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夜会へ出席することが決まってから、フォルティナの周りは常以上に騒がしくなった。アナスタシアの護衛についている時は、そのままダンスの練習に巻き込まれ、お茶をしているところに付き従えば、席に着くように勧められる(応じるまでアナスタシアは諦めない)、しかし、それくらいならば時折あったことなのでまだマシな方だろう。さすがに連日となれば、疲れはしたが。
それよりもフォルティナを困惑させ、精神的に疲れさせているのは、先日、夜会で彼女をエスコートすることに決まったクラウスだった。
クラウスは、アナスタシアに呼ばれ、夜会に出席することが決まってから、ほぼ毎日の様にフォルティナの前に姿を現すようになった。特に用があるというわけでもなく、彼女の元に顔を出しては少し会話をして去っていく、と言うのがほとんどではあるのだが、それが10日も続けば色々と噂にもなるだろう。
フォルティナは訓練場に押しかけてきた人々の好奇の目に辟易しながら、それでも迷いなく剣を振るう。
時折、訓練場へ見学に来る貴族はいる。騎士団に所属している身内の様子を見に来る者や、騎士団に婚約者がいる令嬢など。
しかし、この日押しかけて来ていたのはクラウスへ好意を寄せている令嬢たち(おそらく半分以上は彼の地位や財産が目当て)、それだけではなく騎士団には所属していない貴族令息の姿も見られた。
ご令嬢たちは邪魔者でしかないフォルティナの偵察、令息たちは興味本位といったところか・・・。
自分に向けられる、嘲笑や侮蔑、嫉妬、そして欲情を含んだ視線に辟易しつつも、いつも通りに指示を出し、他の隊員の様を見る。
「まぁ、ごらんになって。女の身で他の方々に指示を出してますわよ」
「あの格好!なんてはしたないのかしら・・・」
「髪もぐしゃぐしゃですわよ」
「もしかしてお化粧もしていないのではなくて?女性としてのマナーも守れないなんて・・・」
「男の方に混じって剣を振るうなんて・・・。クラウス様はあんな方のどこがよろしいのかしら?」
ヒソヒソとフォルティナの方を見ながら囁く令嬢たちを尻目にロイとトールが彼女の方へやってきた。
「本人たちは聞こえてないと思ってるんだろうなぁ」
「俺だったらあんなご令嬢、どんなに綺麗で美人でもお断りだね」
「公爵様も大変だよなぁ。あんなのにばっか好かれるなんて」
呆れたような顔をして言うロイとトールの言葉をフォルティナは否定することなく苦笑だけで受け止めた。
「へぇ、結構いい身体してるじゃないか」
「アレを使って公爵様に言い寄ったのかな?」
「だったら、是非俺たちのお相手も願いたいな」
「ばぁか、お前みたいなの相手にされるわけないだろ?」
令嬢たちだけではなく男たちの声も彼らにはしっかりと聞こえてくる。
「それに見ろよ、あいつ等。女の下についてるなんて、騎士団なんて名ばかりで見た目がいいだけの奴らの集まりだろ」
「女が副隊長だもんな。ここにいる奴らなら俺たちでも勝てるんじゃないか?」
本人たちは声を潜めているつもりなのだろうが、しっかりと聞こえているし、その言葉でフォルティナの周りにいる騎士たちの纏う空気がピリっとしてきた。
「なぁ、副隊長」
普段、そんな風に呼ぶことのないロイが見ている方が怖くなるようないい笑顔を浮かべてフォルティナを呼ぶ。
「どうせだから、あのご令嬢や馬鹿な男たちに見せてやろうぜ」
「そうそう。見ろよ、奴らのモノ欲しそうな顔。きっと、騎士って言っても女だから力づくでどうにかできるとか思ってるみたいだし」
ロイの言葉にトールも同意するように頷きながら言う。
「その辺にいるお嬢様とうちの副隊長を同じに思われるのは俺たちも面白くないしな」
「仕官してる訳でもないボンクラどもより下に思われるなんて癪だしな」
トールのその言葉に周りにいた他の騎士たちも頷く。
「いいんじゃない?」
