2 / 23
2
しおりを挟む
王宮の一角。
開けたその場所では男たちの大きな声を模擬刀や刃潰しされた剣が交わる音が響いていた。
その中を縫うように歩きながら、周りの様子に目を配る騎士に仲間の1人が声をかける。
「フォル、お前とうとう男になったんだって?」
そう言って、フォルと呼ばれた細身の騎士の肩に別の仲間の騎士が腕を回す。
「聞いたぜ?一昨日、悪漢に襲われた美女を助けてそのままお持ち帰りしたんだろ?」
「どうだったよ?初めての女は?」
そう言ってからかってくる仲間で腕をフォルは捻り上げた。
「いででででっ」
「馬鹿だなぁ。フォルをからかう時は少し離れたところからにしとかなきゃ駄目だろ」
腕を捻られて痛がる仲間を尻目にそう言った仲間の足元にはナイフが突き刺さった。
「あっぶねぇ!お前は仲間の足を駄目にする気か!」
「馬鹿はお前たちだ!腕立てと腹筋1000回ずつ追加するぞ!」
「これ以上増やされたらこの後の任務に支障出るだろうが!」
「こらこら、訓練中にふざけるものじゃないよ。それと、年下でもフォルは君らの上司なんだから、からかって遊ぶものでもないね。ってことで、ロイとトールは罰として宿舎の掃除を手伝うように」
逃げようとした仲間、ロイとトールの襟首を捕まえた相手はにこやかに二人に罰を伝える。
「げっ、隊長!」
「だったらまだ訓練増やされたほうがマシですよ!」
「そうかい?じゃあ、フォルの課した訓練に追加で500回ずつね。さぁ、早くやら無いと午後からここを使う隊に迷惑がかかるよ」
そう言って、「鬼!」「鬼畜!」と叫びながら離れていく二人を急かす。
「・・・で?実際はどうなんだい?」
二人を見送り、他の訓練している仲間の邪魔にならないように壁際に寄ったところで、そう聞かれて、フォルば自分よりも頭一つ半は背の高い相手を見上げる。
ハロルド・フロックス。近衛第三部隊の隊長でフォルの直属の上司に当たる彼は、男臭くて嫌煙されがちな騎士団の中、女性人気の高い近衛騎士団の中でも特に女性から人気のある騎士の1人でもある。
これでも騎士団の団長であるからその実力はもちろんだが、その甘いマスクと柔和な物腰、それに伯爵家の嫡男でありながら未だに婚約者がいないのも女性が放っておかない理由だろう。
そんな自分よりまぁまぁ年上な上司に聞かれて、フォルは呆れの混じった声を上げる。
「実際も何も、持ち帰ったりなんてしてませんよ。暴漢に襲われていた方を助けて宿まで送り届けただけです。大体、私が・・・」
「フォルーーーー!!」
フォルの声を遮るように響いた声にフォルだけでなく、訓練中の騎士たちも動きを止めて声のした入り口の方へ目を向ける。しかし、そこにいる人物を確認すると早々に騎士たちは訓練を再開した。
入り口でフォルの名前を叫んだ人物はしばしキョロキョロを辺りを見回すと、お目当てを見つけたと言わんばかりにフォルへ向かって駆け出すと体当たりする勢いで抱きつく。
「フォル、貴方がお嫁さんを貰うなんて嘘よね!」
そう言って、ぎゅうぎゅうと自分に回した腕を締め付けてくる相手にフォルは頭を抱えたくなった。
「姫、アナスタシア姫、落ち着いてください」
そう言って、自分に抱きついてきた少女、この国の第三王女であるアナスタシアを宥めるようにフォルはその小さな背中をぽんぽんと軽くたたいてやる。それに、フォルの胸に顔を埋めていたアナスタシアは顔を上げた。
白い肌に、ふんわりとした蜂蜜を溶かしたような金の髪、髪と同じ色の睫は長く、大きく円らな琥珀のようなブラウンの瞳、走ってきたからかその頬は上気し、うっすらと染まっていた。
「私は嫁を貰ったりはしませんよ。一体誰にそんなことを聞いたんです?」
「本当に?フォルがなかなか会いに来てくれないから、会いに来たんだけど、そうしたら他の騎士たちが『フォルが女をお持ち帰りしたらしいから、とうとう嫁を貰うんじゃないか』って話しているのを聞いてしまったの・・・」
そう言って、抱きついたまましょんぼりと下を向いてしまったアナスタシアの様子にフォルと姫付の侍女で彼女と一緒に来た二人が周りの騎士たちに冷ややかな視線を向ける。
今年15歳になるとはいえ、箱入りの姫君になんて事を聞かせるのか。フォルと侍女たちの視線から逃げるように騎士たちは訓練に集中しているフリをしている。
フォルはそんな仲間たちを取り合えず放っておくことにして、アナスタシアの腕を自分の腰から外させると跪き彼女と視線を合わせる。
「姫、奴らが何を言ったのかは知りませんが、私がお嫁さんを貰うことはありませんよ。元々結婚する気はありませんし、もしすることになったとしても、貰うのではなく、私が嫁ぐ方ですからね。私は女ですから」
