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それにしても、どこかで見た気がする。
そう思って失礼にならない程度に相手の顔を見る。
アナスタシアと似た色彩の髪と瞳。この国の王族は金髪に程度の差は有れど黄…、いや金と言っても差し障りない光彩の瞳を持っている。なので、今目の前にいる青年も王族と近しい血縁者なのだろう。
「それで、私に何かご用でしょうか?」
どこで見たのかは置いておいて、自分を探していたらしい彼に、とりあえず用向きを聞くことにした。
「あぁ、アナスタシア様がご執心だと言う騎士がいると聞いて、どんな男かと思ったのでね。アナスタシア様が用があるので部屋に来てほしいと、使いを出すと言うから私が呼びにいこう、となったんだよ。でも、まさか女性とは思わなかった」
そう言って、青年はふわりと笑った。
美男子の笑顔と言うのはそれだけで破壊力がすごいな、と思った。
普段から上司であるハロルドを見慣れているが、それでも思わずドキッとしてしまう。
ハロルドとは違い、どこか冷たい印象を与える美貌の青年が微笑んだ途端その印象は薄れるのだから、免疫のない女性が見たら、勘違いしてしまいそうな笑顔だった。
「愛称が男性のような愛称ですからね。よく間違えられるんですよ。私はフォルティナ・リモニウムです」
「あぁ、こちらこそ名も名乗らずにすまなかったね。私はクラウス。クラウス・デルフィニウスだ」
「デルフィニウス公爵様だったのですね」
青年の自己紹介に、フォルティナは改めて自分より目上の者に対する礼を取る。隣りにいて二人のやり取りを傍観していたロイも同じように礼を取っていた。
「ところで、リモニウム嬢をお借りしても?年の離れた従妹殿が彼女に用があるようなのでね」
そう言ってフォルティナの隣りにいるロイを見やれば彼は、どうぞ、どうぞ、というように何度も大きく頷いている。
「それでは、私たちはこれで失礼します!」
そう言って、ロイは少し離れたところで待っていた仲間たちのところへ急いで戻って行った。
「リモニウム嬢。では、行こうか」
「はい。それと、申し訳ないのですが、そのリモニウム嬢、と言うのはやめていただいてもいいですか?」
「なぜ?」
「呼びなれていないので、変な感じがするもので・・・」
クラウスに促され歩きだしてすぐにフォルティナは彼にその呼び方をやめてくれるように頼んだ。普段、周りから『フォル』と愛称で呼ばれることが多く、家名で呼ばれるのは公式の場でだけなので違和感が拭えない。それに更に慣れていない女性呼びでは気恥かしくて仕方ない、と、言うのもあった。
「わかったよ。じゃぁ、フォルティナ、でいいかな?」
そんなフォルティナの内心を知ってか知らずか、クラウスはすぐに彼女の言葉を受け入れた。そのまま二人は当たり障りのない会話をしつつ、アナスタシアの部屋を訪れた。
ノックするとすぐに顔見知りの侍女が応対してくれる。
「お待ちしておりました、デルフィニウス様、フォル様」
そう言って二人を応接室へ通す。
「お待ちしてましたわ、クリス兄様、フォル!」
二人が部屋に入ると嬉しそうにアナスタシアが二人に駆け寄ってくる。
部屋の中にはアナスタシアと応対に出た侍女とその他にアナスタシア付きの侍女が二人、それとは別に服飾店のデザイナーと思われる老婦人とその助手らしい女性が二人いた。
狭くはないはずの部屋の中には所狭しと色々な色、素材の布が広げられている。
おそらくは、王家主催で行われる夜会の為のドレスの打ち合わせの最中なのだろう。
今回の夜会ではクラウスの帰還祝いと共にアナスタシアの社交界デビューの意味合いもあるから彼女も彼女たちの侍女も気合が入っているようだった。今後は王家主催の夜会だけではなく高位貴族の夜会やお茶会などにも顔を出す機会が増えるだろう。そうは言ってもアナスタシアは王族。彼女を呼べる夜会やお茶会がそうそうあるわけもないだろうから、お茶会に関しては彼女の母親である王妃様の主催か、アナスタシアが主催したものになるだろうが・・・。お茶会は貴族女性たちの情報交換の場でもあるから、参加しないことで足元を掬われないよう、また、微笑みの裏に隠された真意を汲みとらなければならないから、そういう意味ではお茶会も夜会も女性の戦場とも言えるだろう。
フォルティナ自身はそういった駆け引きよりも戦場での命のやり取りの方が性に合ってるため、伯爵令嬢ではあるけれど、デビューを済ませた後はほとんど夜会にもお茶会にも顔を出したことはなかった。(王妃やすでに結婚して国を出ている第一、第二王女の護衛としてなら、その場に赴いたことはあるが)
そもそも、フォルティナが社交界デビューを迎えた年は隣国との戦争の最中であったので大規模な夜会は自粛されていたのもある。
王都にこそ戦禍はなかったが、フォルティナの家が治めるリモニウム領はその隣国との国境に位置し、辺境伯である父はリモニウム領の騎士団と王都騎士団を率いて剣を交えていたし、フォルティナ自身も幼い身でその戦火に身を投じていた。
その時の功績と、王妃や王女の私的な空間での護衛がしやすい女であることが買われ、近衛に配属され、今では21歳にして第二部隊の副隊長なのだから、大出世していると言えるだろう
