女騎士の受難?

櫻霞 燐紅

文字の大きさ
5 / 23

しおりを挟む
「クリス兄様は、どの色がフォルに似合うと思います!?」
 アナスタシアや侍女たちが仕立て屋と共にどの色がいいとかどんなデザインがいいなどのやり取りを他人事のように穏やかに見つめていたら、同じように彼女たちのやり取りを見ていたクラウスの手を引き広げられた布を示しながらアナスタシアは興奮気味に問いかけた。
 その言葉にフォルティナは驚きに表情を固める。
「ひ、姫?私は舞踏会には参加しませんよ?」
 クラウスにフォルティナのドレスの色を問うアナスタシアにそう伝えれば彼女はきょとんとしてフォルティナ見上げる。
「?フォルも私と一緒に夜会に出るのよね?」
「はい。ですがそれは護衛としてですので。当日は近衛騎士の正装でお側に控える予定です」
 会場に行きはするがそれはあくまでも護衛としてだと伝えれば、アナスタシアは首をかしげる。
「だったらドレスでもいいと思わない?私、フォルのドレス姿が見たくて昨夜お父様とお兄様にお願いしたのよ」
 褒めて、と言わんばかりににっこりとアナスタシアはそう言った。その言葉にフォルティナの方は嫌な予感を覚える。
「お二人にフォルのドレス姿が見たいってお願いしたら、私のドレスを作るときにフォルのドレスも作って良いっておっしゃったの!だから、今日は私とフォルの衣装の打ち合わせなのよ」
「で、ですが、私にはエスコートしてくれる方がおりませんから。父は母と出席しますし、兄も先日やっと婚約が決まりましたら頼むわけにもまいりませんし・・・」
 遠回しに暗に出たくないと伝えたつもりだったが、アナスタシアはそんなこと、と笑った。
「大丈夫よ。フォルはクリス兄様にエスコートしていただけばいいわ。私はお兄様にエスコートしていただけることになったから」
 それともやっぱり迷惑だったかしら?と、しゅんとなって言われてしまってはフォルティナとしてはそれ以上断ることが出来ない、と渋々頷く他無かった。
 そんな主従のやり取りを見ながらクラウスは小さく声を漏らして笑った。
「可愛いお姫様には誰も勝てないみたいだね」
「はぁ、そのようですね」
 クラウスの言葉にフォルティナは諦めたように同意した。
「それで、小さなお嬢さんリトル・レディ当初予定では君のエスコートは、私だったはずだけど、舞踏会では私と踊ってくれないのかな?」
「そんなことないわ!私もダンスに誘ってくださいね?」
 クラウスのからかうような言葉にアナスタシアは慌てて言い募り、小首を傾げておねだりをしていた。
「フォルも私と踊ってね?私、今度の舞踏会の為に頑張って練習したんだから!」
「アナスタシア様、その日私はドレスを着るんですよね?」
「そうよ!でも、良いじゃない!フォルは男性パートも踊れるんでしょう?もうデビューを済ませているお友達が言っていたわ。フォルと踊るのはとても楽しいって!私、皆さまが羨ましくって仕方なかったの!」
「それでしたら、私は騎士服の方がよろしいのでは?」
「嫌よ!フォルが強いだけじゃなくて美人なんだってことも皆に自慢したいんだもの!皆、フォルのこと男装の麗人なんて言ってるけど、フォルは男装してなくたって綺麗だし、普段の恰好じゃわからないけど、スタイルだっ・・・」
「姫様!それよりもフォル様のドレスの色を選びましょう!」
 フォルティナの体型にまで言及しようとしたアナスタシアの言葉を彼女の侍女が慌てて遮る。フォルティナとしても仕立て屋はともかく、男性であるクラウスの前でそのような話はされたくなかったので、侍女の言葉に乗ることにした。
 クラウスはそんなやり取りにまた笑いを堪えているのだろう。その肩が小刻みに動いていることをフォルティナは見逃さなかった。

 その後、アナスタシアのドレスの色はデビュタントに相応しいようにと光の加減で淡い薄紅に見える白に。フォルティナの方は彼女の瞳に合わせて紫がかった青に決まった。その他にもアナスタシアは夜会の前に行われる王妃主催のお茶会用のアフタヌーンドレス用などにも選んでいた。フォルティナの分も作ると言い張るアナスタシアを宥めすかし、なんとか夜会用のドレスだけで落ち着くと、今度はデザインと採寸だとなり、フォルティナをここへ呼びに来たクラウスは早々に部屋から追い出されていった。
「では、フォルティナ、夜会を楽しみにしているよ」
 そう言って、夜会では近衛騎士の正装で済むクラウスは部屋を出て行った。
 その後、フォルティナは着ていた服を剥かれ、侍女とデザイナーが自分の肌を見て一瞬息を飲むのを見て内心うんざりした。
「ですから、ドレスを着ないのですよ」
 周りが何か言う前にフォルティナは気にしていないとばかりに、さらりと言った。
「何をおっしゃいます。これくらいいくらでも隠すことは出来ますよ」
 フォルティナの言葉にデザイナーの老婦人は語気を強くして言いきった。どうやら彼女の職人魂に火が付いてしまったようだ。
「それにその傷は先の戦のモノでございましょう?この国を守るために付いたものですもの。誇りこそすれ恥ずべきモノではございませんわ」
「ええ、そうですね。この傷は私の騎士としての誇りです」
 老婦人の言葉にフォルティナは誇らしげに返した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです

みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。 時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。 数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。 自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。 はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。 短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました を長編にしたものです。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

魔法使いとして頑張りますわ!

まるねこ
恋愛
母が亡くなってすぐに伯爵家へと来た愛人とその娘。 そこからは家族ごっこの毎日。 私が継ぐはずだった伯爵家。 花畑の住人の義妹が私の婚約者と仲良くなってしまったし、もういいよね? これからは母方の方で養女となり、魔法使いとなるよう頑張っていきますわ。 2025年に改編しました。 いつも通り、ふんわり設定です。 ブックマークに入れて頂けると私のテンションが成層圏を超えて月まで行ける気がします。m(._.)m Copyright©︎2020-まるねこ

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

処理中です...