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王族の入室を伝える音が鳴り響く。その音に会場にいた貴族たちは奥に設置されている玉座に向かって頭を下げた。
王が王妃を、王太子がアナスタシアを、そしてクラウスがフォルティナを伴って会場に現れる。他の姫は他国へ嫁いでいるし、もう一人いる弟王子はまだ幼く社交界デビューをするには早すぎる為、欠席している。
フォルティナは目に痛いほどに煌(きら)びやかなこの場所に何で立っているんだろう、と、人々が頭を下げているのをいいことに遠い目をした。
「頭を上げよ」
陛下の言葉に貴族たちが頭を上げる。皆、陛下を見ているのだと思いたい。だが、チクチクと刺さるような敵意の籠った視線が自分に向けられていることに気付きながら、フォルティナはただ毅然と顔をあげていた。そんな、フォルティナの腰にまわされたクラウスの手に、そんな彼女を心配するかのように力が込められた。そんな行動に心休まるわけではないが、それでも少しだけ肩の力を抜いて、フォルティナは陛下の言葉が終わるのを待つ。それが終わり、王太子とアナスタシアのファーストダンスが終わってしまえば、後はクラウスと1曲踊って後は壁の花でもアナスタシアに付き添うでもいい。
これ以上不用意に目立ちたくない、と言うのがフォルティナの素直な思いだった。
「・・・大丈夫かい?」
いつもよりも硬い表情のフォルティナにクラウスがそっと問いかける。陛下の話はすでに中盤を過ぎ、そろそろ終わりそうだった。
「はい。ですが、ここに立つ位なら前線に送られた方がまだ気は楽です・・・」
思わずと言ったフォルティナの言葉にクラウスは小さく笑った。それを見逃すことの無かった令嬢たちが静かにざわめく。しかし、クラウスもフォルティナもそれに気付いてはいないようで、密やかに会話を交わす2人は端(はた)から見れば仲睦(なかむつ)まじい恋人同士にしか見えなかった。
陛下の話が終わると、王太子とアナスタシアのファーストダンスが始まった。
それが終わればあとは各々ダンスを始める。フォルティナもクラウスに誘(いざな)われ、ダンスの輪の中に加わった。
突き刺さるよな視線は無視すると決めている。
フォルティナはクラウスの腕の中、優雅に舞う。グラデーションのかかった青紫のドレスの裾が翻(ひるがえ)る度に精緻に施された刺繍と縫い付けられた小粒の宝石やビーズがシャンデリアの光を受けて煌めく。
途中から、その背に送られるのは嫉妬の視線だけではなく、羨望と欲情の視線も混じっていたが、当の本人は気付いていないようだった。
そして、その視線に気付いているクラウスは見せ付けるようにフォルティナを抱き寄せ、身体を密着させて見せ付けるのだった。
「どうしました?」
「いや、この方が踊りやすいかと思ってね」
抱き寄せられたことに、フォルティナが問えば、クラウスはにこやかにそう返した。デビュタント以来ほとんど夜会に参加したことのないフォルティナは、もちろん、それ以来誰かと踊ったことなどなかったので(アナスタシア相手にダンスの練習の相手を務めたことはあるが、その時は男性パート)、そんなものか、とクラウスの言葉に疑問を持つこともなく彼の言葉を受け止めたのだった。
その後、クラウスは渋るフォルティナを離すことはなく、3曲連続で踊ると、彼女をアナスタシアの元へ連れていく。本当は会場内の各所に置かれている休憩用のソファーへ連れていきたかったのだが、フォルティナがアナスタシアの様子が気になると言って譲らなかったのだ。
疲れているのでは?と心配して問えば、普段騎士として訓練しているフォルティナにとってはそれほどでもないと言う。普通の令嬢なら体力が尽きてもおかしくはないが、そこはさすが騎士と言うところだろう。ただ、慣れないダンスと場の空気に、その方が疲れたと小さく溢した表情は、どこか彼女の年齢よりも幼く見えて可愛らしかった。
クラウスは内心で、そんな彼女の表情を見れたのが自分だけだったことに喜び、どうやってフォルティナを手に入れるかに考えを巡らせるのだった。
王が王妃を、王太子がアナスタシアを、そしてクラウスがフォルティナを伴って会場に現れる。他の姫は他国へ嫁いでいるし、もう一人いる弟王子はまだ幼く社交界デビューをするには早すぎる為、欠席している。
フォルティナは目に痛いほどに煌(きら)びやかなこの場所に何で立っているんだろう、と、人々が頭を下げているのをいいことに遠い目をした。
「頭を上げよ」
陛下の言葉に貴族たちが頭を上げる。皆、陛下を見ているのだと思いたい。だが、チクチクと刺さるような敵意の籠った視線が自分に向けられていることに気付きながら、フォルティナはただ毅然と顔をあげていた。そんな、フォルティナの腰にまわされたクラウスの手に、そんな彼女を心配するかのように力が込められた。そんな行動に心休まるわけではないが、それでも少しだけ肩の力を抜いて、フォルティナは陛下の言葉が終わるのを待つ。それが終わり、王太子とアナスタシアのファーストダンスが終わってしまえば、後はクラウスと1曲踊って後は壁の花でもアナスタシアに付き添うでもいい。
これ以上不用意に目立ちたくない、と言うのがフォルティナの素直な思いだった。
「・・・大丈夫かい?」
いつもよりも硬い表情のフォルティナにクラウスがそっと問いかける。陛下の話はすでに中盤を過ぎ、そろそろ終わりそうだった。
「はい。ですが、ここに立つ位なら前線に送られた方がまだ気は楽です・・・」
思わずと言ったフォルティナの言葉にクラウスは小さく笑った。それを見逃すことの無かった令嬢たちが静かにざわめく。しかし、クラウスもフォルティナもそれに気付いてはいないようで、密やかに会話を交わす2人は端(はた)から見れば仲睦(なかむつ)まじい恋人同士にしか見えなかった。
陛下の話が終わると、王太子とアナスタシアのファーストダンスが始まった。
それが終わればあとは各々ダンスを始める。フォルティナもクラウスに誘(いざな)われ、ダンスの輪の中に加わった。
突き刺さるよな視線は無視すると決めている。
フォルティナはクラウスの腕の中、優雅に舞う。グラデーションのかかった青紫のドレスの裾が翻(ひるがえ)る度に精緻に施された刺繍と縫い付けられた小粒の宝石やビーズがシャンデリアの光を受けて煌めく。
途中から、その背に送られるのは嫉妬の視線だけではなく、羨望と欲情の視線も混じっていたが、当の本人は気付いていないようだった。
そして、その視線に気付いているクラウスは見せ付けるようにフォルティナを抱き寄せ、身体を密着させて見せ付けるのだった。
「どうしました?」
「いや、この方が踊りやすいかと思ってね」
抱き寄せられたことに、フォルティナが問えば、クラウスはにこやかにそう返した。デビュタント以来ほとんど夜会に参加したことのないフォルティナは、もちろん、それ以来誰かと踊ったことなどなかったので(アナスタシア相手にダンスの練習の相手を務めたことはあるが、その時は男性パート)、そんなものか、とクラウスの言葉に疑問を持つこともなく彼の言葉を受け止めたのだった。
その後、クラウスは渋るフォルティナを離すことはなく、3曲連続で踊ると、彼女をアナスタシアの元へ連れていく。本当は会場内の各所に置かれている休憩用のソファーへ連れていきたかったのだが、フォルティナがアナスタシアの様子が気になると言って譲らなかったのだ。
疲れているのでは?と心配して問えば、普段騎士として訓練しているフォルティナにとってはそれほどでもないと言う。普通の令嬢なら体力が尽きてもおかしくはないが、そこはさすが騎士と言うところだろう。ただ、慣れないダンスと場の空気に、その方が疲れたと小さく溢した表情は、どこか彼女の年齢よりも幼く見えて可愛らしかった。
クラウスは内心で、そんな彼女の表情を見れたのが自分だけだったことに喜び、どうやってフォルティナを手に入れるかに考えを巡らせるのだった。
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