片翼のエール

乃南羽緒

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第五章

82話 テニス界の関ジャニ∞

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 三月二十一から二十二日にかけておこなわれた第二ラウンドと、二十三日の第三ラウンド。
 第二ラウンド初日に六番から十番コートにておこなわれた才徳学園対聖ロメリア学院の試合は、結果からいうと5-0のストレートで才徳学園の勝利に終わった。S1、S2、D2の試合は十五分以内に収まり、明前のS3試合も二十分、新たな試みとして投入された杉山・天城ペアのD1もなんと6-0というゲームカウントで勝利し、全国大会初戦から順調な滑り出しとなった。
 そのとなり、一番から五番コートの試合ではシード校である香川代表の黎明高校が勝利し、第三ラウンドにて才徳学園と対戦することが決定。二十三日の第三ラウンドでの試合で、こちらもまた5-0という結果のもと圧倒的な力の差を見せつけた。
 レギュラーである蜂谷を抜いた状態での快勝に、準々決勝からはじまるであろう強豪校との連戦を前にした才徳レギュラー陣は、確実にチーム全体の実力があがったこと実感した。
 ──さて、蜂谷が第二、第三ラウンドを欠場した理由。
 それは言わずもがな、今後に対戦することになるであろう強豪校の調査をするためである。
「今年のシード校はレベルが高いね」
 と、ここ三日間の各試合を見てまわった蜂谷がノートをめくる。
 第二ラウンド、第三ラウンドの試合ではほとんどの団体戦勝者がシード校であった。飛天金剛、黒鋼、桜爛大附共々も順調に勝ち上がり、早々に準々決勝への切符を手に入れている。とくに飛天金剛は、準々決勝であたる才徳学園のもとへわざわざ挨拶に来たくらいだ。

「テニス界の関ジャニ∞、飛天金剛が来たでェ。調子はどないや」
 と。
 横峯佑と桜庭虎太朗を先頭にぞろぞろと連れ立ってやってきた飛天金剛学院の選手陣。よく目立つ黄色い学校ジャージを着て、桜庭は上機嫌に杉山の肩へ手をまわした。
「秋ぶりやな、杉」
「おん。元気そうやな村上信吾」
「だれが村上やねん。どう見たって錦戸亮やろ」
「いや知らんがな」
 といって嫌そうに桜庭を押しのける杉山のとなりで、横峯が伊織のもとへ駆け寄った。
「愛織はんのこと聞いたで──大変やったな」
「あ、横山裕」
「だれが横山くんやねん。いや名前の字面は似てるけれども」
「いやちょっと顔も似てるで。なあ、そう思わん?」
 と伊織がうしろに控える飛天金剛の選手たちに顔を向けた。
 しかし彼らは、沈痛な面持ちで伊織を見つめたままうごかない。横峯の話によると、関西地方ではそれなりに七浦愛織の名前は有名だったらしく、その訃報は飛天金剛内でも相当なショックであったという。
 たしかに関西にいたころ、愛織の可憐な見た目も相まって彼女には隠れたファンもいた。本人から直接聞いたことはないが、横峯佑も実は愛織のことを憎からず想っていたようである。伊織はにっこりわらって横峯の背中を強く叩いた。
「準々決勝、アンタらがあがってくる思てたで。あしたはよろしゅう!」
「おう──おまえ、大丈夫なんか」
「なにがどういう状況やったら大丈夫なんねん。大丈夫やろうがせやなかろうが、うちはうちでいてるしか出来ひんのやから。とにかくこの全国大会で才徳を優勝させるために全力懸けてきたんや、明日は負けてもらうで」
「それは聞けぬ相談やな。よお、大神はん」
 横峯が大神へと視線を向ける。
 ああ、と口角をあげる大神へ、挑戦的に指を差した。
「アンタ関東大会欠場したんやってな。さっきの黎明との試合は見たところ絶好調みたいやったけど、腕は鈍ってへんやろな」
「フッ。さっきの試合が絶好調に見えたのなら、飛天金剛も大した敵じゃなさそうだ」
「なにっ」
「明日、楽しみにしてるぜ」
 といって大神は宿泊旅館の方へと歩き出す。
 つられて才徳メンバーが飛天金剛メンバーへ会釈をし、そのあとに続く。さいごに残った伊織と杉山は横峯と桜庭の背をそれぞれひとつ叩き、あわててそのあとを追っていった。
 背高で物静かな雰囲気の選手がつぶやいた。
「あれが才徳、大神か──」
「な、南。言うたとおり僕のつぎくらいにはエエ男やろ」
 と桜庭が胸を張る。
 しかしそのうしろでは、眉を半分以上剃り上げた小柄な選手が桜庭をちらと見る。
「断然大神さんのがカッコえかったスけどね。コタ先輩、あんな背ェ高ないし」
「不破、あかんで……!」
「でもたすく先輩」
「まーなんにせよ、大神からしたらうちのコタは脅威ってほどやないみたいやったでェ。どないすんのォ、コタぶちょー」
 と、長い前髪の隙間から瞳を光らせるダウナーな選手がにんまりと笑みを向けた。
「…………」
 桜庭は弧を描く薄いくちびるをわなわなとふるわせて、手近に立つ横峯の肩を腹いせにどついた。うっと呻いて倒れる横峯だが、ほかの飛天金剛メンバーはいつものことかと気にもとめない。ははは、と乾いたわらいを浮かべて桜庭は拳をグッと顔の前で握りしめた。
「は──関西地区にいてるといつでも王者と崇められるんで、こういう扱いは久しぶりやったわ。さすがの世界やな」
「世界ちゃうわ全国や」とは、物静かな南。
「ふははははっ。あした才徳に勝ったら、才徳部屋の前で一晩中飛天金剛の校歌斉唱したろ!」もはや開き直る桜庭。
「いやや恥ずかしい!」顔を覆う横峯。
「そんなんされたらオレ部活辞めますわ」嫌悪感を丸出しにする不破。
「おっ、飛天の渋谷すばる」ダウナーな選手。
 と、盛り上がるすこしうしろで、飛天金剛D2を担う一年生──木村琢磨と宇賀神健太は互いに顔を見合わせてほっこりとわらった。
「はは、ボク名前キムタクやで」
「ハハハッ。関ジャニにスマップいてるやん、ヤバァ~」
 試合は、明日二十四日の午前中よりはじまる。

