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魔族生活の薦め
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しおりを挟むノワはシンプルな蜂蜜色のドレスを見繕い、ロズの髪を丁寧に梳いてハーフアップにまとめる。
花のレリーフが模られた銀製の髪飾りを最後に着けて、ロズの全身をチェックした。
「とてもお似合いです。魔王様もお喜びになります」
「喜ばせる為に着るんじゃないけど……」
乗り気になれないロズはため息を吐くと、窓から外の様子を覗く。
魔王城から伸びる道には馬車の灯りが連なり、祝宴の規模を想像して肩を落とす。
「やっぱりマナーを知らない私が行けば恥ずかしいだけだし、体調不良で欠席にならない?」
「マナーは私がフォローします」
姿勢を整えてノワは一礼すると、ロズの手を取り会場となる広間へ導く。
すれ違う魔族達は、ロズが何者か分かった様子で首を垂れて道をあけた。
広間に繋がる扉は開かれ、竜の骨ではなく黄金で装飾された華美な造りになっていた。
「ロズ様、一礼してから入ります」
ノワに言われ一礼してから広間全体を見渡す。
異世界と例えるより、映画で観た中世の舞踏会のような雰囲気だった。絢爛なシャンデリアの下で、着飾った淑女達が紳士の手を取り踊っている様は、異世界転生ではなくタイムスリップしたような感覚になる。
一瞬だけロズに視線が集まると、流れるように再びダンスが始まる。
遠巻きにロズは見られていた為、用意された軽食を堪能させてもらった。
洒落た一口サイズの軽食が並び、どれも素材は分からなかったが味は良く、次から次へと手が伸びてしまう。
「ロズ様、申し訳ございません。レフィナード様より呼び出されたので少し席を外します。私が戻るまで知らない魔族についていってはダメですよ」
「そんな子供じゃないんだし……。むしろ知らない魔族だらけだわ」
ロズは小さく手を振りノワを送り出す。
一人になった時間は久しぶりで、少し落ち着かない気分になる。アルコールは控えているので、ノワに選んでもらった飲み物をちびちびと飲む。甘く酸味があり、赤ワインに似て飲みやすい。ノンアルコールとはいえ、飲み過ぎないよう注意する。
「これも美味しいわよ」
目の前に差し出されたフライドチキン風の食べ物に驚き、相手を見ると見覚えのある羽根が主張するように揺れている。
「あなたは……ハルピュイアの方ですよね?」
「あらあらあら、ワタシの事ご存知?」
上品に笑う仕草は普通の女性に見えるが、その背後にある翼と髪留めに盛り込まれた極彩色の羽根が特徴的だった。
「残念、贈った冠はお気に召さなかったかしら?ワタシの風切羽と尾羽を使って特注したのよ~」
み空色の翼を撫でながら、落胆した様子で話す。
その姿を見ると少し悪い事をしてしまったと、差し出されたフライドチキンもどきを受け取る。
「ちょっと派手で私に着こなせる自信がなかったの。せっかく綺麗な羽根を使ってくれたのに、ごめんなさい」
間違ってはいない。あの注目を集める冠に勝るものがロズにはなかった。美女であれば、派手さに負けなかったのであろうが、ロズには不釣り合いなくらい豪奢だった。
「いいのよ~、素直なコは好きよ。それよりお肉美味しい?ワタシの同族の足なのよ~」
衝撃の一言にロズは咽せて涙目になる。すでに二口程食べてしまった後だった。
「……ちょっと!!同族の足なんて差し出さないでよ!!食べちゃったじゃない!!」
「ふふふっ冗談で~す。ハルピュイアジョーク!そのお肉は食用のコプロ肉でした~」
ロズの反応が良かったからか、嬉しそうに翼をパタパタとさせる。ロズは改めてあの冠をタンスの肥やしにしようと決意した。
「ごめん~ごめん~。ワタシはハルピュイアのウィルよ。これで許してちょうだい」
髪留めから極彩色の羽根を一つ取ると、ロズの髪に挿す。
人受けの良さそうな柔和な笑顔に反して、冗談が重たい。ウィルの前では完食は難しいので、皿にフライドチキンもどきを取っておいた。
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