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29.ベッド(レリック視点)
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過去、私の担当になった多くの侍女達が、夜中に既成事実を作ろうとベッドに潜り込んで来た。
裸で誘惑されても面倒としか思えず、その度にベッドから追い出して、直ちに辞めさせた。
その結果、私の担当は、侍女長のシーナ、レミ、ラナの三人だけとなった。
そんな過去の経験から、セシルと寝室が同じでも手を出さない自信があった。
だが、セシルと婚約して三日後の朝。
私は二台のベッドをくっ付けるよう、侍女長のシーナに指示を出した。
「いくらセシル様が可愛らしいからとはいえ、まさか婚約前に手を出すつもりでは、ないでしょうね。」
シーナに怪訝な眼差しを向けられた。
「安全の為だ。」
と言うのは勿論嘘だ。
王宮内、特に王家専用区域は警備が厳重で滅多な事は起きない。
ベッドをくっ付ける理由はただ、セシルと手を繋ぐ為。あと寝顔も近くで見たい。
就寝前。
ベッドの変化に驚くセシルに、任務の為だと苦し紛れに説明すれば、戸惑いながらも受け入れられた。
手は出さないと言った私は、意味合いは違うが、手自体は出した、ではなく伸ばした。
戸惑いながら、セシルも手を伸ばして私の手を握った。
私の言葉を簡単に信じるなんて、本当に真面目で愛らしい。
今まで令嬢の手なんて、こちらが望まなくても繋ぎ放題で、特に何も感じなかったが、セシルと手を繋ぐと胸が高鳴った。
手の温かさ、すべすべとして柔らかい感触、指の細さ……。
セシルの手に意識が向いて、全然眠れそうにない。
セシルも私と同じように少しは意識して、眠れないでいるのではないか?
寝た振りを暫くして、チラリとセシルを見た。
おいおい、五分もしていないのに、もうぐっすり眠っているだと!?
ここまで意識されてないとは、予想外だ。
それにしても、なんて無防備なんだ。
何とも思っていないなら、置物位にしか感じないのだろうが、好きになるとそうはいかないらしい。
数日こっそり観察した結果、セシルはすこぶる寝付きが良く、眠るとちょっとの事では目を覚まさないと分かった。
セシルが起きないのを良い事に、セシルの寝顔を間近で眺め、頬に触れてみたくなった。
もう少し近付く為、ゆっくりと体を起こし、ベッドに手をついた。
ズボッ!
「うぉッ!?」
ベッドとベッドの隙間に、腕が肩まで嵌まった。
うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!これは格好悪すぎるぅぅぅぅぅぅぅ!!
恥ずかしさで心臓がバクバクして、変な汗が出た。
流石に起きたか?
隙間に肩が嵌まったままセシルに顔を向けた。
セシルは、すやすや眠っている。
良かった……見られて、ない。
素早く腕を隙間から引き抜いて、いつもの定位置に戻ると、頭から布団を被って悶えた。
手を出さないなんて言いながら、手を出そうとして、いや、大したことはしないつもりではあったが、隙間に嵌まるなんて恥ずかし過ぎるだろう!
今までの人生で一番恥ずかしい!
二度とこんな失態はしたくない。いや、してはならない。絶対に!
翌朝、セシルが起きる前。
シーナに新たな指示を出した。
「私達が私室を留守にしている間、二台のベッドを撤去して、どこかに移動させたキングサイズのベッドを寝室に設置してくれ。」
「殿下、本当に―――」
「安全の為だ。」
シーナの言葉に被せつつ、私の。と心の中で言った。
その日の夜。
婚約披露パーティーが終わって、寝る時間になり、セシルと寝室へ入室した。
寝室のベッドがキングサイズのベッド一台になっているのを目の当たりにしたセシルは、明らかに驚いている。
「ベッドをくっ付けると、その隙間に嵌まって怪我をする危険がある。仕方なく、本当に仕方なく、ベッドを変えなければならなかった。」
嵌まったのは私だが、当然言わない。
そして、仕方ないとは、一ミリも思っていないが、本意ではないアピールをしっかりとしておく。
「危険と言いますが、今まで嵌まった事なんてありませんでしたよね。結婚前に、その、何も無くても、やっぱり男女が同じベッドに入るのは、良くないと思います。」
セシルは、過去の辞めさせた侍女とは違って、まともな考えを持っている。
そこが好きなのだが、今は都合が悪い。
さて、どう説明するか。
「セシル、怪我する可能性は未然に防ぐ事が大事だ。睡眠中は咄嗟の判断力も無いから危険だ。分かってくれ。」
情に訴える作戦だ。
困惑しながらも、優しいセシルは、安全のためならと渋々納得してくれた。
よし、これで心置きなく眠っているセシルを愛でられる。
触れたい。口付けしたい。おでこなら大丈夫か?
