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命がけの帰還
しおりを挟む遂に日本に帰る引き揚げ船に
乗る朝を迎えた
次子が高熱を出していなければ
やっと日本に帰れる嬉しさで
私達はいっぱいだった筈
だけど次子の高熱は下がる事なく
ぐったりしていた
ずっと看病していたトクさんは
ほとんど寝ていない
さっきトクさんがかなり
しんどそうにしていたので
おでこを触ったら
かなり熱かったので
きっとトクさんも熱がある筈だ
だけどみんなが心配すると思って
気丈に振る舞っていた
「じゃあみんな!
どんな事があっても
船に乗り込むんだぞ!
絶対にみんなから離れたら
駄目だからな!」
トクさんは次子をしっかりと
抱っこ紐で自分の体に
密着させながらそう言った
私は富子の手をしっかり握りしめた
「富子!日本のお家に帰るから
絶対お姉ちゃんから離れたら
駄目だよ!
お家に着いたらご飯沢山
食べれるからちゃんと
歩いてね!」
私は3歳の富子にそう言うと
「お家でご飯いっぱい食べれるの?
お腹いっぱい食べてもいいの?」
って嬉しそうに目を輝かせた
「うん!
お腹いっぱい食べようね!
いっぱい食べていいからね!」
私はそう言って富子を抱きしめた
そして開拓団の生き残った人達と
山道を歩き出した
天気は曇りで今にも雨が降りそうだ
私達は必死で
みんなから離れないように
歩いた
トクさんはフラフラしながら
歩いていてとてもしんどそうだ
私もフラフラになりながら
途中歩き疲れた富子をおんぶ
したり休んだりして
歩いていた
港までの距離が分からない為
一体いつまで歩くのか不安になった
体力がない病気になっている人は
道の途中で倒れ込む人もいた
二時間程歩いた時
雨が急に振り出して来た
道はそれでなくても
泥濘んでいるのに
雨のせいで益々歩きにくくなり
もちろん傘などないから
私達は体中泥だらけになっていた
「トクさん、、
もう駄目だ、、
これ以上歩けないよ、、」
私は道の真ん中で倒れてしまった
「美紀!
頑張るんだ、、
あと少しで港に着くから、、
着いたら何時間でも
寝る事出来るから、、
死ぬ思いで頑張れ、、」
トクさんも意識朦朧としながら
必死に私に叫んだ
「分かってる
だけど足が動かないよ、、
もうしんどいよ、、」
私は泣きながら言った
「美紀!
頑張れ、、」
私はそのトクさんの声が
だんだん遠のくのを感じた
歩こうとしても体が
言う事を聞かない
多分熱があるのか
体中が熱かった
そして震えが止まらなくなった
雨は激しく私の倒れた体を
打ち付けていた
『もう駄目だ
目が勝手に閉じていく、、』
私は意識を失った、、
そして気がついたら
とても綺麗な一面花畑の
場所に立っていた
『ここはどこ?
さっきまで土砂降りの
山道にいたのに
もしかして私死んじゃったの?』
私はこの場所は天国なのかと思った
それ位綺麗で暖かくて穏やかな
お花畑だった
そしてそのお花畑を歩いていると
急にトクさんの声が聞こえた
トクさんの姿は見えず
声だけが聞こえる
「美紀!!
美紀!!
目を覚ませ!!」
それはお花畑の幸せな
景色とは全く違う
必死に叫んている
命がけの声だった、、
命がけの声はずっとずっと
聞こえていた、、
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