1 / 23
1
しおりを挟む
ふと、目を覚ますと、視界に自分のものとは違う髪の色が入ってきた。
白いシーツの上に広がるのは濃い蜂蜜を思わせる金と闇夜を思わせる漆黒の髪。
自分に寄り添うようにしている相手に目をやれば、伏せられた瞼に、髪と同じ金の長い睫、肌理の細かく美しい白い肌に、薄い唇。
まるで陶磁器人形の様に美しい顔がこちらを向いて、小さく寝息を立てていた。
気持ちよさそうに寝ている相手を眺めながら、今自分が置かれている状況を思い出そうとする。
・・・確か酔っ払いに絡まれてたところを助けたはず。
そのまま別れうようとしたら、後をつけられたら怖いから、と半ば強引に宿泊しているという宿に連れてこられたのだ。
そこまでは思い出すことが出来たが、何故自分まで同じベッドに寝ていたのかが思い出せない。
起こしてしまわないようにそっとベッドから抜け出す。カーテンの隙間から外を見ればまだ日は昇りきっておらず、街は未だ眠りに包まれていた。
ベッドの中で相手が身じろいだ気配に振り返れば、起きたわけではなく、寝返りをうっただけだったようだ。さらけ出された肩にそっと上掛けを掛けてやると、改めて自分の姿を確認する。
下はきちんと穿いているがシャツはほとんどのボタンが外され肌が露出していた。胸元だけではなく目につく所に散った赤い痕に思い切り顔を顰める。
なんでこんなことになったのか。よく覚えていないが(昨夜はだいぶ酒が入っていた)、自分からしたわけではないと思いたい。
思考がいまいちしっかりしないのは酒に酔ったときに似ているが、二日酔いとは違う気だるさがあった。もしかしたら薬でも盛られたのだろうか。
しかし、事後の痕跡は無く、あるのは自分の肌に散った赤い痕だけだった。
取り合えず、一線を越えてはいないのだけは確かだ、と自分に言い聞かせ、乱れた衣服を整えると、そのまま部屋を出ようとした。
「・・・ん」
ふと、相手が起きた気配を感じドアノブに手をかけたまま振り返る。
「お目覚めですか?お嬢さん」
「あ・・・」
起き上がった、相手の身体から上掛けが滑り落ち、上半身が朝の冷たい空気に晒された。
早朝の空気に晒された肌が粟立ち、肌を滑り落ちた上掛けを引き寄せるのを見ながら静かに続ける。
「お迎えを呼んでおきますので、それまでに出れるようにしていてくださいね?」
慇懃にさえ聞こえる声でそういうと、部屋を後にした。相手は何も言わない。
あるいは、何も言えないのか。
ただ、その部屋を去っていく自分の背中を見つめているのだけは感じた。
白いシーツの上に広がるのは濃い蜂蜜を思わせる金と闇夜を思わせる漆黒の髪。
自分に寄り添うようにしている相手に目をやれば、伏せられた瞼に、髪と同じ金の長い睫、肌理の細かく美しい白い肌に、薄い唇。
まるで陶磁器人形の様に美しい顔がこちらを向いて、小さく寝息を立てていた。
気持ちよさそうに寝ている相手を眺めながら、今自分が置かれている状況を思い出そうとする。
・・・確か酔っ払いに絡まれてたところを助けたはず。
そのまま別れうようとしたら、後をつけられたら怖いから、と半ば強引に宿泊しているという宿に連れてこられたのだ。
そこまでは思い出すことが出来たが、何故自分まで同じベッドに寝ていたのかが思い出せない。
起こしてしまわないようにそっとベッドから抜け出す。カーテンの隙間から外を見ればまだ日は昇りきっておらず、街は未だ眠りに包まれていた。
ベッドの中で相手が身じろいだ気配に振り返れば、起きたわけではなく、寝返りをうっただけだったようだ。さらけ出された肩にそっと上掛けを掛けてやると、改めて自分の姿を確認する。
下はきちんと穿いているがシャツはほとんどのボタンが外され肌が露出していた。胸元だけではなく目につく所に散った赤い痕に思い切り顔を顰める。
なんでこんなことになったのか。よく覚えていないが(昨夜はだいぶ酒が入っていた)、自分からしたわけではないと思いたい。
思考がいまいちしっかりしないのは酒に酔ったときに似ているが、二日酔いとは違う気だるさがあった。もしかしたら薬でも盛られたのだろうか。
しかし、事後の痕跡は無く、あるのは自分の肌に散った赤い痕だけだった。
取り合えず、一線を越えてはいないのだけは確かだ、と自分に言い聞かせ、乱れた衣服を整えると、そのまま部屋を出ようとした。
「・・・ん」
ふと、相手が起きた気配を感じドアノブに手をかけたまま振り返る。
「お目覚めですか?お嬢さん」
「あ・・・」
起き上がった、相手の身体から上掛けが滑り落ち、上半身が朝の冷たい空気に晒された。
早朝の空気に晒された肌が粟立ち、肌を滑り落ちた上掛けを引き寄せるのを見ながら静かに続ける。
「お迎えを呼んでおきますので、それまでに出れるようにしていてくださいね?」
慇懃にさえ聞こえる声でそういうと、部屋を後にした。相手は何も言わない。
あるいは、何も言えないのか。
ただ、その部屋を去っていく自分の背中を見つめているのだけは感じた。
0
あなたにおすすめの小説
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです
みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。
時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。
数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。
自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。
はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。
短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました
を長編にしたものです。
行き場を失った恋の終わらせ方
当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」
自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。
避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。
しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……
恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。
※他のサイトにも重複投稿しています。
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
魔法使いとして頑張りますわ!
まるねこ
恋愛
母が亡くなってすぐに伯爵家へと来た愛人とその娘。
そこからは家族ごっこの毎日。
私が継ぐはずだった伯爵家。
花畑の住人の義妹が私の婚約者と仲良くなってしまったし、もういいよね?
これからは母方の方で養女となり、魔法使いとなるよう頑張っていきますわ。
2025年に改編しました。
いつも通り、ふんわり設定です。
ブックマークに入れて頂けると私のテンションが成層圏を超えて月まで行ける気がします。m(._.)m
Copyright©︎2020-まるねこ
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。
香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。
皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。
さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。
しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。
それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる