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25.マリーとの交流
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「セシル様、婚約おめでとうございます。どうして殿下と婚約が決まった事を教えて下さらなかったのですか?」
マリー様が不服そうにしています。
知った所で何のメリットがあるのでしょう。
ああ、いけません、キチンと話をすると決めたのでした。
「建国祭の日、突然婚約を申し込まれて、その翌日に王宮で婚約が成立した後、そのまま王宮暮らしが決まったのです。ですが、ワグナーと婚約したマリー様には関係無い事でしょう?」
裏切られた相手に、何故言う必要があるのでしょうか。
「関係無い?私達は友達ではなかったのですか?やっぱり私が子爵家で格下だから、ずっとそう思って見下していらしたのですか?」
思わぬ言葉が返ってきました。
「それは誤解です。見下すなんて失礼な事をした覚えはありません。マリー様こそ友達と言いますが、友達の婚約者と関係を持つ事が、マリー様のお友達としての付き合い方なのですか?私には理解出来ません。」
ハッキリ言ってやりました。
流石のマリー様も、グッと言葉を詰まらせています。
「ワグナーを本当に好きなら、私だって諦めるつもりだったの。それなのに、私とワグナーが二人きりで出掛けても、嫉妬一つしなかった。子どもが出来たって言った時でさえ、怒りもしないで、おめでとうって。ワグナーに全く興味がないから、そん事が言えるのでしょう?」
マリー様はうつむきながら、目だけこちらに向けて不服そうに訴えてきます。
「まず、生まれて来る子どもに対して、婚約破棄された人間が何か言う資格なんて無いでしょう?それに、ワグナーへの気持ちが気になるなら、試すなんて回りくどい事をしなくても、普通に聞いて下されば良かったのでは?大切に思っている、いえ、もう、いたですね。直ぐに答えられますよ。」
首をかしげると、ハッとされました。
「確かにそうよね。そうすれば簡単だった。でも……。」
マリー様は決まりが悪そうにしています。
マリー様がワグナーに懐いているとは思っていましたが、そんなに好きだとは思っていませんでした。
あくまでも友人、いえ、親友くらいでしょうか?
折角なので、気になっていた事を聞いてみます。
「マリー様は、いつからワグナーの事が好きだったのですか?」
マリー様は目を泳がせて、躊躇いながらも口を開きました。
「デビュタントの日からです。」
「え?」
初めてワグナーを紹介した日じゃないですか!
全然気づきませんでした。
あの日はワグナーも、そこそこ人気があったようでしたものね。そこそこ。
「まさか、セシル様の婚約者だったなんて紹介されるまで知りませんでした。何度も諦めようと思ったのです。ですが、セシル様と一緒にワグナーと過ごしていると、余計に好きになってしまって……。それでも諦めようと思ったのです。セシル様がワグナーを好きならばって。でも、セシル様はワグナーに興味がなさそうだったし……。」
マリー様は諦めると口では言っていますが、諦めきれなくて、諦めない理由を探していたのでしょう。
婚約は家同士の契約でもあります。
本来なら、マリー様は自重して、自分からワグナーと距離を取るべきなのですが、欲望に負けたのか、積極的にワグナーとの距離を縮めていたようです。
「でも、ワグナーは悪く無いの。私が諦められなくて、セシル様に男として見られていないと不安になっていたワグナーの心につけこんだの。」
誰が悪いとか悪く無いとか、私には関係ありません。二人とも共犯です。
マリー様はつけこんだと弱々しく言いますが、そこからワグナーをろう絡して、子まで授かり、婚約までもぎ取ったのだから、凄い行動力です。
これが愛の力なのでしょうか?
マリー様の話から察するに、私が嫉妬しないから男性として見られていないとワグナーは勘違いしたようですが、それは誤解です。
夜会では、ワグナーとお兄様が信用している知り合いとしか、踊らないように気を付けていました。
もし、ワグナーが手を繋いだり、抱きしめて来たなら、きっと受け入れていたでしょう。
でも、ワグナーからそういった行為は何一つありませんでした。
ワグナーこそ、私を女性として見ていなかったのではないでしょうか?
