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第四章 ファーストプレイ:デットエンド

頭がパーン

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「……分かったかしら?これが慎一郎の人生一周目、全ての顛末よ」

 ……消えた過去の記憶の上映会が無事終わり、目の前に現れたのは懐かしい真っ白な空間と、相対する白雪七海の姿だった。

 ……それにしても随分と長いことあの夢の様な過去の記憶を見ていた気がする。

 実時間に換算するならば約一月。事の始まりの港町に降り立ってから、死ぬまで。現実世界から隔離され、全ての記憶をその目で見届けたのだ。まるで小旅行にでも行っていたみたいな気分だ。

「……まあ、だいだい分かった。……ただ余りにも情報量が多過ぎて、まだ頭が追い付いてない」

「無理もないわね。あれだけの情報を一気にインストールしたのだもの。……頭大丈夫?」

 ……悪気は無いのだろう、多分。ちなみに俺の頭も大丈夫だ。問題は頭痛が痛いくらい。

「ああ、大丈夫だ。少し頭がクラクラするけどな」

「そう。なら良かったわ」

 七海はホッと溜め息を吐いて、安堵の表情を浮かべた。

「……あれだけ大量の記憶を一気に入れ込むと頭がパーンってなっちゃうかも知れなかったから、いやー無事で何より」

「……おい、今なんて言った?」

「……一周目の記憶で覚えておいて欲しい事は主に二つで、一つ目は……」

「無視するなアホ!」

 都合の悪い話は完全スルーし、話題を強引に変えようとする七海に俺はツッコミを入れる。誤魔化しきれなくなった七海は舌を出し、可愛い子ぶって謝る。

 ……実際に可愛いかったので俺は許した。

「……話は戻って、一周目で大事な記憶は慎一郎がカナさんの側近になった訳と、レイさんに残った一周目の記憶。この二つね」

「……そうやって大まかに二つに分けられるなら、別に俺は全部の記憶を見る必要は無かったんじゃないのか?」

「それはだって私がめんどくさいんだもの。動画投稿者の編集作業みたいなものよ。しかもファイルは一ヶ月分、めんどくさいにも程があるわ」

 ……確かに一理あるが、もし愛する人の命が自身の手にかかっているのならば、結果はどうあれ最善を尽くそうと努力するものだと思うがな、俺は。

「……愛する人って、慎一郎は今の私にとってはそんな大層なものじゃないわ、勘違いしないで。……浮気、しかも三又。私はまだ許してないから」

 ……いや、逆ギレだろう。その件については。

「まあ、とりあえず、俺がカナの側近になった理由は分かった。……だけども過去の記憶がレイに何を及ぼしたのかが、結局の所まだ分からないな」

「うーん。……例えばレイさんが一人になる事に対してやたらと敏感だったり、慎一郎の事が好きなのは過去の影響なんじゃないかなあ?分からないけど」

「……そうなのか?」

 だとするならば、カナの時のような世界のルールを根本から覆すような大きな変化と比べれば、まるでバクテリアの様なもの。微々たるものに過ぎない。

「だけども“忘れないで”っていう思いはレイさんに対しての方が強かったように思えたけれど」

「……そうだよなあ、多分」

 ……“忘れないで”。この願いがどのようにして叶ったのかは、全くもって分からない。神は何を思っているのだろうか?最も、それが分かれば教会も神父ももれなく廃屋とニートとなるのだが。

「……もうこの話は終わりにしましょうか。エドさん達が待ってる訳だし」

「……そうか、そうだったな」

 すっかり忘れていたが、俺達は暴虐の限りを尽くす王国軍の城への侵入作戦を決行しようとしていたのだった。……もうこの空間へと来て大分経つのだが、時間の方は大丈夫なのだろうか。

「時間は大丈夫よ。この場所は時間の流れがとてもゆっくりなの。現実では三分程度しか経ってないと思うわ」

「なら、良かった」



「……それじゃあ、戦場へ向かおうか」




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