女騎士の受難?

櫻霞 燐紅

文字の大きさ
16 / 23

16

しおりを挟む
 王族の入室を伝える音が鳴り響く。その音に会場にいた貴族たちは奥に設置されている玉座に向かって頭を下げた。
 王が王妃を、王太子がアナスタシアを、そしてクラウスがフォルティナを伴って会場に現れる。他の姫は他国へ嫁いでいるし、もう一人いる弟王子はまだ幼く社交界デビューをするには早すぎる為、欠席している。
 フォルティナは目に痛いほどに煌(きら)びやかなこの場所に何で立っているんだろう、と、人々が頭を下げているのをいいことに遠い目をした。
「頭を上げよ」
 陛下の言葉に貴族たちが頭を上げる。皆、陛下を見ているのだと思いたい。だが、チクチクと刺さるような敵意の籠った視線が自分に向けられていることに気付きながら、フォルティナはただ毅然と顔をあげていた。そんな、フォルティナの腰にまわされたクラウスの手に、そんな彼女を心配するかのように力が込められた。そんな行動に心休まるわけではないが、それでも少しだけ肩の力を抜いて、フォルティナは陛下の言葉が終わるのを待つ。それが終わり、王太子とアナスタシアのファーストダンスが終わってしまえば、後はクラウスと1曲踊って後は壁の花でもアナスタシアに付き添うでもいい。
 これ以上不用意に目立ちたくない、と言うのがフォルティナの素直な思いだった。
「・・・大丈夫かい?」
 いつもよりも硬い表情のフォルティナにクラウスがそっと問いかける。陛下の話はすでに中盤を過ぎ、そろそろ終わりそうだった。
「はい。ですが、ここに立つ位なら前線に送られた方がまだ気は楽です・・・」
 思わずと言ったフォルティナの言葉にクラウスは小さく笑った。それを見逃すことの無かった令嬢たちが静かにざわめく。しかし、クラウスもフォルティナもそれに気付いてはいないようで、密やかに会話を交わす2人は端(はた)から見れば仲睦(なかむつ)まじい恋人同士にしか見えなかった。

 陛下の話が終わると、王太子とアナスタシアのファーストダンスが始まった。
 それが終わればあとは各々ダンスを始める。フォルティナもクラウスに誘(いざな)われ、ダンスの輪の中に加わった。
 突き刺さるよな視線は無視すると決めている。
 フォルティナはクラウスの腕の中、優雅に舞う。グラデーションのかかった青紫のドレスの裾が翻(ひるがえ)る度に精緻に施された刺繍と縫い付けられた小粒の宝石やビーズがシャンデリアの光を受けて煌めく。
 途中から、その背に送られるのは嫉妬の視線だけではなく、羨望と欲情の視線も混じっていたが、当の本人は気付いていないようだった。
 そして、その視線に気付いているクラウスは見せ付けるようにフォルティナを抱き寄せ、身体を密着させて見せ付けるのだった。
「どうしました?」
「いや、この方が踊りやすいかと思ってね」
 抱き寄せられたことに、フォルティナが問えば、クラウスはにこやかにそう返した。デビュタント以来ほとんど夜会に参加したことのないフォルティナは、もちろん、それ以来誰かと踊ったことなどなかったので(アナスタシア相手にダンスの練習の相手を務めたことはあるが、その時は男性パート)、そんなものか、とクラウスの言葉に疑問を持つこともなく彼の言葉を受け止めたのだった。
 その後、クラウスは渋るフォルティナを離すことはなく、3曲連続で踊ると、彼女をアナスタシアの元へ連れていく。本当は会場内の各所に置かれている休憩用のソファーへ連れていきたかったのだが、フォルティナがアナスタシアの様子が気になると言って譲らなかったのだ。
 疲れているのでは?と心配して問えば、普段騎士として訓練しているフォルティナにとってはそれほどでもないと言う。普通の令嬢なら体力が尽きてもおかしくはないが、そこはさすが騎士と言うところだろう。ただ、慣れないダンスと場の空気に、その方が疲れたと小さく溢した表情は、どこか彼女の年齢よりも幼く見えて可愛らしかった。
 クラウスは内心で、そんな彼女の表情を見れたのが自分だけだったことに喜び、どうやってフォルティナを手に入れるかに考えを巡らせるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです

みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。 時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。 数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。 自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。 はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。 短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました を長編にしたものです。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

魔法使いとして頑張りますわ!

まるねこ
恋愛
母が亡くなってすぐに伯爵家へと来た愛人とその娘。 そこからは家族ごっこの毎日。 私が継ぐはずだった伯爵家。 花畑の住人の義妹が私の婚約者と仲良くなってしまったし、もういいよね? これからは母方の方で養女となり、魔法使いとなるよう頑張っていきますわ。 2025年に改編しました。 いつも通り、ふんわり設定です。 ブックマークに入れて頂けると私のテンションが成層圏を超えて月まで行ける気がします。m(._.)m Copyright©︎2020-まるねこ

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

処理中です...