セシルは、私がそんな事を考えているなんて、全く思っていないのだろう。
今夜も、ぐっすりと安心しきったように爆睡している。
少しは何かすれば意識されるのか?いや、駄目だ。今後の信用問題に関わる。
任務もあるし、長い結婚生活を思えば、下手な事をして関係を悪化させる訳にはいかない。
ああ、クソッ。成人を迎える前のガキでもあるまいし。
下手な嘘をついて手を繋ぐだけで精一杯とか、二十四にもなって情けない。
今まで受け身だっただけに、何をどうしたら意識して貰えるか分からない。
「私を好きになれ。」
寝ている間に洗脳、出来たらいいのに。
裸で誘惑されても面倒としか思えず、その度にベッドから追い出して、直ちに辞めさせた。
その結果、私の担当は、侍女長のシーナ、レミ、ラナの三人だけとなった。
そんな過去の経験から、セシルと寝室が同じでも手を出さない自信があった。
だが、セシルと婚約して三日後の朝。
私は二台のベッドをくっ付けるよう、侍女長のシーナに指示を出した。
「いくらセシル様が可愛らしいからとはいえ、まさか婚約前に手を出すつもりでは、ないでしょうね。」
シーナに怪訝な眼差しを向けられた。
「安全の為だ。」
と言うのは勿論嘘だ。
王宮内、特に王家専用区域は警備が厳重で滅多な事は起きない。
ベッドをくっ付ける理由はただ、セシルと手を繋ぐ為。あと寝顔も近くで見たい。
就寝前。
ベッドの変化に驚くセシルに、任務の為だと苦し紛れに説明すれば、戸惑いながらも受け入れられた。
手は出さないと言った私は、意味合いは違うが、手自体は出した、ではなく伸ばした。
戸惑いながら、セシルも手を伸ばして私の手を握った。
私の言葉を簡単に信じるなんて、本当に真面目で愛らしい。
今まで令嬢の手なんて、こちらが望まなくても繋ぎ放題で、特に何も感じなかったが、セシルと手を繋ぐと胸が高鳴った。
手の温かさ、すべすべとして柔らかい感触、指の細さ……。
セシルの手に意識が向いて、全然眠れそうにない。
セシルも私と同じように少しは意識して、眠れないでいるのではないか?
寝た振りを暫くして、チラリとセシルを見た。
おいおい、五分もしていないのに、もうぐっすり眠っているだと!?
ここまで意識されてないとは、予想外だ。
それにしても、なんて無防備なんだ。
何とも思っていないなら、置物位にしか感じないのだろうが、好きになるとそうはいかないらしい。
数日こっそり観察した結果、セシルはすこぶる寝付きが良く、眠るとちょっとの事では目を覚まさないと分かった。
セシルが起きないのを良い事に、セシルの寝顔を間近で眺め、頬に触れてみたくなった。
もう少し近付く為、ゆっくりと体を起こし、ベッドに手をついた。
ズボッ!
「うぉッ!?」
ベッドとベッドの隙間に、腕が肩まで嵌まった。
うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!これは格好悪すぎるぅぅぅぅぅぅぅ!!
恥ずかしさで心臓がバクバクして、変な汗が出た。
流石に起きたか?
隙間に肩が嵌まったままセシルに顔を向けた。
セシルは、すやすや眠っている。
良かった……見られて、ない。
素早く腕を隙間から引き抜いて、いつもの定位置に戻ると、頭から布団を被って悶えた。
手を出さないなんて言いながら、手を出そうとして、いや、大したことはしないつもりではあったが、隙間に嵌まるなんて恥ずかし過ぎるだろう!
今までの人生で一番恥ずかしい!
二度とこんな失態はしたくない。いや、してはならない。絶対に!
翌朝、セシルが起きる前。
シーナに新たな指示を出した。
「私達が私室を留守にしている間、二台のベッドを撤去して、どこかに移動させたキングサイズのベッドを寝室に設置してくれ。」
「殿下、本当に―――」
「安全の為だ。」
シーナの言葉に被せつつ、私の。と心の中で言った。
その日の夜。
婚約披露パーティーが終わって、寝る時間になり、セシルと寝室へ入室した。
寝室のベッドがキングサイズのベッド一台になっているのを目の当たりにしたセシルは、明らかに驚いている。
「ベッドをくっ付けると、その隙間に嵌まって怪我をする危険がある。仕方なく、本当に仕方なく、ベッドを変えなければならなかった。」
嵌まったのは私だが、当然言わない。
そして、仕方ないとは、一ミリも思っていないが、本意ではないアピールをしっかりとしておく。
「危険と言いますが、今まで嵌まった事なんてありませんでしたよね。結婚前に、その、何も無くても、やっぱり男女が同じベッドに入るのは、良くないと思います。」
セシルは、過去の辞めさせた侍女とは違って、まともな考えを持っている。
そこが好きなのだが、今は都合が悪い。
さて、どう説明するか。
「セシル、怪我する可能性は未然に防ぐ事が大事だ。睡眠中は咄嗟の判断力も無いから危険だ。分かってくれ。」
情に訴える作戦だ。
困惑しながらも、優しいセシルは、安全のためならと渋々納得してくれた。
よし、これで心置きなく眠っているセシルを愛でられる。
触れたい。口付けしたい。おでこなら大丈夫か?
セシルは、私がそんな事を考えているなんて、全く思っていないのだろう。
今夜も、ぐっすりと安心しきったように爆睡している。
少しは何かすれば意識されるのか?いや、駄目だ。今後の信用問題に関わる。
任務もあるし、長い結婚生活を思えば、下手な事をして関係を悪化させる訳にはいかない。
ああ、クソッ。成人を迎える前のガキでもあるまいし。
下手な嘘をついて手を繋ぐだけで精一杯とか、二十四にもなって情けない。
今まで受け身だっただけに、何をどうしたら意識して貰えるか分からない。
「私を好きになれ。」
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