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「けど、ただ模擬戦を見せるだけじゃつまらないよね」
そう言って、ハロルドは見学している貴族たちの方へ歩いていってしまった。いきなり自分たちの所へ歩み寄ってきたハロルドに、令嬢たちは黄色い悲鳴を上げる。
「・・・そういえば、隊長もあのご令嬢たちの捕食対象だったんだな」
「捕食・・・。けど、隊長の場合、捕まったりしないだろうけどな」
「5年、国を離れてた公爵様よりあしらうの上手そうだよな」
外行き用の笑顔を浮かべて、自分に対して熱い視線を送ってくる令嬢を上手にあしらっているハロルドの姿にロイやトールが胡乱気な視線を向けながら言えば周りの彼らに同調するのだった。
「あぁ、君たちだね。うちの隊の騎士たちに勝てるって言ってたのは」
そんな視線を背に受けたままハロルドは3人の青年に声をかけた。ニコニコと人好きのする笑顔を浮かべたまま、彼らの肩に手を置く。
「・・・どこの馬鹿かと思えば、今年の新人たちじゃないか。お前たち、自分の訓練はどうした?今の時間は王宮の外周だった気がするんだがなぁ?」
三人のうち、肩を捕まれていない1人が逃げようとしたが、その退路を断つように、男がその前に立ち塞がる。「おや、メフィスト隊長。彼らをご存知で?」
そんな男ー平民出の騎士が多く所属している第五騎士団の団長、メフィストにハロルドはわざとらしく聞いた。おそらく彼の方でも彼ら三人が配属前の新人騎士であると分かっていたのだろう。フォルティナ自身は人数の少ない女性騎士を担当することはあるが、今期の新人に関しては男女共に配属前の彼らに関する業務には携わっていなかった。
「はぁ。お前だって分かってるから捕まえたんだろうに・・・。配属を決める前の基本的な訓練にも耐え切れないようじゃ、こいつらは除隊だな」
呆れたように言う、メフィストの言葉に捕まった三人は顔を青ざめさせる。そんな彼らの様子に高見の見物を決め込んでいた他の貴族たちが巻き込まれる前に、と、訓練場を後にしようとする。しかし、そんな彼らの退路を絶つようにロイやトールをはじめとした騎士たちが出入り口をさりげなく塞いでいた。
「まぁ、正確には除隊の扱いにすらならないだろうけどね。それよりも、さっきの威勢はどうしたんだい?」
にこやかに聞いてくるハロルドに三人の顔色は益々悪くなっていく。
「私の部下たちと戦っても勝てるのだろう?せっかくこれだけの人が集まっているんだ。どうせだから、君たち三人を交えて勝ち抜き戦といこうじゃないか」
「・・・おいおい。怒るのは分かるがここにいる全員でやったらキリがないだろう。せめて、お前が選んだ5人とやらせたらどうだ?」
呆れた表情のままのメフィストの提案に三人は少しだけほっとしたような顔をした。
「・・・仕方ないね。この後、任務もあるし。そうですね・・・。でも、彼らに5人の相手も出来ないと思いますよ。フォルティナ」
フォルティナの名に三人の視線が彼女の方へ向けられる。そこにははっきりと怒りの感情が見て取れた。
彼らからすればフォルティナのせいで第五騎士団団長であるメフィストと近衛騎士団第二部隊の隊長であるハロルドに目をつけられた、と言うことになるのだろう。
「お、嬢ちゃん1人に相手させるのか?」
「ええ。女性騎士で近衛に所属しているフォルの実力を肌で感じるのが早いかと。それに5人にしたら彼らは最初の1人に撫でられて再起不能になってしまいますよ」
先ほどと変わらぬ笑みのまま、ハロルドは毒を吐いた。その言葉に捕まっている3人は気色ばむ。
「はぁ。分かりました。誰かあの三人に模擬剣を持ってきてやれ」
「剣なら自分のがある!」
仕方ないと、ばかりのフォルティナの声に青年の1人が腰に挿してある剣を示して声を荒げる。そんな様子にメフィストが呆れたような声を出した。
「それは、初心者用のものとは言え、刃を潰してない真剣だろうが」
「騎士だと言うのに真剣でやりあうのが怖いと言うのですか?」
声を上げた青年が馬鹿にしたようにメフィストに言い返した。
「メフィスト団長、私は構いませんよ。では、早速始めようか」
その言葉に周りにいた騎士や貴族たちが4人が通りやすいようにと道を空ける。
フォルティナを先頭にハロルド、メフィストに挟まれる形で3人も訓練場の真中へ移動した。
「さて、私も、ここにいる騎士たちもそんなに暇ではない。だから、3人同時にかかって来い」
そう言ったフォルティナの浮かべた冷ややかな笑みに3人は、喧嘩を売ってはいけない相手に喧嘩を売ってしまったことを悟ったが、それに気付くのが大分遅かったことに気付いたのだった。
そう言って、ハロルドは見学している貴族たちの方へ歩いていってしまった。いきなり自分たちの所へ歩み寄ってきたハロルドに、令嬢たちは黄色い悲鳴を上げる。
「・・・そういえば、隊長もあのご令嬢たちの捕食対象だったんだな」
「捕食・・・。けど、隊長の場合、捕まったりしないだろうけどな」
「5年、国を離れてた公爵様よりあしらうの上手そうだよな」
外行き用の笑顔を浮かべて、自分に対して熱い視線を送ってくる令嬢を上手にあしらっているハロルドの姿にロイやトールが胡乱気な視線を向けながら言えば周りの彼らに同調するのだった。
「あぁ、君たちだね。うちの隊の騎士たちに勝てるって言ってたのは」
そんな視線を背に受けたままハロルドは3人の青年に声をかけた。ニコニコと人好きのする笑顔を浮かべたまま、彼らの肩に手を置く。
「・・・どこの馬鹿かと思えば、今年の新人たちじゃないか。お前たち、自分の訓練はどうした?今の時間は王宮の外周だった気がするんだがなぁ?」
三人のうち、肩を捕まれていない1人が逃げようとしたが、その退路を断つように、男がその前に立ち塞がる。「おや、メフィスト隊長。彼らをご存知で?」
そんな男ー平民出の騎士が多く所属している第五騎士団の団長、メフィストにハロルドはわざとらしく聞いた。おそらく彼の方でも彼ら三人が配属前の新人騎士であると分かっていたのだろう。フォルティナ自身は人数の少ない女性騎士を担当することはあるが、今期の新人に関しては男女共に配属前の彼らに関する業務には携わっていなかった。
「はぁ。お前だって分かってるから捕まえたんだろうに・・・。配属を決める前の基本的な訓練にも耐え切れないようじゃ、こいつらは除隊だな」
呆れたように言う、メフィストの言葉に捕まった三人は顔を青ざめさせる。そんな彼らの様子に高見の見物を決め込んでいた他の貴族たちが巻き込まれる前に、と、訓練場を後にしようとする。しかし、そんな彼らの退路を絶つようにロイやトールをはじめとした騎士たちが出入り口をさりげなく塞いでいた。
「まぁ、正確には除隊の扱いにすらならないだろうけどね。それよりも、さっきの威勢はどうしたんだい?」
にこやかに聞いてくるハロルドに三人の顔色は益々悪くなっていく。
「私の部下たちと戦っても勝てるのだろう?せっかくこれだけの人が集まっているんだ。どうせだから、君たち三人を交えて勝ち抜き戦といこうじゃないか」
「・・・おいおい。怒るのは分かるがここにいる全員でやったらキリがないだろう。せめて、お前が選んだ5人とやらせたらどうだ?」
呆れた表情のままのメフィストの提案に三人は少しだけほっとしたような顔をした。
「・・・仕方ないね。この後、任務もあるし。そうですね・・・。でも、彼らに5人の相手も出来ないと思いますよ。フォルティナ」
フォルティナの名に三人の視線が彼女の方へ向けられる。そこにははっきりと怒りの感情が見て取れた。
彼らからすればフォルティナのせいで第五騎士団団長であるメフィストと近衛騎士団第二部隊の隊長であるハロルドに目をつけられた、と言うことになるのだろう。
「お、嬢ちゃん1人に相手させるのか?」
「ええ。女性騎士で近衛に所属しているフォルの実力を肌で感じるのが早いかと。それに5人にしたら彼らは最初の1人に撫でられて再起不能になってしまいますよ」
先ほどと変わらぬ笑みのまま、ハロルドは毒を吐いた。その言葉に捕まっている3人は気色ばむ。
「はぁ。分かりました。誰かあの三人に模擬剣を持ってきてやれ」
「剣なら自分のがある!」
仕方ないと、ばかりのフォルティナの声に青年の1人が腰に挿してある剣を示して声を荒げる。そんな様子にメフィストが呆れたような声を出した。
「それは、初心者用のものとは言え、刃を潰してない真剣だろうが」
「騎士だと言うのに真剣でやりあうのが怖いと言うのですか?」
声を上げた青年が馬鹿にしたようにメフィストに言い返した。
「メフィスト団長、私は構いませんよ。では、早速始めようか」
その言葉に周りにいた騎士や貴族たちが4人が通りやすいようにと道を空ける。
フォルティナを先頭にハロルド、メフィストに挟まれる形で3人も訓練場の真中へ移動した。
「さて、私も、ここにいる騎士たちもそんなに暇ではない。だから、3人同時にかかって来い」
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