たるものなのか? そんなことが起こり得る?
私は複雑な気持ちを抱えたまま、剣を受け取った。
「私の剣がお役に立てて何よりです。私のできることは剣を投げることくらいで、大したことはやっていないのですが」
私はリーダーの目をまっすぐに見ることができなかったのだが、向こうはこちらを強く見据えてくる。
「何をおっしゃる。それで我々の命が救われたのです。やはり強者ともなると強さだけでなく、人間性も高められておられるのですね。その謙虚な姿勢には感服いたします」
「いや、ええと……。はあ……」
私は頭を掻きながら、湊ちゃんと春日井君に助けを求めた。だが、視線を向けても2人は笑いながら肩をすくめるだけだった。
「ところで兎の姿をしたお仲間はおられないようですね。途中まで着いてきたのですが、あなたがたと合流する直前にはぐれてしまいまして」
リーダーはきょろきょろとあたりを見回す。
もりもりさんが問い返した。
「兎の姿をした仲間?」
「あなたがたの仲間なのですよね? スマホで私たちの様子を配信しておられました。白い着ぐるみの御方です」
「あ、ああ……」
ようやく、もりもりさんは理解したようだ。
私たちはすぐにラビちゃんのことだと気がついたが、もりもりさんはわからなかった。私たちはラビちゃんといっしょに戦ってきた。ラビちゃんもパーティメンバーなのだ。もりもりさんにとっては仲間意識が希薄らしい。
「そうですね。そうなんですね。仲間なんですね。なるほど――」
なにかに納得したように、もりもりさんは1人で頷いていた。
討伐されたモンスターはたった1体。
1,480体のモンスターのうち、1体が倒れただけにすぎない。だが、強い勇気を与えてくれる大きな奇跡だった。
「助かった……。助かったぞ……」
「やった。倒せる相手なんだ……」
「帰れるよ……。絶対。俺たち帰れるって……」
「みんなで生きて帰りましょう。ねえ? 諦めちゃだめよ。ちゃんと希望はあるのだから……」
生き残った7人の市民は男女かまわず抱き合うように体を寄せ合っていた。
一方で、彼らを盾にして戦いながらダメージすら与えることのできなかったハンターたちは皆うつむいていた。
特にリーダーの男は、何かを諦めたように目が虚ろだった。
ずっとこの場所にとどまるわけにはいかなかった。安全ではない以上、ここから動かなくてはならない。それは誰もが同じように共通意識として持っていた。全員で洞穴を出る。
女性が前方を指差しながら、小さな声で呟いた。
「あれ、何? あの白いの……」
赤い砂煙で視界が悪い中、前方になにかが見えた。豊満な体をしていて人のようにも見える。だが白い毛皮に覆われていて不自然に耳が長い。
「モンスターか!?」
身構えるハンターだったが、リーダーの男がそれを制した。
「兎の着ぐるみを着ている。俺達を撮影しているようだ」
兎はスマホを持ち上げ、反対側の手でちょいちょいと手招きをする。
「ついてこいと言っているようだ。おそらくは俺達を助けてくれたハンターの仲間だろう」
あたりは人間の残骸が散らばっていた。砂煙で視界が悪いことが幸いだった。血で染まった地面がハンターや市民の目に入ることはなかった。
彼らには目の前の兎が希望の道筋。ただ前だけを向いて亡霊のように従っていく。
時々強く砂が舞い、ほとんど前が見えなくなることもあった。
ハンターと市民は兎と一定の距離をあけていた。理由はないが、なんとなくそうしないといけない気がしていたからだ。
「リーダー。力の差を見せられてしまいましたね」
1人のハンターがリーダーに声を掛けた。
リーダーはうめき声とも取れるような地響きにも似た声を絞った。
「力の差なんてものじゃない。俺等とは違う世界の住人だ。到底、到達することのできない遥かな高みにいる」
――兎と距離を開けて歩いていた理由がここにあるのかもしれない。前を歩く兎は自分たちとは別世界の住人なのだと。神とまでは言わないが、立っている場所が違う、一段上にいる存在たち。
だからこそ、隣に並んで歩くことすらおこがましい。後ろに付き従うことこそが自分たちにふさわしい立場なのだ。
――格上に対して立場をわきまえる。
本当ならば、頭を垂れて従うべきだった。見た目で判断せず、実力者に判断を委ねるべきだった。そうすれば被害はもっと少なかったはずだった。
配信画面に映るリーダーの姿はそう物語っていた。
◆ ◆ ◆
生き残ったハンターが5人。市民が7人。
私たちのグループと合流した。
対面してすぐに、リーダーが頭を下げてきた。90度に腰を折り、謝罪の言葉を述べた。
「申し訳なかった。助けていただき、感謝する」
短い言葉で気持ちのすべてが伝わってきた。相手を見下す態度を改め、生き残るために最善の行動を取る。その決意が伝わる。
手には私の大剣を持っている。ここまで持ってきてくれたのがリーダーだった。
リーダーはもりもりさんに向かって頭を下げていた。この中では年長者であるし、私たちの引率者でもあるからだろう。
「ちょっと待ってください。あなたがたの命を救ったのはこちらの春菜さんです。その剣は春菜さんの物なんです」
もりもりさんが慌てて説明をすると、男は私に向き直った。
「春菜さん。本当にありがとう。あなたが剣を投げてくれなかったら、ここにいる皆は死んでいた。あなたは命の恩人だ」
私は大剣を受け取りながら、どうしたものかと考えていた。
適当に放り投げたらたまたまモンスターに当たっちゃいました、なんて正直に言えるような状況ではなかった。
しかし、それにしても、たまたま当たるものなのか? そんなことが起こり得る?
私は複雑な気持ちを抱えたまま、剣を受け取った。
「私の剣がお役に立てて何よりです。私のできることは剣を投げることくらいで、大したことはやっていないのですが」
私はリーダーの目をまっすぐに見ることができなかったのだが、向こうはこちらを強く見据えてくる。
「何をおっしゃる。それで我々の命が救われたのです。やはり強者ともなると強さだけでなく、人間性も高められておられるのですね。その謙虚な姿勢には感服いたします」
「いや、ええと……。はあ……」
私は頭を掻きながら、湊ちゃんと春日井君に助けを求めた。だが、視線を向けても2人は笑いながら肩をすくめるだけだった。
「ところで兎の姿をしたお仲間はおられないようですね。途中まで着いてきたのですが、あなたがたと合流する直前にはぐれてしまいまして」
リーダーはきょろきょろとあたりを見回す。
もりもりさんが問い返した。
「兎の姿をした仲間?」
「あなたがたの仲間なのですよね? スマホで私たちの様子を配信しておられました。白い着ぐるみの御方です」
「あ、ああ……」
ようやく、もりもりさんは理解したようだ。
私たちはすぐにラビちゃんのことだと気がついたが、もりもりさんはわからなかった。私たちはラビちゃんといっしょに戦ってきた。ラビちゃんもパーティメンバーなのだ。もりもりさんにとっては仲間意識が希薄らしい。
「そうですね。そうなんですね。仲間なんですね。なるほど――」
なにかに納得したように、もりもりさんは1人で頷いていた。
0
あなたにおすすめの小説
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
ありふれた聖女のざまぁ
雨野千潤
ファンタジー
突然勇者パーティを追い出された聖女アイリス。
異世界から送られた特別な愛し子聖女の方がふさわしいとのことですが…
「…あの、もう魔王は討伐し終わったんですが」
「何を言う。王都に帰還して陛下に報告するまでが魔王討伐だ」
※設定はゆるめです。細かいことは気にしないでください。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる