Monologue-君に言えなかったコト-

エドガー

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カラクリ

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少女は泣いた。とめどなくあふれる涙をハンカチで拭いながらなおも、想った人をどれほど好きだったかを彼女は語り続けた。
マスターはそれをただ静かに聞き入るだけだった。口を挟まず、適度に相槌を打ち、表情も変えず静かに少女が想いを語りつくすまで待っているのだ。

「来月彼とは別々の大学に進学します。私は地元で、彼は県外です。もう今まで以上に会うこともできなくなるんだったらいっそ告白しようとも思いました。でも・・・」

そこで彼女はまた口を噤んでしまった。そんなに辛い話ならしなければいいだろうにと他人からして見れば思うのだが、恋愛をする人間はたいていおしゃべりだ。自分がどれだけ相手のことを愛しているか、相手にどれだけ愛されているか。それを人に言わずにはいられないのだろう。絶対的な恋愛ではなく、相対的に己の恋愛を他者と比べて想いを量るのだ。

一つ深い深呼吸をして少女は小さな口を開いた。

「先週のことです。彼が嬉しそうに彼女が出来たと言ってきました。相手は彼と同じ大学に進学する子だそうです。私はそれを聞いて感情を抑えるので精一杯で。」

自分の涙でヨレヨレになってしまったハンカチを握りしめて声を殺して泣いた。
カウンター越しからマスターが温かいおしぼりを差し出す。きっとその温もりは少女の眼の緊張をほぐすだろう・・・。




それから30分くらい経ったころだろうか。初老の男性が重い木の扉を開き、一度マスターに会釈するだけで外に戻ってしまった。

「さぁタクシーが来たようです。タクシー代を含めて少し入っています。」

そう言ってマスターは小さな封筒を少女に手渡した。本当にこの店は客に話の報酬を支払うらしい。

「ありがとうございます。」
「いえ。今夜はいい夢が見れるといいですね。おやすみなさい。」

少女は小さく頭を下げると扉の隙間から消えていった。



「いかがでしたか、あの子のおとぎ話は。」

マスターは柔らかく笑いながら、さっきまで少女が座りこぼれた涙が濡らしてしまった席を拭く。彼はさっきまで少女が話していたことをおとぎ話だと言った。それはどういう意味なのか。

「おとぎ話というのは、昔は自分が体験した奇妙な出来事などに尾ひれを付けて大げさに話していたことが始まりだとも言われています。まさにさっきのそれがそうですね。」

それはつまり、さっきの彼女は自分の恋愛体験を盛って話したと言いたいのだろか。

「たしかにあの少女はつらい恋愛をしたのでしょう。ただ問題はあの少女にとって彼を好きだったことよりも、自分は想いを告げられず辛かったという点に話が偏ってしまっている。だから彼女にとってあれは恋愛の話ではなくおとぎ話にすぎないんですよ。」

このマスターは優しい顔をして辛辣なことを言う。そんなことを言うなら最初から他人の身の上話何て聞かなければよさそうなものだが、どうやら本当にそれで商売をしているらしいから変わった仕事もあるものだ。

「初めてのお客さんにとってここは異様でしょう。でもこういう話を聞きたいというスポンサーさんも結構いらっしゃいましてね。両者の需要と供給が成り立っているんですよ。」

スポンサーがいたことに驚いたが、資金源があったことに少し納得する部分もあった。でないとマスターは早々に破産だ。でもそのスポンサーとはいったいどういう人たちなのだろうか。

「世の中には恋愛にまつわる様々なもので溢れています。小説やお芝居、歌や絵。それは恋愛という題材が共感をよびやすいからです。でも同じ人間がいくつも恋愛をテーマにしたモノを作るのは難しい。ですので、ここはそんな芸術家の方々にリアルな題材を提供しているのです。」

つまりは作家や作詞家が売れる作品を作るネタ集めにここに出資しているということか。そのカラクリを知ってしまうとなんだかこのマスターの性悪さの影が良く見えるようになった。

カランコロン

それでもこの店には人が来る。
今度はスーツにようやく慣れたような風貌の男性が来店した。
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