そう思って失礼にならない程度に相手の顔を見る。
アナスタシアと似た色彩の髪と瞳。この国の王族は金髪に程度の差は有れど黄…、いや金と言っても差し障りない光彩の瞳を持っている。なので、今目の前にいる青年も王族と近しい血縁者なのだろう。
「それで、私に何かご用でしょうか?」
どこで見たのかは置いておいて、自分を探していたらしい彼に、とりあえず用向きを聞くことにした。
「あぁ、アナスタシア様がご執心だと言う騎士がいると聞いて、どんな男かと思ったのでね。アナスタシア様が用があるので部屋に来てほしいと、使いを出すと言うから私が呼びにいこう、となったんだよ。でも、まさか女性とは思わなかった」
そう言って、青年はふわりと笑った。
美男子の笑顔と言うのはそれだけで破壊力がすごいな、と思った。
普段から上司であるハロルドを見慣れているが、それでも思わずドキッとしてしまう。
ハロルドとは違い、どこか冷たい印象を与える美貌の青年が微笑んだ途端その印象は薄れるのだから、免疫のない女性が見たら、勘違いしてしまいそうな笑顔だった。
「愛称が男性のような愛称ですからね。よく間違えられるんですよ。私はフォルティナ・リモニウムです」
「あぁ、こちらこそ名も名乗らずにすまなかったね。私はクラウス。クラウス・デルフィニウスだ」
「デルフィニウス公爵様だったのですね」
青年の自己紹介に、フォルティナは改めて自分より目上の者に対する礼を取る。隣りにいて二人のやり取りを傍観していたロイも同じように礼を取っていた。
「ところで、リモニウム嬢をお借りしても?年の離れた従妹殿が彼女に用があるようなのでね」
そう言ってフォルティナの隣りにいるロイを見やれば彼は、どうぞ、どうぞ、というように何度も大きく頷いている。
「それでは、私たちはこれで失礼します!」
そう言って、ロイは少し離れたところで待っていた仲間たちのところへ急いで戻って行った。
「リモニウム嬢。では、行こうか」
「はい。それと、申し訳ないのですが、そのリモニウム嬢、と言うのはやめていただいてもいいですか?」
「なぜ?」
「呼びなれていないので、変な感じがするもので・・・」
クラウスに促され歩きだしてすぐにフォルティナは彼にその呼び方をやめてくれるように頼んだ。普段、周りから『フォル』と愛称で呼ばれることが多く、家名で呼ばれるのは公式の場でだけなので違和感が拭えない。それに更に慣れていない女性呼びでは気恥かしくて仕方ない、と、言うのもあった。
「わかったよ。じゃぁ、フォルティナ、でいいかな?」
そんなフォルティナの内心を知ってか知らずか、クラウスはすぐに彼女の言葉を受け入れた。そのまま二人は当たり障りのない会話をしつつ、アナスタシアの部屋を訪れた。
ノックするとすぐに顔見知りの侍女が応対してくれる。
「お待ちしておりました、デルフィニウス様、フォル様」
そう言って二人を応接室へ通す。
「お待ちしてましたわ、クリス兄様、フォル!」
二人が部屋に入ると嬉しそうにアナスタシアが二人に駆け寄ってくる。
部屋の中にはアナスタシアと応対に出た侍女とその他にアナスタシア付きの侍女が二人、それとは別に服飾店のデザイナーと思われる老婦人とその助手らしい女性が二人いた。
狭くはないはずの部屋の中には所狭しと色々な色、素材の布が広げられている。
おそらくは、王家主催で行われる夜会の為のドレスの打ち合わせの最中なのだろう。
今回の夜会ではクラウスの帰還祝いと共にアナスタシアの社交界デビューの意味合いもあるから彼女も彼女たちの侍女も気合が入っているようだった。今後は王家主催の夜会だけではなく高位貴族の夜会やお茶会などにも顔を出す機会が増えるだろう。そうは言ってもアナスタシアは王族。彼女を呼べる夜会やお茶会がそうそうあるわけもないだろうから、お茶会に関しては彼女の母親である王妃様の主催か、アナスタシアが主催したものになるだろうが・・・。お茶会は貴族女性たちの情報交換の場でもあるから、参加しないことで足元を掬われないよう、また、微笑みの裏に隠された真意を汲みとらなければならないから、そういう意味ではお茶会も夜会も女性の戦場とも言えるだろう。
フォルティナ自身はそういった駆け引きよりも戦場での命のやり取りの方が性に合ってるため、伯爵令嬢ではあるけれど、デビューを済ませた後はほとんど夜会にもお茶会にも顔を出したことはなかった。(王妃やすでに結婚して国を出ている第一、第二王女の護衛としてなら、その場に赴いたことはあるが)
そもそも、フォルティナが社交界デビューを迎えた年は隣国との戦争の最中であったので大規模な夜会は自粛されていたのもある。
王都にこそ戦禍はなかったが、フォルティナの家が治めるリモニウム領はその隣国との国境に位置し、辺境伯である父はリモニウム領の騎士団と王都騎士団を率いて剣を交えていたし、フォルティナ自身も幼い身でその戦火に身を投じていた。
その時の功績と、王妃や王女の私的な空間での護衛がしやすい女であることが買われ、近衛に配属され、今では21歳にして第二部隊の副隊長なのだから、大出世していると言えるだろう
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