ただ、不安にさせていたなら、申し訳無かったとは思います。
どうやら私は、恋愛方面に関して、随分と鈍くて言葉が足りなかったようです。
二人の関係が変わった事に気付かなかったのも、そのせいでしょう。
自身の鈍感さに、思わず溜め息が出てしまいます。
マリー様は緊張した様子で、ドレスのスカートを握りしめていました。
「夜建国祭の日、わざと挑発するような言葉を使って、セシル様に罵られる事で許されようとしたの。でも、セシル様はお祝いの言葉をくれて、益々罪悪感だけが増してしまった。謝っても結果は変わらないけれど、本当に申し訳ないと思っているわ。ごめんなさい。」
マリー様がポロポロと涙を流しました。
祝いのパーティで泣くなんて、はしたない。非常識だと陰口を叩かれる事も気にせず、泣けるマリー様が羨ましいです。
私は婚約破棄された時、悲しい筈なのに、涙一粒さえ流れませんでした。
ハンカチを取り出して、化粧が崩れないよう、そっとマリー様の目尻に当てます。
「マリー様、交流の申し込みをして下さって有り難うございます。今日、話さなければ、私はずっと二人に対して裏切られたという気持ちしか残らなかったでしょう。私は恋愛方面にかなり鈍くて言葉が足りず、誤解をさせていたのだと気づかされました。そこは申し訳ありません。私にとって二人とも、間違いなく大切な存在でした。」
にっこりと微笑むと、ブワッと余計に泣かれてしまいました。
目尻にハンカチを当てるだけでは追い付きません。
「私だって、セシル様と友人になれて嬉しかったのですぅぅ。」
グズグズと泣くマリー様に頷きながら、言葉を続けました。
「あと、私よりもマリー様の方が、ずっとワグナーを好きだと分かりました。ワグナーを幸せに出来るのは、私ではなく、マリー様だと思えますし、二人が結ばれた事を今は心から喜べます。婚約者に嘘をついて他に手を出すような男性なんて、私には絶対に無理ですもの。」
本心からそう思えて、初めてマリー様に心からの笑顔を向けることが出来ました。
顔を上げたマリー様が両手で、私の手をキュッと握ってきました。
「っ、セシル様、有り難う、ございます。ワグナーと幸せになりますので、殿下と絶対に、幸せになって下さいませ。」
はい。と言うべきでしょうが、嘘はつけませんでした。
「有り難う、頑張ります。」
先ずは婚約破棄されないように。
そう心の中で付け加えたのでした。
マリー様が不服そうにしています。
知った所で何のメリットがあるのでしょう。
ああ、いけません、キチンと話をすると決めたのでした。
「建国祭の日、突然婚約を申し込まれて、その翌日に王宮で婚約が成立した後、そのまま王宮暮らしが決まったのです。ですが、ワグナーと婚約したマリー様には関係無い事でしょう?」
裏切られた相手に、何故言う必要があるのでしょうか。
「関係無い?私達は友達ではなかったのですか?やっぱり私が子爵家で格下だから、ずっとそう思って見下していらしたのですか?」
思わぬ言葉が返ってきました。
「それは誤解です。見下すなんて失礼な事をした覚えはありません。マリー様こそ友達と言いますが、友達の婚約者と関係を持つ事が、マリー様のお友達としての付き合い方なのですか?私には理解出来ません。」
ハッキリ言ってやりました。
流石のマリー様も、グッと言葉を詰まらせています。
「ワグナーを本当に好きなら、私だって諦めるつもりだったの。それなのに、私とワグナーが二人きりで出掛けても、嫉妬一つしなかった。子どもが出来たって言った時でさえ、怒りもしないで、おめでとうって。ワグナーに全く興味がないから、そん事が言えるのでしょう?」
マリー様はうつむきながら、目だけこちらに向けて不服そうに訴えてきます。
「まず、生まれて来る子どもに対して、婚約破棄された人間が何か言う資格なんて無いでしょう?それに、ワグナーへの気持ちが気になるなら、試すなんて回りくどい事をしなくても、普通に聞いて下されば良かったのでは?大切に思っている、いえ、もう、いたですね。直ぐに答えられますよ。」
首をかしげると、ハッとされました。
「確かにそうよね。そうすれば簡単だった。でも……。」
マリー様は決まりが悪そうにしています。
マリー様がワグナーに懐いているとは思っていましたが、そんなに好きだとは思っていませんでした。
あくまでも友人、いえ、親友くらいでしょうか?
折角なので、気になっていた事を聞いてみます。
「マリー様は、いつからワグナーの事が好きだったのですか?」
マリー様は目を泳がせて、躊躇いながらも口を開きました。
「デビュタントの日からです。」
「え?」
初めてワグナーを紹介した日じゃないですか!
全然気づきませんでした。
あの日はワグナーも、そこそこ人気があったようでしたものね。そこそこ。
「まさか、セシル様の婚約者だったなんて紹介されるまで知りませんでした。何度も諦めようと思ったのです。ですが、セシル様と一緒にワグナーと過ごしていると、余計に好きになってしまって……。それでも諦めようと思ったのです。セシル様がワグナーを好きならばって。でも、セシル様はワグナーに興味がなさそうだったし……。」
マリー様は諦めると口では言っていますが、諦めきれなくて、諦めない理由を探していたのでしょう。
婚約は家同士の契約でもあります。
本来なら、マリー様は自重して、自分からワグナーと距離を取るべきなのですが、欲望に負けたのか、積極的にワグナーとの距離を縮めていたようです。
「でも、ワグナーは悪く無いの。私が諦められなくて、セシル様に男として見られていないと不安になっていたワグナーの心につけこんだの。」
誰が悪いとか悪く無いとか、私には関係ありません。二人とも共犯です。
マリー様はつけこんだと弱々しく言いますが、そこからワグナーをろう絡して、子まで授かり、婚約までもぎ取ったのだから、凄い行動力です。
これが愛の力なのでしょうか?
マリー様の話から察するに、私が嫉妬しないから男性として見られていないとワグナーは勘違いしたようですが、それは誤解です。
夜会では、ワグナーとお兄様が信用している知り合いとしか、踊らないように気を付けていました。
もし、ワグナーが手を繋いだり、抱きしめて来たなら、きっと受け入れていたでしょう。
でも、ワグナーからそういった行為は何一つありませんでした。
ワグナーこそ、私を女性として見ていなかったのではないでしょうか?
ただ、不安にさせていたなら、申し訳無かったとは思います。
どうやら私は、恋愛方面に関して、随分と鈍くて言葉が足りなかったようです。
二人の関係が変わった事に気付かなかったのも、そのせいでしょう。
自身の鈍感さに、思わず溜め息が出てしまいます。
マリー様は緊張した様子で、ドレスのスカートを握りしめていました。
「夜建国祭の日、わざと挑発するような言葉を使って、セシル様に罵られる事で許されようとしたの。でも、セシル様はお祝いの言葉をくれて、益々罪悪感だけが増してしまった。謝っても結果は変わらないけれど、本当に申し訳ないと思っているわ。ごめんなさい。」
マリー様がポロポロと涙を流しました。
祝いのパーティで泣くなんて、はしたない。非常識だと陰口を叩かれる事も気にせず、泣けるマリー様が羨ましいです。
私は婚約破棄された時、悲しい筈なのに、涙一粒さえ流れませんでした。
ハンカチを取り出して、化粧が崩れないよう、そっとマリー様の目尻に当てます。
「マリー様、交流の申し込みをして下さって有り難うございます。今日、話さなければ、私はずっと二人に対して裏切られたという気持ちしか残らなかったでしょう。私は恋愛方面にかなり鈍くて言葉が足りず、誤解をさせていたのだと気づかされました。そこは申し訳ありません。私にとって二人とも、間違いなく大切な存在でした。」
にっこりと微笑むと、ブワッと余計に泣かれてしまいました。
目尻にハンカチを当てるだけでは追い付きません。
「私だって、セシル様と友人になれて嬉しかったのですぅぅ。」
グズグズと泣くマリー様に頷きながら、言葉を続けました。
「あと、私よりもマリー様の方が、ずっとワグナーを好きだと分かりました。ワグナーを幸せに出来るのは、私ではなく、マリー様だと思えますし、二人が結ばれた事を今は心から喜べます。婚約者に嘘をついて他に手を出すような男性なんて、私には絶対に無理ですもの。」
本心からそう思えて、初めてマリー様に心からの笑顔を向けることが出来ました。
顔を上げたマリー様が両手で、私の手をキュッと握ってきました。
「っ、セシル様、有り難う、ございます。ワグナーと幸せになりますので、殿下と絶対に、幸せになって下さいませ。」
はい。と言うべきでしょうが、嘘はつけませんでした。
「有り難う、頑張ります。」
先ずは婚約破棄されないように。
そう心の中で付け加えたのでした。
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