「そういえばそうよね。フォルは強いし格好良いから、つい女性だって忘れてしまってたわ」
機嫌が直ったのか、そう言ってアナスタシアはコロコロと笑った。
そんなアナスタシアに、もう部屋を戻るように促し、侍女たちに彼女を任せた。
「モテる奴は大変だね」
「・・・お前に言われたくないけどね。むしろお前がさっさと嫁貰えよ。侯爵も嘆いてるんじゃないですか?」
「まぁね。でも、私と違って弟は婚約者ともうまくいっているようだし、無理に私が結婚して継がなくても問題はないよ。それに私はこの仕事を気に入っているから辞めてまで爵位を継ぎたいとも思わないんだよね」
その言葉にフォルは、はぁ、と、ため息をついた。
開けたその場所では男たちの大きな声を模擬刀や刃潰しされた剣が交わる音が響いていた。
その中を縫うように歩きながら、周りの様子に目を配る騎士に仲間の1人が声をかける。
「フォル、お前とうとう男になったんだって?」
そう言って、フォルと呼ばれた細身の騎士の肩に別の仲間の騎士が腕を回す。
「聞いたぜ?一昨日、悪漢に襲われた美女を助けてそのままお持ち帰りしたんだろ?」
「どうだったよ?初めての女は?」
そう言ってからかってくる仲間で腕をフォルは捻り上げた。
「いででででっ」
「馬鹿だなぁ。フォルをからかう時は少し離れたところからにしとかなきゃ駄目だろ」
腕を捻られて痛がる仲間を尻目にそう言った仲間の足元にはナイフが突き刺さった。
「あっぶねぇ!お前は仲間の足を駄目にする気か!」
「馬鹿はお前たちだ!腕立てと腹筋1000回ずつ追加するぞ!」
「これ以上増やされたらこの後の任務に支障出るだろうが!」
「こらこら、訓練中にふざけるものじゃないよ。それと、年下でもフォルは君らの上司なんだから、からかって遊ぶものでもないね。ってことで、ロイとトールは罰として宿舎の掃除を手伝うように」
逃げようとした仲間、ロイとトールの襟首を捕まえた相手はにこやかに二人に罰を伝える。
「げっ、隊長!」
「だったらまだ訓練増やされたほうがマシですよ!」
「そうかい?じゃあ、フォルの課した訓練に追加で500回ずつね。さぁ、早くやら無いと午後からここを使う隊に迷惑がかかるよ」
そう言って、「鬼!」「鬼畜!」と叫びながら離れていく二人を急かす。
「・・・で?実際はどうなんだい?」
二人を見送り、他の訓練している仲間の邪魔にならないように壁際に寄ったところで、そう聞かれて、フォルば自分よりも頭一つ半は背の高い相手を見上げる。
ハロルド・フロックス。近衛第三部隊の隊長でフォルの直属の上司に当たる彼は、男臭くて嫌煙されがちな騎士団の中、女性人気の高い近衛騎士団の中でも特に女性から人気のある騎士の1人でもある。
これでも騎士団の団長であるからその実力はもちろんだが、その甘いマスクと柔和な物腰、それに伯爵家の嫡男でありながら未だに婚約者がいないのも女性が放っておかない理由だろう。
そんな自分よりまぁまぁ年上な上司に聞かれて、フォルは呆れの混じった声を上げる。
「実際も何も、持ち帰ったりなんてしてませんよ。暴漢に襲われていた方を助けて宿まで送り届けただけです。大体、私が・・・」
「フォルーーーー!!」
フォルの声を遮るように響いた声にフォルだけでなく、訓練中の騎士たちも動きを止めて声のした入り口の方へ目を向ける。しかし、そこにいる人物を確認すると早々に騎士たちは訓練を再開した。
入り口でフォルの名前を叫んだ人物はしばしキョロキョロを辺りを見回すと、お目当てを見つけたと言わんばかりにフォルへ向かって駆け出すと体当たりする勢いで抱きつく。
「フォル、貴方がお嫁さんを貰うなんて嘘よね!」
そう言って、ぎゅうぎゅうと自分に回した腕を締め付けてくる相手にフォルは頭を抱えたくなった。
「姫、アナスタシア姫、落ち着いてください」
そう言って、自分に抱きついてきた少女、この国の第三王女であるアナスタシアを宥めるようにフォルはその小さな背中をぽんぽんと軽くたたいてやる。それに、フォルの胸に顔を埋めていたアナスタシアは顔を上げた。
白い肌に、ふんわりとした蜂蜜を溶かしたような金の髪、髪と同じ色の睫は長く、大きく円らな琥珀のようなブラウンの瞳、走ってきたからかその頬は上気し、うっすらと染まっていた。
「私は嫁を貰ったりはしませんよ。一体誰にそんなことを聞いたんです?」
「本当に?フォルがなかなか会いに来てくれないから、会いに来たんだけど、そうしたら他の騎士たちが『フォルが女をお持ち帰りしたらしいから、とうとう嫁を貰うんじゃないか』って話しているのを聞いてしまったの・・・」
