悪役令嬢に転生したようですが、自由に生きようと思います。

櫻霞 燐紅

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本編

思ったよりも大変だったようです。

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久しぶりにお風呂に入ってさっぱりした私は、エミリアに手伝ってもらって着替えると、お父様とお母様の待つ応接間へ向かった。
中へ入るといつも明るいお母様までどこか神妙な面持ちで、部屋の空気もひどく重く感じられた。
けれど、私の視線はここにいるはずのない人物に釘付けになった。

「おじいさま!」

領地にいてなかなか会うことのできない祖父がいることに驚きと、会えたことが嬉しくて、そのまま駆け寄って広げられた腕の中に飛び込んだ。
いつもなら、走ったことを怒ってくるお母様が何も言ってこなかったけれど、それよりもおじい様に会えたことの方が嬉しくて、そんなことは気にならない。
おじい様は飛び込んできた私を難なく抱きとめると軽々と抱き上げて膝の上に乗せてくれた。

「レティ、寝込んでいたと聞いたけれど、もう大丈夫なのかい?」
「はい!熱もありませんし、もう元気ですわ」

心配そうに聞いてきたおじい様に私は元気いっぱいに答えた。けれど、そんな私におじい様はちょっとだけ困ったような目を向けて優しく撫でてくれる。

「ふむ。いくらデルフィスの言葉でも信じられなかったが、本当に瞳の色が変わってしまったようだのぅ」

私の顔を覗き込んでおじい様は、ふむふむと頷いている。

「とはいえ、よく見れば違うという程度だ。単に魔力が目覚めた反動で一時的に身体に変化が起きただけかもしれん。そう神経質になることでもあるまい」

両親に言い聞かせるように言う祖父の言葉の意味がわからず、私は首をかしげておじい様とその向かいに座る両親を交互に見た。

「見ろ。レティが不思議がっておる。お前たち何も説明しておらんのだろう?」

私の様子に微かに苦笑を浮かべて、おじい様は私を抱き直した。

「レティ、この国ができた頃のお話を知っておるか?」

祖父に聞かれて私は少し考えてから頷いた。
よくお母様やお兄様が寝物語に読んでくれる物語はこの国の成り立ちを子供向けにされたもので、この国の子供ならば誰でも聞いたことのあるありふれた物語だった。

「その中で、初代国王のお嫁さんになった娘の特徴を覚えているかい?」
「えっと・・・、異国の女の子で、金の髪と森と空のような目をしてた・・・?」

私の答えにうんうんとおじい様は頷いている。

「一般的には緑と青の瞳の少女だったといわれておるがの。王宮にある記録では緑と紫、青と黄色など、瞳の色はさまざまだ。髪にしても金や銀、茶など定かではない。ただ、共通して言えるのは初代国王と添い遂げた少女の外見が他とは違う、異相だったということじゃ。そして異相の持ち主は得てして強い力を持つことが多いんじゃよ」

つまり、私はその異相になってしまったから問題だということなのだろうか?けれど、瞳の色が変わってしまったとは言え、それで私の魔力とかが人よりも強いなんていう証拠にはならないだろうし、そういった人たちは生まれながらだからこそ、なのでは・・・?
おじい様の意図がわからず、私は困ったように両親を見て、もう一度おじい様を見た。

「まぁ、外見が変わらない者がまったくいないわけではないんじゃがな。病気が原因で瞳の色は変わることもある。だが、お前が寝込んでいたのは病気が原因ではないじゃろう?それに傷跡を消そうとして魔力が目覚めた。早い子ならレティと同じかそれよりも早く目覚める子もいる。が、レティほど目覚めてすぐまともに魔力を使える子はおらんのぅ。まして、普通は魔力によって塞がれた傷をさらに魔力で治すことはできんのじゃよ」

え?あの傷って魔力で塞がれてたの?

知らなかった事実に驚くが、ちょっと考えればすぐにそうであってもおかしくないことに気づく。
治癒の魔術に特化した魔術師は、魔術師全体の割合から見たら少ないが、皆無ではない。まして、私が怪我をしたのは王宮内なのだから、宮仕えの医術師がいるのは当たり前なのだから、その人たちが治療してくれていたとしてもなんら不思議は無いのである。

まして、王子様が臣下の娘を怪我させた、なんて醜聞でしかないものねぇ・・・。

そこに思い至らなかった自分に呆れつつ、おじい様の言った言葉を脳内で噛み砕いて咀嚼する。

え~と、つまり、普通なら治癒を施され塞いだ傷跡を魔力でさらに消すことはできないってわけね。
・・・何で、私できたの!?魔力が目覚めたせいで外見が変わったとかどうとかよりそっちのほうがおかしくない!
ってか、おかしいよね!
これって記憶が戻ったからとか関係あるのかしら?
・・・、だめだ、記憶が戻ったとは言っても所詮5歳児。前世の記憶なんてここと常識も理屈も別な世界のもの。持ってたところで、使えるのはいかに自分が死なない未来を選ぶかの参考にしかならないわけで、今ここでこの状況のことを考えても埒があかない。

「眉間に皺がよっとるぞ」

膝の上に座ったまま、うんうん唸りだしてしまった私におじい様は眉間の皺を伸ばすようにぐりぐりとしてきた。

い、痛い・・・。おじい様としてはこれでも手加減してるんだろうけど、それでも痛い。

「なに、異相になるのも魔力が強いのも悪いわけじゃない。ただ、神殿に巫女として仕えろと強要されかねないのと、王族以外との結婚が難しくなるというだけの話だ」

おじい様の言葉に私はそのままフリーズした。

え?今、なんておっしゃいました?
神殿に仕えるか、王族と結婚?
・・・・・・・・。
冗談じゃない!
第二王子に結婚を迫られたくなくて、怪我を治したのに何でそんなことになるのよ?!
そのまま固まってしまった私におじい様は、はっはっはっと何でもないことの様に笑っていらっしゃる。

いや、笑い事じゃないから!
王子様と結婚もイヤだけど、神殿に仕えるのもイヤだし!
なんか、規律とか戒律とか厳しそうだし!
そんなの精神は年食ってても5歳児の幼子には無理です!
っていうか、幾つだったとしてもそんなもの遠慮します!

思ったままを吐き出しそうになったのをなんとか、押しとどめて、私は瞳を潤ませながらおじい様を見上げる。

「おじいさま、私、しんでんも王子様とけっこんするのも、いやです」

へにゃん、と今にも泣きそうになりながらおじい様に訴えました。

一応、断っておくとこの表情は計算じゃないですよ。
いくら戻った記憶がアラサーのモノだとしたって、所詮ここではまだ5歳児も子供です。
感情をうまく隠すことなんてできません。
まして、まだ精神と身体がちぐはぐな感じがしますし・・・。こればかりはこれから徐々に慣れていかなければいけないのでしょうけど・・・。

そんな私におじい様は、よしよしと頭を撫でてくれます。
ちなみに両親は後ろで頭を抱えるようにしています。
おそらく、お兄様から話を聞いて私が王子様と結婚したくないのをなんとなく察していたのではないでしょうか。
そして、王族と結婚したくないらしい娘を、だからと言って神殿に預けるのは親としては避けたい、というところでしょうか?
まぁ、これでも貴族ですから娘の結婚は色々と使えたりもしますし・・・。
なら、王子に嫁がせればいいじゃないか、となりそうですがどうもそう簡単な話ではないようです。
きっと派閥だとか色々なしがらみがあるんでしょうね。
あくまで憶測ですけど。だって私にそんな政治の事なんかわかるわけありませんもん。
けど、小説や漫画にそういう設定あったりするから、そんな感じなのかな、と。

いや、ちょっと話が逸れました。
問題は、私の今後です、今後。
まさか5歳で身の振り方を決めなければならないなんて・・・。なんて無茶苦茶な世界なんでしょう。

「そうか、そうか。なら、いっそ隣国にでも逃げるか?」

はい?

「父さん!?」
「お義父様!?」
「おじい様!?」

あ、三人の声が揃った。って、違う。りんごく?隣国って何ですか?まさかの亡命!

「まぁ、それは冗談だ。わしも可愛い孫を遠くにやりたくはないからのぅ」

三人の反応におじい様は楽しそうに笑っております。
いや、それこのタイミングでいう冗談ですか!?笑えないんですけど!

「ハイドライド殿下の件はともかく、神殿から逃れるくらいはできるじゃろうよ。大体、過去にもそういう話はいくらでもあるしのぅ」

そう言っておじい様は私の首に子供が付けるには大きめなネックレスを掛けてくれました。
月長石(ムーンストーン)でしょうか?いえ、光の具合で青くも輝くので、ブルームーンストーンかも。
思わず手にとって見ていると石から何かが流れこんでくるような感じがします。
不思議に思っておじい様を見上げると、おじい様は私に何が起きているのかわかっているのでしょう。
うんうん、と満足気に頷いています。それに問うような目を向ければ、おじい様はまた私の頭をわしゃわしゃと撫でてくれました。
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