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私は幸せになる
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「マリア、あなたはもう用済みよ。家から出ていきなさい」
報告があると言われ、お母様の寝室に向かった私はすぐに何の躊躇いもなく告げられた。
「......え?」
突然の事で理解ができず、何かの間違いであると信じて、私は理由を尋ねてみた。
「・・・理由をお聞きしてもよろしいですか?」
「理由? そんなの決まってるじゃない。あなたのお姉様がロディ王子と婚約する事になったからよ。だから、あなたがこれから家にいる意味はなくなったの」
「なる......ほど」
姉が王子と婚約するというのは聞いていたが、まさかお相手がロディ王子だとは思ってもいなかった。幼少期に私は彼と仲良くしていたので、世界は狭いなと驚きつつも腹が立った。私は大して家に貢献することはできていないが、何か悪いことをしたということも無かった。なので、そんな理由だけで追放されるという事は理解ができなかった。家から追放されるという事は爵位を失うということだ。爵位を失ってしまった貴族には価値がない。そのことを分かっていて、お母様は追放を選んだのだろう。
今までこんな薄情な親に育てられてきたんだなと思い、悲しみと同時に怒りがこみ上げてきた。
「もうすぐ王子様が屋敷に来るのよ。それまでに家を出る準備をしなさい。これから私たちは赤の他人なんだから、二度と干渉するんじゃないわよ」
放心状態の私に、母親は考える余地すら与えてくれない。どこまでも最低だ。
だが考えても追放という事実は変わらないので荷物をまとめていると、今一番出会いたくなかった人に会ってしまった。
「マリア、顔色が悪いですわ。何かあったのですか?」
「何にもありませんよ。心配しないでくださいフローラお姉様」
何があったかわかっていながら、私に話しかけてきたのだろう。本当に反吐が出る。
荷物がまとめ終わったので立ち上がると、また彼女は話しかけてきた。
「今までご苦労でしたわ。さようなら、マリア」
姉はニヤッと口角を上げ、別れを告げてきた。
「ローズ様、フローラ様、今までお世話になりました」
ここまで来ると別れられて嬉しいなと思いながら、私は別れを告げた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
私は家を出たものの、手持ちのお金は少ししかないので、とりあえず屋敷から近くのクライン王国を目指すことにした。今までだったら馬車で行けたのに......と心の中で思いながらも、私は足を動かし続けた。
数時間後、とうとう私はクライン王国に着いた。だが既に日が沈みかけていたので、今日は宿屋に泊まることにした。
「御免下さい。ここって何ベリーで泊まれますか?」
「250ベリーだよ」
300ベリーしか持っていなかったので一安心していると、思いもよらぬ言葉が返ってきた。
「お嬢ちゃん、貴族証明書確認させてくれる?」
「え......?」
「ウィンストン家とかそういうのが書いてあるやつだよ。知らないのか?」
私は思い出した。朝、母親に取り上げられたやつだと。
「今は持ってないです」
「冷やかしなら帰りな!」
宿屋から追い出されてしまった。なので他の宿屋も尋ねたが、結果は変わらなかった。
私は今まで貴族として生きてきたので知らなかったが、ここクライン王国は貴族の町で何をするにしてもたくさんのお金が必要なのだ。
倍の値段を払えば泊めてくれるのではないかと考え、ドレスを売るために質屋に向かった。
だがそこでも平民という身分が足枷になった。
「このドレス売りたいんですけど何ベリーになりますか?」
「おお実に美しい! 1500ベリーで買いましょう! それでは手続きをするので、貴族証明書を見せて下さい」
「持ってないんですけど......」
「なんだって? それなら話は変わる。150ベリーで買おう」
「わかりました......」
私は理不尽な要求を飲み、売却する。そしてまた宿屋に向かう。
「500ベリー払うので、どうか泊めてくれませんか?」
「無理なものは無理だ!」
結果は変わらず、持っていても使うことができない価値のないものだけが私には残った。
私は行く当てを無くし、彷徨った。少しすると雨が降ってきたので、寒さに震えながら私は雨が当たらない場所に移動した。
「私の人生こんなはずじゃなかった。全部あいつらのせいだ」
意識が朦朧としてきた。
「少しだけ眠ろう......」
私が目を瞑ろうとした時だった。
見たことがある男が現れた。
「マリア様、大丈夫ですか! なぜあなたがこんなひどい状態に!」
「ロディ様、私は......」
話している途中で私は意識を失った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
目を覚ますと真っ白い天井が視界に広がっていた。
「マリア様、お目覚めですか!」
私の隣に座っていたロディ王子が心配そうに叫ぶ。
「ここはどこですか......?」
「私の屋敷です」
「なんで私が貴方のお屋敷に......?」
「実は僕が本当に婚約したかったのはマリア様なんです!」
「なんで私......?」
現実を受け止め切れていない私を無視して彼は話を進める。
『実は子供の時に貴方の事が好きになって、大人になった今結婚しようと探していて
「見つけた!」と思って、婚約を申し込んだんですが、それは顔が似ているフローラ様だったんです。本当はあなたと婚約したかった!』
彼が言う通り私と姉の顔は瓜二つだ。
「私は家を追放された平民ですよ......。貴方には見合いません」
「身分なんて関係ありません! 僕は貴方、いえマリア様の事が大好きなんです! 改めて言います。 僕と結婚してください!」
「私もロディ様の事が大好きです。これからよろしくお願いします!」
「でもまずはマリア様のことを追放した家族に復讐しましょうか」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「’’元’’お母様、お姉様、お久しぶりですね」
「な、なんであんたがこの屋敷に! あなたはもう入れないはずよ!」
「こんにちは、報告が遅れましたがフローラ様との婚約は破棄させていただきます。そしてマリア様と婚約するという事になりました」
「な、なんで私との婚約が破棄になったんですか!」
「顔が似ていて間違えてしまいました。ぬか喜びさせちゃって申し訳ないです」
「フローラとの婚約破棄なんて私が認めないわ!」
「お母様、お姉様、あなたたちは王子の婚約者の私を追放したんですよ? そんな不敬なことをした貴方たちにそんな事を言う権利はありますか?」
「クライン王国、王子の私が命じる。ローズ様、フローラ様、貴方たちを不敬罪として、爵位没収と投獄とします」
そう告げた瞬間、お母様とお姉様は王子の兵士たちに拘束されて連れていかれた。去り際に何か叫んでいたが私の耳には届かなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
投獄されていた母と姉は今出所したものの、また罪を犯して捕まったらしい。
屑はどこまでいっても変わらないんだなと思った。
私は今彼とともに幸せな生活を送っている。彼が顔の違いに気付かなければ、こんな生活を送れなかった。人生何が起きるかわからないなと思いながら、私は今日も彼と同じベッドで瞳を閉じた。
報告があると言われ、お母様の寝室に向かった私はすぐに何の躊躇いもなく告げられた。
「......え?」
突然の事で理解ができず、何かの間違いであると信じて、私は理由を尋ねてみた。
「・・・理由をお聞きしてもよろしいですか?」
「理由? そんなの決まってるじゃない。あなたのお姉様がロディ王子と婚約する事になったからよ。だから、あなたがこれから家にいる意味はなくなったの」
「なる......ほど」
姉が王子と婚約するというのは聞いていたが、まさかお相手がロディ王子だとは思ってもいなかった。幼少期に私は彼と仲良くしていたので、世界は狭いなと驚きつつも腹が立った。私は大して家に貢献することはできていないが、何か悪いことをしたということも無かった。なので、そんな理由だけで追放されるという事は理解ができなかった。家から追放されるという事は爵位を失うということだ。爵位を失ってしまった貴族には価値がない。そのことを分かっていて、お母様は追放を選んだのだろう。
今までこんな薄情な親に育てられてきたんだなと思い、悲しみと同時に怒りがこみ上げてきた。
「もうすぐ王子様が屋敷に来るのよ。それまでに家を出る準備をしなさい。これから私たちは赤の他人なんだから、二度と干渉するんじゃないわよ」
放心状態の私に、母親は考える余地すら与えてくれない。どこまでも最低だ。
だが考えても追放という事実は変わらないので荷物をまとめていると、今一番出会いたくなかった人に会ってしまった。
「マリア、顔色が悪いですわ。何かあったのですか?」
「何にもありませんよ。心配しないでくださいフローラお姉様」
何があったかわかっていながら、私に話しかけてきたのだろう。本当に反吐が出る。
荷物がまとめ終わったので立ち上がると、また彼女は話しかけてきた。
「今までご苦労でしたわ。さようなら、マリア」
姉はニヤッと口角を上げ、別れを告げてきた。
「ローズ様、フローラ様、今までお世話になりました」
ここまで来ると別れられて嬉しいなと思いながら、私は別れを告げた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
私は家を出たものの、手持ちのお金は少ししかないので、とりあえず屋敷から近くのクライン王国を目指すことにした。今までだったら馬車で行けたのに......と心の中で思いながらも、私は足を動かし続けた。
数時間後、とうとう私はクライン王国に着いた。だが既に日が沈みかけていたので、今日は宿屋に泊まることにした。
「御免下さい。ここって何ベリーで泊まれますか?」
「250ベリーだよ」
300ベリーしか持っていなかったので一安心していると、思いもよらぬ言葉が返ってきた。
「お嬢ちゃん、貴族証明書確認させてくれる?」
「え......?」
「ウィンストン家とかそういうのが書いてあるやつだよ。知らないのか?」
私は思い出した。朝、母親に取り上げられたやつだと。
「今は持ってないです」
「冷やかしなら帰りな!」
宿屋から追い出されてしまった。なので他の宿屋も尋ねたが、結果は変わらなかった。
私は今まで貴族として生きてきたので知らなかったが、ここクライン王国は貴族の町で何をするにしてもたくさんのお金が必要なのだ。
倍の値段を払えば泊めてくれるのではないかと考え、ドレスを売るために質屋に向かった。
だがそこでも平民という身分が足枷になった。
「このドレス売りたいんですけど何ベリーになりますか?」
「おお実に美しい! 1500ベリーで買いましょう! それでは手続きをするので、貴族証明書を見せて下さい」
「持ってないんですけど......」
「なんだって? それなら話は変わる。150ベリーで買おう」
「わかりました......」
私は理不尽な要求を飲み、売却する。そしてまた宿屋に向かう。
「500ベリー払うので、どうか泊めてくれませんか?」
「無理なものは無理だ!」
結果は変わらず、持っていても使うことができない価値のないものだけが私には残った。
私は行く当てを無くし、彷徨った。少しすると雨が降ってきたので、寒さに震えながら私は雨が当たらない場所に移動した。
「私の人生こんなはずじゃなかった。全部あいつらのせいだ」
意識が朦朧としてきた。
「少しだけ眠ろう......」
私が目を瞑ろうとした時だった。
見たことがある男が現れた。
「マリア様、大丈夫ですか! なぜあなたがこんなひどい状態に!」
「ロディ様、私は......」
話している途中で私は意識を失った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
目を覚ますと真っ白い天井が視界に広がっていた。
「マリア様、お目覚めですか!」
私の隣に座っていたロディ王子が心配そうに叫ぶ。
「ここはどこですか......?」
「私の屋敷です」
「なんで私が貴方のお屋敷に......?」
「実は僕が本当に婚約したかったのはマリア様なんです!」
「なんで私......?」
現実を受け止め切れていない私を無視して彼は話を進める。
『実は子供の時に貴方の事が好きになって、大人になった今結婚しようと探していて
「見つけた!」と思って、婚約を申し込んだんですが、それは顔が似ているフローラ様だったんです。本当はあなたと婚約したかった!』
彼が言う通り私と姉の顔は瓜二つだ。
「私は家を追放された平民ですよ......。貴方には見合いません」
「身分なんて関係ありません! 僕は貴方、いえマリア様の事が大好きなんです! 改めて言います。 僕と結婚してください!」
「私もロディ様の事が大好きです。これからよろしくお願いします!」
「でもまずはマリア様のことを追放した家族に復讐しましょうか」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「’’元’’お母様、お姉様、お久しぶりですね」
「な、なんであんたがこの屋敷に! あなたはもう入れないはずよ!」
「こんにちは、報告が遅れましたがフローラ様との婚約は破棄させていただきます。そしてマリア様と婚約するという事になりました」
「な、なんで私との婚約が破棄になったんですか!」
「顔が似ていて間違えてしまいました。ぬか喜びさせちゃって申し訳ないです」
「フローラとの婚約破棄なんて私が認めないわ!」
「お母様、お姉様、あなたたちは王子の婚約者の私を追放したんですよ? そんな不敬なことをした貴方たちにそんな事を言う権利はありますか?」
「クライン王国、王子の私が命じる。ローズ様、フローラ様、貴方たちを不敬罪として、爵位没収と投獄とします」
そう告げた瞬間、お母様とお姉様は王子の兵士たちに拘束されて連れていかれた。去り際に何か叫んでいたが私の耳には届かなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
投獄されていた母と姉は今出所したものの、また罪を犯して捕まったらしい。
屑はどこまでいっても変わらないんだなと思った。
私は今彼とともに幸せな生活を送っている。彼が顔の違いに気付かなければ、こんな生活を送れなかった。人生何が起きるかわからないなと思いながら、私は今日も彼と同じベッドで瞳を閉じた。
応援ありがとうございます!
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結婚とかよりやることがあるような
(彼女が変えてくのかな?)
感想ありがとうございます!
今回の話はできるだけ短くまとめようと思って、色々な工程を飛ばしているんですよね…。
いずれ、飛ばしていた工程を入れて、新たに投稿しようと思っているので、その時にまた読んで貰えると嬉しいです。