そう言って、抱きついたまましょんぼりと下を向いてしまったアナスタシアの様子にフォルと姫付の侍女で彼女と一緒に来た二人が周りの騎士たちに冷ややかな視線を向ける。
今年15歳になるとはいえ、箱入りの姫君になんて事を聞かせるのか。フォルと侍女たちの視線から逃げるように騎士たちは訓練に集中しているフリをしている。
フォルはそんな仲間たちを取り合えず放っておくことにして、アナスタシアの腕を自分の腰から外させると跪き彼女と視線を合わせる。
「姫、奴らが何を言ったのかは知りませんが、私がお嫁さんを貰うことはありませんよ。元々結婚する気はありませんし、もしすることになったとしても、貰うのではなく、私が嫁ぐ方ですからね。私は女ですから」
「そういえばそうよね。フォルは強いし格好良いから、つい女性だって忘れてしまってたわ」
機嫌が直ったのか、そう言ってアナスタシアはコロコロと笑った。
そんなアナスタシアに、もう部屋を戻るように促し、侍女たちに彼女を任せた。
「モテる奴は大変だね」
「・・・お前に言われたくないけどね。むしろお前がさっさと嫁貰えよ。侯爵も嘆いてるんじゃないですか?」
「まぁね。でも、私と違って弟は婚約者ともうまくいっているようだし、無理に私が結婚して継がなくても問題はないよ。それに私はこの仕事を気に入っているから辞めてまで爵位を継ぎたいとも思わないんだよね」
その言葉にフォルは、はぁ、と、ため息をついた。
0
あなたにおすすめの小説
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです
みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。
時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。
数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。
自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。
はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。
短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました
を長編にしたものです。
行き場を失った恋の終わらせ方
当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」
自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。
避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。
しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……
恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。
※他のサイトにも重複投稿しています。
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
魔法使いとして頑張りますわ!
まるねこ
恋愛
母が亡くなってすぐに伯爵家へと来た愛人とその娘。
そこからは家族ごっこの毎日。
私が継ぐはずだった伯爵家。
花畑の住人の義妹が私の婚約者と仲良くなってしまったし、もういいよね?
これからは母方の方で養女となり、魔法使いとなるよう頑張っていきますわ。
2025年に改編しました。
いつも通り、ふんわり設定です。
ブックマークに入れて頂けると私のテンションが成層圏を超えて月まで行ける気がします。m(._.)m
Copyright©︎2020-まるねこ
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。
香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。
皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。
さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。
しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。
それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる