解錠令嬢と魔法の箱

アシコシツヨシ

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66.魔溜まりへ

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 レリック様が私に寄り添うように歩き、私が箱を開けて霧を吸引。
 私達の左右にエド団長とバルト副団、前後にクリス副団とカマイン部隊長が護衛する形で進みました。

 箱に魔を吸引されると、魔物は弱って死滅してしまいます。
 それを感じ取ったのか、魔物が襲って来る事態にはならず、思ったよりも順調に魔溜まりへ到着しました。

 指輪が示している森の奥深くにある魔溜まりは、直径十メートル位の緩やかなすり鉢状になった穴の底にあるようです。
 火山の噴火口のようになっているその場所から、常に真っ黒い煙が出ています。
 この煙が霧の原因のようです。

 黒い煙のせいで、底が見えないので、穴の深さや、魔溜まりがどのように存在しているのか、見当もつきません。

 箱は転移してからずっと、凄い勢いで霧を吸引していました。
 魔溜まりに到着すると、これまた猛烈な勢いで穴の煙を吸引し始めましたが、吸いきれるのでしょうか?

 不安になりながらも見守るしかありません。

 突如、私達の上空に、巨大な魔物が現れました。
 鷲のような頭と翼、狼のような体をして、指には鋭い爪が生えています。
 ギロリと睨まれたかと思うと、私へ向かって急降下して来ました。

 他にも牛のような、でも毛深くて牙の生えた巨大な魔物が私めがけて突進してきます。
 一体ではなく、何体も。

「魔を吸引されるのを恐れて今まで近寄って来なかったのに、この周辺の魔物は明らかにセシルを狙っている。ここで魔を吸引しながら、私の加護を使って存在を消す。皆、討伐は頼む。」

「「「「ハッ!」」」」

 レリック様が加護を使って存在を消すと、魔物は驚いたように止まって、探す素振りを見せ、見つけられないと判断したのか、周りの騎士に標的を変えたようです。

「どれくらい時間がかかるか分からないが、バルト副団が陣を描いて応援を呼んでくれる。安心して箱に集中しろ。」
「はい。」

 肩に乗せられたレリック様の手を感じながら、箱を持ち続けていました。
 魔を吸引されるのを阻止しようとしているのか、それとも人間を食べて進化しようとしているのか、大型の魔物がどんどん集まって来ます。

「まだですか?」
「もう少しで描き終わります。」

 直ぐ後ろでクリス副団とバルト副団の声が聞こえました。

「くっ、コイツ硬い!」

 ドンッ……

「きゃっ!」

 私の背後で魔物と戦っていたクリス団長の体が、思いのほか強く、私の背中にぶつかりました。
 レリック様の加護で存在を消していたせいで、私との距離感が掴めなかったのでしょう。

 突然の衝撃で前に転びそうになった所を、咄嗟にレリック様が支えて下さいました。

「大丈夫か?」
「はい、あ!」

 いつの間にか落としてしまった箱が、コロコロと暗い魔溜まりへと転がり落ちて行きます。
 今は箱が開いて魔を吸引しています。
 だから、気流の流れで視界が悪くても箱を見つけられます。

 でも、私が箱を持ち続けなければ、箱は途中でも勝手に閉じてしまいます。
 箱が閉じれば黒い煙の中で箱を探すのは困難です。

 急がないと!

「セシル、私が!」

 レリック様の言葉よりも先に、魔溜まりへ駆け出していました。
 けれど、すり鉢状の斜面を転がる箱のスピードはどんどん早くなり、止まる気配がありません。
 後ろから物凄い速さで斜面を駆け下りて来たレリック様が、私に追い付いていました。

「任せろ!」

 レリック様は、軽く私を追い抜いて、更に数メートル先で箱を追い越すと、転がってきた箱を待ち構えて拾いました。

「セシル箱を頼む。」
「はい!」

 三メートル先位から、レリック様に優しく箱を投げられて、黒い煙の中、何とかキャッチしました。
 良かった。箱が開いて魔を吸引していたお陰で、少し下にいるレリック様の姿を何とか認識出来ます。

「結構下りたようだ。上にいる者達が魔に囚われかねない。早く戻ろう。セシル、このくらいの距離、直ぐに追いつくから待たずに登っていてくれ。」
「分かりました。」

 レリック様の言う通りです。
 きっと直ぐに追い付くでしょう。
 もう箱を落とさないようにしなければ。

 斜面を登り始めて、ふと違和感を覚えました。
 何だか急に暗くなった?

「セシル、上に走れ!早――――」

 レリック様の焦ったような声に振り向いて、息をのみました。

「レリック様?……レリック様っ!」

 闇の中、ただ一人になっていました。
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