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108.挙式前
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六月末日、結婚式当日です。
空は快晴。爽やかな初夏の陽気です。
朝八時半。
王宮から、お迎えの馬車がやって来て、タウンハウスを立つ時間になりました。
エントランスに出た時、お母様がパンと手を叩きました。
「そうだったわ、皆でハグをしましょう。昨夜、カインは仲間外れだったものね。」
「その代わり、セシルの大好きな殿下を独り占めさせて貰ったけどね。」
「ほら、しゃべっていないで集まりなさい。迎えの馬車をあまり待たせてはいけない。」
お父様が手招きしました。
「皆でハグって、どうするのですか?」
戸惑う私に、お母様がにっこりと笑って、正面からハグしてきました。
「したいようにするのよ。王宮でも、セシルのしたいようになさい。」
驚いている間に、右からお兄様が私とお母様をまとめてハグしました。
「今日は結婚式にも参列するし、晩餐・舞踏会にも招待されている。年間を通して王宮主催の夜会や行事は多いから、セシルが王宮に入っても案外会える機会はあるよ。」
更に左から、お父様が私とお母様。そして、お兄様も一緒に包むようにハグしました。
「結婚して身分が変わろうとも、セシルは私達の可愛い娘で家族だ。それは変わらない。」
家族の温もりに包まれながら、一人一人の言葉にコクリと頷きました。
「お父様、お母様、今まで育てて下さって有り難うございます。お兄様、いつも守って下さって、有り難うございます。私はとても幸せでした。これからはレリック様と幸せになります。」
家族と別れの挨拶を終えて、護衛騎士二人と共に馬車に乗りました。
馬車が出発して直ぐ、同乗している護衛騎士のアルパから報告を受けました。
「セシル様、殿下は挙式までに片付けなければならない仕事がありまして、今朝早く、騎士棟へ出勤しました。お出迎え出来ず申し訳ないとの事です。」
「それは大変ね。分かったわ。」
レリック様は魔溜まりの任務を達成した時、褒賞として挙式後五日間の休みを与えられていました。
きっと、お休み前にやるべき仕事があって、忙しいのでしょう。
午前九時前、王宮に到着しました。
護衛のアルパ、ルペーイと共に私室へ行くと、扉前で侍女のレミとラナが待ち構えていました。
「セシル様、お帰りなさいませ。」
「さあ、挙式の準備を始めますよ。」
レミが腕まくりしています。
「もう準備するの?挙式は午後一時よね。まだ四時間もあるわ。」
「ゆっくりしていたら全然時間が足りませんよ。さあ、お急ぎ下さいませ。」
レミにしっかりと腕を掴まれて、大部屋から自室へと入室しました。
「そろそろ祓いの鐘が鳴ります。それを聞いてからにしましょう。」
ラナが時計に目を向けて数秒後、九時の鐘が鳴り始めました。
三人で目を閉じて、上を向き、胸に手を当てて深呼吸します。
鐘が鳴り終わると、服を手早く脱がされて、お風呂場へ連れて行かれました。
なんと言うことでしょう。
朝から入るお風呂も、その後の全身マッサージも、レミとラナの手つきが素晴らし過ぎて、最高に気持ちが良いです。
起きたばかりだというのに、眠ってしまいました。
「セシル様、ドレスを着ましょうね。」
意識がぼんやりしている中、レミに声を掛けられて、レリック様が選んで下さった挙式用のドレスを着せられました。
袖の無い純白のドレスは、全体的に刺繍があしらわれて、首元からデコルテや背中周りは緻密な刺繍の透かしによって、肌色が見えつつも上品な仕上がりです。
更に、レミとラナの神業でメイクアップをされました。
装飾品は、ダイヤモンドが散りばめられている純金のティアラです。
お値段は勿論、聞けません。
午後十二時半。
「セシル様、美し過ぎます。さあ、殿下に見て頂きましょう。」
ラナに促されて、自室から大部屋に移動しました。
紅茶を飲みながら私を待っていたレリック様が、椅子から立ち上がって、エスコートしようと手を差し伸べて下さいました。
レリック様の服装は、王国騎士団の正装です。
王宮行事等、特別な時にだけ纏う白い騎士服で、任務の時に着る騎士服とはかなり違って、襟元や袖口、釦周りに金糸の模様が縁取られて、豪華な仕様になっています。
