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転生者と魔王
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しおりを挟む「おはようございます。ロズ様」
目覚めれば甘い紅茶の香りに、こんがり焼けたスコーンにはクリームがたっぷりとのせられていた。
側にはクラシカルなメイド服を着た少女が、深々とお辞儀をしている。
「私、確かレフィナードに散々言われて連れ去られて……」
「ここは、魔王様の治める地、テラウェリタスでございます。
私はレフィナード様より世話役を任されました、ノワと申します」
ノワに手を引かれ、席に座る。きちんと揃えられたティーセットと、可愛い装飾の三段のスタンドにはスコーンが並べられている。
紅茶を注ぐ音は心地良く、目覚める前の騒々しさが無かったかのようだ。
どうぞ、と短く言って差し出された紅茶からは上品な香りが立つ。
「良い香り……、いつも飲んでたペットボトルのやつとは比べ物にならないわ」
「ぺっと……?それは分かりませんが、紅茶を飲む文化は異世界より来た者たちが広めたと言われています。ロズ様にも馴染みのあるもので良かったです」
ノワは手際よくスコーンをロズに差し出し、蜂蜜の入った瓶を用意する。
蜂蜜を見るとカストラを思い出す。ゴーレムとは上手く生活できているのか心配でもあったが、懐かしい思いが大きい。
ぼんやりとする頭で、スコーンを口に運ぶ。不思議とノワに対する危機感は感じられず、為すがままにおもてなしされている。
「これから私ってどうなるのかしら。やっぱり食べられたりするの?」
スコーンを一つ平らげると、今の状況を考える。レフィナードの態度を思い出せば、ロズの扱いは牢屋等に閉じ込められる捕虜と変わらないと考えていた。
「魔族について人間はあまり詳しくないと聞いておりますが……。魔王様、私も含めて人間を食べる文化や習慣はありませんよ。
人間のイメージする我々の姿は、魔物や魔獣が家畜を襲うものが元となっているようですが、食の文化は変わらないです」
驚いたロズの様子にノワは小さく笑う。
確かに魔族の主食が人間であったなら、人間はもっと魔族に敵対していたはずだ。
「安心した、レフィナードに散々な言われ方したからどうなるかと思ったの」
「まぁっ!!レフィナード様に何か失礼な事を言われたのですか?
あの方、魔王様の事になると周りが見えなくなるのですが、ロズ様が転生者である事にも興味ある様子でしたし……」
「え、私が転生者って知ってるの?」
「ロズ様が転生…、異世界人である事はレフィナード様より周知されております。
魔術、スクロール解析で分かった事だと思いますが…」
スクロール。ロズが転生した直後に状態を確認する為、RPG等ではお馴染みのステータス画面、もしくはメニュー画面の要素は無いかと考えていたが、魔術によって可能だったことに納得する。できないのではなく、方法はあった。
「スクロールって難しい魔術なの?」
「いいえ。難易度は低く、魔術なので法則の条件さえ満たせば使用できます。
しかし、相手に使用する場合、スクロールは対象の経験値より、術者の経験値が高くないと詳しくは解析出来ません」
「な、なるほど。自分より上の経験値を持つ相手には通用しないのね。私のスクロールがレフィナードに解析されたのなら、私はレフィナードより下のレベルって事になるのね」
ノワは空いたカップに紅茶を注ぎながら、いいえと否定する。
「……その話は、私よりもレフィナード様の方がお詳しいはずです。ロズ様のティータイムが落ち着きましたら、魔王様の元へご案内します。レフィナード様も同席しますので、その時に聞いてみては如何でしょうか?」
愛らしく微笑んだノワが首を傾げた。
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