 ※
「明日のオーダーを発表する」
 大神と蜂谷が宿泊する部屋にて、一同はベッドに腰かける大神を囲むように各々ベッドや床に坐する。マネージャーである伊織はすでにおねむのようで、大神のうしろで半分寝かけている。わざわざ掛布団をかけてやるのだから大神も伊織には甘い。
 鏡台の椅子に腰かけていた蜂谷がノートをめくって挟んでいた紙を取り出し、立ち上がった。
 S1は大神だろ、といってオーダー表を床に広げる。
「S2は倉持。──相手は南修平みなみしゅうへい、いつでも冷静沈着なプレー運びをする選手だ。視野が広くてコントロール力が高いから振り回されないように気をつけて。まあ、倉持のフットワークとスタミナなら食らいついてゆけるとおもうけど」
「わかった」
「S3には俺、入るよ。相手は一年の不破大我ふわたいが──飛天金剛きっての逸材、って噂だ。第二、第三ラウンドを見た感じかなり強かったよ。ちょっと自信なくすくらいに」
「なに弱気になってんだ。とにかくテメー、立ち上がりは早めにいけよ」
「善処するよ。……D1に杉山、明前。相手は二年の横峯佑と浅倉巽あさくらたつみ。横峯は言わずもがな関西ではかなりのやり手で全体的なバランスもいい。浅倉はサウスポー選手で、トップスピンのショットが得意だ。サーブも強いスピンをかけてくるからリターン時は注意してくれ」
「はいよぉ」
「ッス」
 杉山と明前は拳同士をかち合わせた。
「そしてD2に姫川と星丸。相手は両方一年で、木村琢磨きむらたくま宇賀神健太うがじんけんた──」
「おい、テニス界の関ジャニ∞にキムタクがいてるぞ!」
「茶々入れんな、杉。このふたりはロブでの応酬が多いんで、フットワークはピカイチな姫川であってもなかなかポーチに出させてもらえないとおもう。相手の前衛にぶつける勢いで返球してミスを誘うのは有効だろう」
「ほーい」
「ふうん。……ま、そのあたりは大丈夫だよ。関東が終わってから今日までおれも特訓してきたから」
「期待してるよ。オーダー発表は以上だ。大神、なにか補足ある?」
 蜂谷はふたたび鏡台の椅子へ腰かけた。
 ベッドの上で片膝立てて胡坐をかいていた大神は、ふるりと首を横に振ってから一同を見わたした。

「明日からは本格的に強豪が相手となる。腑抜けた試合はするんじゃねーぞ!」

 応ッ、と。
 才徳レギュラーの声が部屋に轟いた。

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