それがまた、とてもよく似合っていて、凛々しいレリック様の手を取りながらドキドキしてしまいます。
婚約前、ジェーン様がレリック様を見て喜び悶えていても、特に共感出来ませんでしたが、今なら、その気持ちが理解できます。
「いつも何かと見惚れているのに、こんなに美しく着飾られたら、また見惚れてしまう。」
息をするように、歯の浮くような台詞を言えるレリック様が、目を細めながら、私の頬に手を伸ばしました。
「殿下、折角のメイクが落ちてしまいます。セシル様のお顔には、触れないでくださいませ。」
紅茶の給仕をしていたシーナの声に、レリック様の手がピタリと止まって、私の頬に触れる手前で、スッと下ろされました。
「仕方無い。式が終わるまで我慢しよう。」
「殿下、今日は、一日我慢してくださいませ。挙式後は国民へのお手振りもございます。その後は、直ぐに晩餐会や舞踏会の準備です。」
「シーナ、少し触れる位、構わないだろう。」
「駄目です。皆様に見て頂く為に、侍女やセシル様は四時間も前から準備をしていたのです。それを無にするおつもりですか?」
シーナ強いです。レリック様が怯んでいます。
「……分かった。全て終わるまで我慢しよう。さあ、セシル行こうか。」
「はい。」
王宮の敷地内にある教会へは、本邸から馬車で向かいます。
乗車時間は十分かからないくらいです。
馬車での移動中、馬車内は私とレリック様の二人きりでした。
「セシル。今朝の公式発表で、シバルツ男爵令息が、カイン殿に成り済まして令嬢を騙し、更に王族の名前を語ったとして、不敬罪で処罰されたと発表があった。」
「え!?昨夜捕縛したばかりですよね?」
処罰まで終えているなんて、仕事の早さに驚かされます。
もっと時間がかかると思っていました。
「特に大きな事件でも無かったし、既に口煩い貴族も黙らせた。」
シバルツ男爵令息だけでなく、結婚を反対していた貴族まで対策済みだなんて。
レリック様や王国騎士団の頼もしさが、凄過ぎます。
「だから、安心して私の元へ嫁いでくれ。」
「喜んで。」
先に馬車を降りて、エスコートして下さるレリック様の手を取って、微笑みました。
いよいよ結婚式です。
空は快晴。爽やかな初夏の陽気です。
朝八時半。
王宮から、お迎えの馬車がやって来て、タウンハウスを立つ時間になりました。
エントランスに出た時、お母様がパンと手を叩きました。
「そうだったわ、皆でハグをしましょう。昨夜、カインは仲間外れだったものね。」
「その代わり、セシルの大好きな殿下を独り占めさせて貰ったけどね。」
「ほら、しゃべっていないで集まりなさい。迎えの馬車をあまり待たせてはいけない。」
お父様が手招きしました。
「皆でハグって、どうするのですか?」
戸惑う私に、お母様がにっこりと笑って、正面からハグしてきました。
「したいようにするのよ。王宮でも、セシルのしたいようになさい。」
驚いている間に、右からお兄様が私とお母様をまとめてハグしました。
「今日は結婚式にも参列するし、晩餐・舞踏会にも招待されている。年間を通して王宮主催の夜会や行事は多いから、セシルが王宮に入っても案外会える機会はあるよ。」
更に左から、お父様が私とお母様。そして、お兄様も一緒に包むようにハグしました。
「結婚して身分が変わろうとも、セシルは私達の可愛い娘で家族だ。それは変わらない。」
家族の温もりに包まれながら、一人一人の言葉にコクリと頷きました。
「お父様、お母様、今まで育てて下さって有り難うございます。お兄様、いつも守って下さって、有り難うございます。私はとても幸せでした。これからはレリック様と幸せになります。」
家族と別れの挨拶を終えて、護衛騎士二人と共に馬車に乗りました。
馬車が出発して直ぐ、同乗している護衛騎士のアルパから報告を受けました。
「セシル様、殿下は挙式までに片付けなければならない仕事がありまして、今朝早く、騎士棟へ出勤しました。お出迎え出来ず申し訳ないとの事です。」
「それは大変ね。分かったわ。」
レリック様は魔溜まりの任務を達成した時、褒賞として挙式後五日間の休みを与えられていました。
きっと、お休み前にやるべき仕事があって、忙しいのでしょう。
午前九時前、王宮に到着しました。
護衛のアルパ、ルペーイと共に私室へ行くと、扉前で侍女のレミとラナが待ち構えていました。
「セシル様、お帰りなさいませ。」
「さあ、挙式の準備を始めますよ。」
レミが腕まくりしています。
「もう準備するの?挙式は午後一時よね。まだ四時間もあるわ。」
「ゆっくりしていたら全然時間が足りませんよ。さあ、お急ぎ下さいませ。」
レミにしっかりと腕を掴まれて、大部屋から自室へと入室しました。
「そろそろ祓いの鐘が鳴ります。それを聞いてからにしましょう。」
ラナが時計に目を向けて数秒後、九時の鐘が鳴り始めました。
三人で目を閉じて、上を向き、胸に手を当てて深呼吸します。
鐘が鳴り終わると、服を手早く脱がされて、お風呂場へ連れて行かれました。
なんと言うことでしょう。
朝から入るお風呂も、その後の全身マッサージも、レミとラナの手つきが素晴らし過ぎて、最高に気持ちが良いです。
起きたばかりだというのに、眠ってしまいました。
「セシル様、ドレスを着ましょうね。」
意識がぼんやりしている中、レミに声を掛けられて、レリック様が選んで下さった挙式用のドレスを着せられました。
袖の無い純白のドレスは、全体的に刺繍があしらわれて、首元からデコルテや背中周りは緻密な刺繍の透かしによって、肌色が見えつつも上品な仕上がりです。
更に、レミとラナの神業でメイクアップをされました。
装飾品は、ダイヤモンドが散りばめられている純金のティアラです。
お値段は勿論、聞けません。
午後十二時半。
「セシル様、美し過ぎます。さあ、殿下に見て頂きましょう。」
ラナに促されて、自室から大部屋に移動しました。
紅茶を飲みながら私を待っていたレリック様が、椅子から立ち上がって、エスコートしようと手を差し伸べて下さいました。
レリック様の服装は、王国騎士団の正装です。
王宮行事等、特別な時にだけ纏う白い騎士服で、任務の時に着る騎士服とはかなり違って、襟元や袖口、釦周りに金糸の模様が縁取られて、豪華な仕様になっています。
それがまた、とてもよく似合っていて、凛々しいレリック様の手を取りながらドキドキしてしまいます。
婚約前、ジェーン様がレリック様を見て喜び悶えていても、特に共感出来ませんでしたが、今なら、その気持ちが理解できます。
「いつも何かと見惚れているのに、こんなに美しく着飾られたら、また見惚れてしまう。」
息をするように、歯の浮くような台詞を言えるレリック様が、目を細めながら、私の頬に手を伸ばしました。
「殿下、折角のメイクが落ちてしまいます。セシル様のお顔には、触れないでくださいませ。」
紅茶の給仕をしていたシーナの声に、レリック様の手がピタリと止まって、私の頬に触れる手前で、スッと下ろされました。
「仕方無い。式が終わるまで我慢しよう。」
「殿下、今日は、一日我慢してくださいませ。挙式後は国民へのお手振りもございます。その後は、直ぐに晩餐会や舞踏会の準備です。」
「シーナ、少し触れる位、構わないだろう。」
「駄目です。皆様に見て頂く為に、侍女やセシル様は四時間も前から準備をしていたのです。それを無にするおつもりですか?」
シーナ強いです。レリック様が怯んでいます。
「……分かった。全て終わるまで我慢しよう。さあ、セシル行こうか。」
「はい。」
王宮の敷地内にある教会へは、本邸から馬車で向かいます。
乗車時間は十分かからないくらいです。
馬車での移動中、馬車内は私とレリック様の二人きりでした。
「セシル。今朝の公式発表で、シバルツ男爵令息が、カイン殿に成り済まして令嬢を騙し、更に王族の名前を語ったとして、不敬罪で処罰されたと発表があった。」
「え!?昨夜捕縛したばかりですよね?」
処罰まで終えているなんて、仕事の早さに驚かされます。
もっと時間がかかると思っていました。
「特に大きな事件でも無かったし、既に口煩い貴族も黙らせた。」
シバルツ男爵令息だけでなく、結婚を反対していた貴族まで対策済みだなんて。
レリック様や王国騎士団の頼もしさが、凄過ぎます。
「だから、安心して私の元へ嫁いでくれ。」
「喜んで。」
先に馬車を降りて、エスコートして下さるレリック様の手を取って、微笑みました。
いよいよ結婚式です。
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