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転生者と魔王
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しおりを挟む「は、初めまして。ーーロズ、と申します」
真っ直ぐに注がれる視線に、緊張を感じる。
先を歩いていたノワはロズの後ろに控えて、一礼したままだ。
「……ロズ、本当に会えた」
開かれた金色の瞳は細くなり、蒼白かった頬が少し上気していた。
王座から立ち上がると覚束ない足取りで階段を降りる。レフィナードが緊張した面持ちで見守るが、手を出す事が禁じられているのかその場で直立したままだった。
「ーー危ない!!」
最後の一段を降りる時にゆらりと体が傾き、倒れる前にロズは走り出してその体を支えた。
「私の名は……ギルウス。やっと、会えた」
「ギルウス?大丈夫?体も熱くて、熱でもあるんじゃ」
ロズに体を預けていたギルウスは、そのまま姿勢を正すとロズを抱き上げて王座に戻る。
「ちょっと、ギルウス!!降ろして!!」
「駄目だよ。ロズにやっと会えたんだ、少しも離れたくはないんだよ。嗚呼、名前を呼ばれるとはこんなに幸せを感じる事なのか」
先程までの弱々しい姿は無く、凛とした青年らしい佇まいになっている。
レフィナードが安心した様子で長いため息を吐き、王座に座ったギルウスの前で膝をつく。
「魔王様、真名と魔力を得られたようで安心しました」
「レフィナードにも心配をかけた。ロズを見つけた事、大儀であった」
「ーー何?、いったいなんの話?」
混乱に近い状態でロズは、ギルウスの膝の上で腰に腕をまわされて固定されていた。
「魔王ギルウス様は、先代魔王様より受け継がれるはずだった魔力がなかったのです。魔王の力は生まれる時、真名と共に先代達から与えられます。
しかし、ギルウス様には無かった……」
レフィナードは忌々しい、と言わんばかりの表情でロズを一瞥する。他に言いたい事もあった様子だったが、ギルウスが止めるように手を挙げた。
「レフィナードにも苦労をかけた。しかし、それもロズに会う為の方法だった」
口許は美しく弧を描き、ロズの頬を撫でる手は優しく、宝物に触れるようだった。
表情から仕草、全ての所作で愛しさを伝える様子はロズにとって理解出来ないもので、これが運命の出会いであれば、ロズの感情にもセオリー通りの昂りがあっても不思議ではない。ここはファンタジーの世界。ゲームであればイベントのはずだ。
しかし、ロズの頭は冴え、ギルウスの少し浮ついた気持ちとは正反対に冷ややかになった。
「……ロズ?」
「私は、貴方を知らない。勝手に人の事抱えて膝に座らせないでちょうだい」
ロズは違和感ともう一つ感じた事があった。
「あの人にも……少し似てる」
「ろ、ロズ?」
不安そうにギルウスはロズの手を取ろうとしたが、ロズはピシャリと手を叩いて払い退ける。
「女の子に不躾に触らない!!」
ギルウスは背筋をピンと伸ばし、反射的に両手を上げた。金色の両目は丸く開き、整ったクールな顔立ちとは正反対に口は子供のように開いていた。
「……部屋に戻る」
一度冷静にならなくては、とロズはギルウスの膝から降りて、竜の遺骸を模した門へと歩く。
この門を眺めた時に、魔という言葉だけでは本質の善し悪しは分からないと考えていたロズだったが、魔王ギルウスに対する印象はその事以前の問題だった。
レフィナードは頭を抱え、ノワは笑っているのか口元を隠しながら肩を震わせてロズの後を追いかけた。
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