解錠令嬢と魔法の箱

アシコシツヨシ

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67.闇の中

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 目は開けていますが、目を閉じている状態と何も変わらない位、真っ暗です。
 少しすれば目が慣れて、レリック様が近くにいれば、出会えるかもしれません。
 僅かな期待を胸に目を凝らしましたが、いつまで経っても真っ暗な状況は変わりませんでした。

「あれ?」

 持っている箱だけ、暗闇の中でハッキリ見る事が出来ると気付きました。
 箱の上蓋はしっかり開いていますが、それだけで、魔を吸引しているかは全く分かりません。
 むしろ、吸引していないように見えます。

「レリック様!いますか?レリック様!」

 呼び掛けても返事はありません。
 ただ静まり返っています。
 そうです、通信用の腕輪がありました。
 手探りで全てのボタンを押して、全騎士団に呼びかけました。

「セシルです。私は暗闇の中に閉じ込められました。救援お願いします、どうぞ。」

 …………。

 残念ながら、誰からも返事はありません。

 腕輪が壊れてしまったのでしょうか?
 それとも通信が届いていないのでしょうか?
 連絡は行ったけれど、返事だけ届かないとか?

 考えても分かる手立てはありません。
 私は魔溜まりの近くにいて、そこから動いていません。

 普通に考えれば、ここは穴の中腹でしょう。
 上にいる皆さんが私の異変に気付けば、救助に動いてくれる……でしょうか?

 箱を持っている私がいなければ、皆、黒い霧で魔に囚われてしまう危険があります。
 二次災害を警戒して騎士団は帰還するかも知れません。
 だとしたら、ここには誰も助けに来ない、いえ、来れない気がしてきました。

 暗闇の中、見えるのは手に持っている箱くらいで、周囲は何も見えません。
 持っている箱は開いていますが、闇の中では気流も見えず、機能しているのかも分かりません。

 箱に目を向けた時、レリック様が左手親指に嵌めてくださった魔道具の指輪が目に入りました。
 腕輪の通信は出来ませんでしたが、魔溜まりの方向を示す指輪は機能しているようで、ある方向を指していました。

 確か、私たちが穴の上に着いた時、指輪は穴の中心を指していました。
 
 それならば、指輪が示す方向と逆へ進めば、穴の上にいる皆さんと合流出来る。
 もしくは、この暗闇から出られるのではないでしょうか。

 光が見えた気がして、指輪が指す方向に背を向けたものの、本当にそれでいいのか躊躇いました。

 魔溜まりに向かえば、魔を引き寄せている原因である、魔王の残滓に辿り着けるかもしれません。
 もし、残滓を吸引出来たなら、魔溜まりは消えて、任務を終えられます。

 残滓を吸引出来るのは箱を開けられる私だけです。
 そう、私だけ……。
 私がやらなければ任務は終わらず、世界が魔に飲み込まれてしまうのです。
 重い、責任が重すぎます。

 指輪の方向に進むのも、逆らうのも、不気味な暗闇の中を歩かなくてはなりません。
 かと言って、助けが来るかも分からない不安な中で、一人待ち続けるのも耐えられません。
 どうせ怖い思いをするならば、任務が終わる為に進む方が、まだましな気がしてきました。

 諦めて、指輪の示す方向へと歩き出した時、チリンチリンとベルトに下げていた鈴が鳴りました。
 
 レリック様とお揃いで着けた鈴の存在をすっかり忘れていました。

 無音の中、鈴の音はとても大きく感じられて、音色を聞いていると、少しだけ気が紛れます。
 ベルトから鈴を外して、箱と一緒に手に持つと、意識的に鳴らしながら歩き始めました。

 チリン、リン、リン、チリン、リン、チリン、リン……

 鈴の音に違和感を感じて、周囲を見回しました。
 私の鈴はチリンチリンと鳴りますが、明らかに違う音が混ざっています。
 この音は……。

「レリック様!?」

 返事は返って来ません。
 その場で鈴を振り続けます。

 チリン、リン、チリン、リン、リン……

 確信しました。レリック様の鈴の音です。
 レリック様の鈴はリンリンと鳴って、私の鈴と若干音色が違うのです。

「レリック様!どこですか?」

 返事は返って来ませんが、鈴の音が近付いて来るのが分かります。

「レリック様!私はここです!ここにいます!」

 箱を手に持ったまま、思いっきり鈴を振りました。
 突然、暗闇の中、左手首を掴まれました。

「ひゃっ!」
「見つけた!」

 私の左手首から腕を辿って肩へ、更に首筋から頬へと場所を確認するように手が登って来る感覚がして、両手でふわりと頬を包まれる感触がしました。

「レリック様?レリック様ですか?」
「ああ、そうだ。セシル、やっと会えた。」

 触れられている感覚はあって、レリック様の顔が直ぐ近くにある気配がするのに、何も見えません。

「っ……レリック様、凄く、凄く……お会い、したかった、です。」

 安心感から、泣きそうに、いえ、少しだけ泣いてしまいました。
 頬から手が離れると、ギュウッと抱き締められる感覚がして、耳元で安堵するような溜め息が聞こえました。

「何も見えないし聞こえないから、かなり不安だったが、鈴の音がして箱が見えたから見つけられた。本当に良かった。」

 レリック様も声を出して呼び掛けていたそうですが、反応は無かったそうです。
 この場所では互いが触れている時に限り、会話が可能ですが、どんなに近くにいても、互いの姿を見る事は出来ないようです。

 例え直ぐ近くにいても、触れていなければ声は聞こえなくなり、姿が見えないだけに、再び闇の中に一人、取り残されたような気持ちになります。

「このまま進むにしても、離れないようにしよう。」

 レリック様が私の腰に腕を回して、エスコートしてくださいます。
 いつもなら内心、恥ずかしがる所ですが、離れる方が不安なので、今はその方が安心します。

 極限状態で、感覚がおかしくなっているのでしょう。
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