そんな騎士たちの言葉に、いつも間に戻ってきたのか、隊長であるハロルドが言った。
こちらもロイに負けず劣らず、いい笑顔を浮かべているのは押しかけて来た貴族たちの声が聞こえていたからだろう。
それよりもフォルティナを困惑させ、精神的に疲れさせているのは、先日、夜会で彼女をエスコートすることに決まったクラウスだった。
クラウスは、アナスタシアに呼ばれ、夜会に出席することが決まってから、ほぼ毎日の様にフォルティナの前に姿を現すようになった。特に用があるというわけでもなく、彼女の元に顔を出しては少し会話をして去っていく、と言うのがほとんどではあるのだが、それが10日も続けば色々と噂にもなるだろう。
フォルティナは訓練場に押しかけてきた人々の好奇の目に辟易しながら、それでも迷いなく剣を振るう。
時折、訓練場へ見学に来る貴族はいる。騎士団に所属している身内の様子を見に来る者や、騎士団に婚約者がいる令嬢など。
しかし、この日押しかけて来ていたのはクラウスへ好意を寄せている令嬢たち(おそらく半分以上は彼の地位や財産が目当て)、それだけではなく騎士団には所属していない貴族令息の姿も見られた。
ご令嬢たちは邪魔者でしかないフォルティナの偵察、令息たちは興味本位といったところか・・・。
自分に向けられる、嘲笑や侮蔑、嫉妬、そして欲情を含んだ視線に辟易しつつも、いつも通りに指示を出し、他の隊員の様を見る。
「まぁ、ごらんになって。女の身で他の方々に指示を出してますわよ」
「あの格好!なんてはしたないのかしら・・・」
「髪もぐしゃぐしゃですわよ」
「もしかしてお化粧もしていないのではなくて?女性としてのマナーも守れないなんて・・・」
「男の方に混じって剣を振るうなんて・・・。クラウス様はあんな方のどこがよろしいのかしら?」
ヒソヒソとフォルティナの方を見ながら囁く令嬢たちを尻目にロイとトールが彼女の方へやってきた。
「本人たちは聞こえてないと思ってるんだろうなぁ」
「俺だったらあんなご令嬢、どんなに綺麗で美人でもお断りだね」
「公爵様も大変だよなぁ。あんなのにばっか好かれるなんて」
呆れたような顔をして言うロイとトールの言葉をフォルティナは否定することなく苦笑だけで受け止めた。
「へぇ、結構いい身体してるじゃないか」
「アレを使って公爵様に言い寄ったのかな?」
「だったら、是非俺たちのお相手も願いたいな」
「ばぁか、お前みたいなの相手にされるわけないだろ?」
令嬢たちだけではなく男たちの声も彼らにはしっかりと聞こえてくる。
「それに見ろよ、あいつ等。女の下についてるなんて、騎士団なんて名ばかりで見た目がいいだけの奴らの集まりだろ」
「女が副隊長だもんな。ここにいる奴らなら俺たちでも勝てるんじゃないか?」
本人たちは声を潜めているつもりなのだろうが、しっかりと聞こえているし、その言葉でフォルティナの周りにいる騎士たちの纏う空気がピリっとしてきた。
「なぁ、副隊長」
普段、そんな風に呼ぶことのないロイが見ている方が怖くなるようないい笑顔を浮かべてフォルティナを呼ぶ。
「どうせだから、あのご令嬢や馬鹿な男たちに見せてやろうぜ」
「そうそう。見ろよ、奴らのモノ欲しそうな顔。きっと、騎士って言っても女だから力づくでどうにかできるとか思ってるみたいだし」
ロイの言葉にトールも同意するように頷きながら言う。
「その辺にいるお嬢様とうちの副隊長を同じに思われるのは俺たちも面白くないしな」
「仕官してる訳でもないボンクラどもより下に思われるなんて癪だしな」
トールのその言葉に周りにいた他の騎士たちも頷く。
「いいんじゃない?」
そんな騎士たちの言葉に、いつも間に戻ってきたのか、隊長であるハロルドが言った。
こちらもロイに負けず劣らず、いい笑顔を浮かべているのは押しかけて来た貴族たちの声が聞こえていたからだろう。
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