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第三章 ワールドウォー・トゥモロー

世界対戦前の静けさ…。 中編

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 この世界にやって来てからもう一ヶ月くらい経っただろうか?俺は船の中、そんな事を考える。

 一つの目標としていた世界対戦、それがもう明後日に迫っていた。そしてこの船は王国という世界対戦が行われる、実際のゲームでは練習試合が終わった途端にワープさせられるために何処にあるか分からない場所へと向かっている。

 実際にも四方海に囲まれて他の島も見えず、何処にあるかはっきりとは分からない。

 まあ、そんな事はさておき、俺は一つ感じていた事があった。

「何かまるでゴールデンウィークみたいだったな。」

「ごーるでんうぃーく?何それ。」

 俺と一緒に海を眺めていたカナが首をかしげ尋ねる。あの日南の国で愛を確かめ合ってからは、カナの一挙手一投足が更に愛おしく感じる。そんな事を考えながらカナをずっと見つめていると、無視されたと思ったのかカナは眉をひそめて頬を膨らませた。

 やっぱり可愛いなあ、と思いつつもこれ以上続けるとカナの機嫌を損ねてしまうので俺は言葉を返す。

「いやね、何かここ最近はまったりして毎日を過ごしてるじゃん?それまでが忙しかったからさ、何かこうゆっくり毎日を過ごすっていいなって。ああ、ちなみにゴールデンウィークっていうのは長い間休みが続くってヤツね。」

 俺がここ最近のスローリーな日常について感想を述べていた所、話をはぐらかされたと思ったカナがまたもや頬を膨らませた。可愛い。そう言えばゴールデンウィークについて聞かれてたんだなと、それに気付いた俺は話を元に戻すと、カナの機嫌も元に戻った。

「そうね。でもやっぱり本番直前はガッツリやるより、ゆったりとコンディションを整えるくらいが丁度良いと思う。」

「まあ、確かにね。」

 カナの言う事は最もだ、俺もそうだと思う。だがしかし、俺は刺激が欲しいのだ。何かここ最近時間がゆっくり進んでいるような停滞感を俺は感じている。それはゴールデンウィーク所では無く、まるで一ヶ月以上進展が無かった様に感じるのだ。

 だから俺は…。

「何か暇だし、王様ゲームでもやらない?」

「え?どうしたの、いきなり。」

 カナが驚く、というよりむしろドン引いた様な反応を見せる。俺は少しショックだった。

「チロが、というより男の人が女の人に王様ゲームけしかけるって最早下心しか感じられないんだけど。」

 ああ、そうか成る程。俺の正体が男だとばれてしまった為、少女時代に許されていたセクハラ紛いの行為はもう許されはしないという訳か。

 …だが俺は引き下がらない。

「ねぇ、いいじゃん。ちょっとだけ、ちょっとだけだから。ねぇ、やろうよカナちゃん。ねぇ、お願い。」

「駄目に決まってるだろ馬鹿野郎ッ!」

「どえふッ!!」

 変態っぷりを惜しげもなく晒す俺の背後から、いきなり蹴りが入った。かなりの威力で背中を蹴られ、俺は暫く息が出来ず悶絶していた。

 少しして落ち着いた俺は痛めた背中を庇いながら後ろを振り返る。するとそこにいたのは青い髪の端麗な顔立ちの女性であった。

「…お前はいつも邪魔するよな、ライ。」

「カナ様に悪い虫がつかない用にするのが私の役目だからな。」

「確かにさっきのチロはちょっと気持ち悪かったかな。」

「……。」

 カナにまで敵に回られ、俺は成す術も無く押し黙る。そして残念ながら王様ゲームはおじゃんになった。

 そんなこんなあり結局、暇潰しとしてカナとライが提案したのは卓球大会だった。ただ一人には参政権が無いので満場一致で決定した。

 船内にある卓球台に皆が集まる。

「それにしてもよく船の上で卓球なんか出来るよな。」

「いや、当たり前だろ。何言ってんだ。」

 そう突っかかってくるライ。恐らくこいつは上司への態度や言葉使いというのは間違ってゴミの日に捨ててしまったのだろう。可愛そうに。

「いやいや、普通揺れるだろ。しかも卓球ってそういうのデリケートだし。」

「いやいやいや、考えろ。例えば車に乗るだろう?揺れないじゃん。船も揺れないんだよ。」

「え?揺れるだろ。」

 と、俺はそう言ったものの、この船が全く揺れてない事に気付く。凄いな、さすが金持ちの船だぜ、とも思ったが、多分そんな事あり得ないだろう。恐らく元の世界と比べて物理法則とかも若干違うんじゃないか?

 まあそんな事を気にしても文系の俺にはさっぱり分からんわと、そう思いながら、俺は王国に着くまで皆と卓球を楽しんだ。


 ※


「ついに来たか王国。」

 やって来ました王国。何と無く俺が予想していた通り、石造りの建物が立ち並ぶ、昔ながらの西洋の都会というイメージの場所だ。

 海のある港はここの景色がよく映える、写真を撮ってインスタとかに上げたい。俺は友達もいないしインスタもやって無いけど。

「わー!凄いねチロ、一緒に回ろう!?」

「うん、いいね。」

 ハイテンションなカナが俺の手を取り引っ張る。

 その時、俺はライの存在を思いだし彼女の方を渋々振り返る。
 しかしライは咎める訳でも無く、やれやれといった表情でこちらを見ていた。どうやら特に怒られたりはしないようだ。

 そんなライの配慮に感謝の意味を込めて、笑顔でグッドサインを送ったが、ライはそれに対して仏頂面で返した。




 ※





「あれ、チロさん?」

 カナと手を繋いで、王国を散歩していると聞き覚えのある声が聞こえた。
 俺はその声の方に振り返って声の主を探した。

「…え?嘘、何で手なんか繋いで…。」

 振り返る途中、又も声が聞こえた。…そうして俺は見てしまった。

 …目を見開き、呆然と立ち尽くす空色の髪の少女、その目から涙が流れていたのを。

「…レイ?」

 俺の声を聞くと、レイは目に光を宿さぬまま笑みを浮かべて、こちらへ数歩近寄る。

 …そして、怪しげな笑みのまま口を開く。

「チロさん、久しぶりです。…カナさんとは、今、どういう関係何ですか…?」






 次回、昼ドラ編ッッ!

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