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第三章
影に潜む
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空牙は、突然立ち上がり不思議そうに見上げる二人に目を細める。
「門桜、まだまだだな、いや、相手の方が上手という事か…戦鬼もこの距離で感じてないか?それとも街の気配の方に気を持ってかれてるか?」
街から離れてるとはいえ、人の気配に落ち着かないなら気づくと思ったが、やはり距離はそこまで関係ないのかと1人呟く。
外にちらりと視線を向けてから、門桜に外の気配を探ってみろと笑う。
「え…あ……1人…墓場の外れ…?」
空牙の言葉に慌てて、周りを探るように目を閉じると小さく呟く。その回答に首を捻ってから静かに息を吐くとはずれだと額を小突く。
「正解は、門前の木陰…そっちは偽物だな。偵察慣れしてる…気配の消し方も上手い手練れだろうな」
まんまと騙されたなと笑う空牙に、しょんと全くわからなかったと落ち込む門桜に、何が起きたか分かっていない様子で2人を戦は見上げる。
「こっちの様子を伺ってる人間がいる。さっきお前の眼帯を外したときに気づいたんだろう」
鬼狩りだが、様子を見てるだけというとこを見ると判断し兼ねてるんだろうと空牙は、2人をその場に待機するように指示して入り口に向かう。
「確かにここだったはずなんだが…」
廃寺の入り口に着いた大男は、途中で消えた鬼の気配に気のせいだったかと首をひねる。
静かに息を吐くと、廃寺内を伺うように門扉の草陰に隠れる。
腰の布袋から、文字の書かれた紙で包まれた筒を一つ取り出すと、根元についた紐を食み引く。素早くそれを崩れた墓地へ向けて投げ込む。
ぽすりと草陰に落ちると、絵のような黒い墨文字から、しゅわしゅわと煙が立ち始め、しばらくすればなりを潜める人の型になる。
「中に…2人…?鬼の気配…ではないな…」
確かに強い鬼の気配がしたはずなんだが…と眉根を寄せ、それでも警戒するように様子を伺う。
「鬼が人に化ける…なんて話も聞く…最近のはそういう輩も多いからな、もしそうなら相当強いぞ」
2体いるとして、やりあえるかと服のあちこちに仕込んだ武器と、腰に下げられた刀を確認する。
動きなく、ただ講堂内に潜む二つを見張ってから、日が暮れすっかりと夜になった頃、ほんの少し二つの気配が動いた。
「なんだ…動いた?」
男は気づかれたかと、内心舌打つとダミーの方を確認してから、再び講堂の入口へ目を向ける。
「あ?…なんだ…もう1人いやがったのか」
感じている二つの気配とは別に入口の戸が開き、背中に嫌な汗が伝うのを感じ、腰の刀へと手を伸ばす。
「完璧に気配消してやがった…あれがさっきの気配のやつだったとしたらやべぇぞ…」
ならあの2人は餌の可能性もあるのかといつでも飛びかかれるよう身構え、入口を睨む。出てきた、酒場でみたことのある顔に驚いたように固まった。
空牙は入り口の戸を押すと、外へ出てまずは墓地裏に潜む偽物へちらりと視線を向ける。
それから門へと視線を向け、目を細めた。
「そこに居るのは、わかっている。出てこい」
室内にいる戦鬼の様子を気にしながら、門影に潜む男に声をかける。
しばらくして身じろぐ気配とともに、ゆっくりと男が姿を現した。
男の手は、いつでも斬りかかれるよう、刀にかかったまま人当たりのいい笑顔で口を開く。
「だれかと思ったら、あんたか!覚えてるか?俺だよ!壬生だ。昔、荒れ果ての地の酒場であったろ」
「みぶ…?あぁあの時の鬼狩りか」
かけられた言葉に訝しげに眉を寄せてから、聞き覚えのある場所と名前に、思い出したように呟く。
「成る程なぁ…あんたなら気配が感じれなくても無理ねぇか…ここいらで鬼の気配がしたんだが、しらねぇか?」
「さぁ、俺もそれを感じて来たんだが、俺たちが来た時には気配は消えてたな。」
首を振って答える空牙に壬生は目を細めて首をかしげる。
「そうかぁ?あんたら探してたようには見えなかったが…俺も大分早く到着したと思ったんだがなぁ…」
「そう見えたか?何もいなかったからそのままここを今晩の宿にさせてもらおうと思っただけなんだがな」
3人で泊まれそうな宿が高くてなと、空牙は首を振る。
訝しげに見ていた壬生は、納得しきれなさそうに刀からは手を離さず、数歩近寄った。
「ふぅん、酒場の時といい、あんたは気になってたんだ。ちょうどいい俺も混ぜてくれや」
問題ねぇだろと首をかしげる壬生に、ふっと笑うと刀に触れたままの壬生手元を指差す。
「そんな警戒してるやつにはいそうですか、とは言えんな」
空牙の言葉に壬生は確かにそうだなと刀から手を離す。
「まぁ、一晩くらいいいだろ?俺ぁ寂しい一人旅なんでな」
壬生の言葉に空牙はちらりと戦鬼の方を確認した。
空牙が外に出て声をかけたと同時に、門前の気配が動く。
2人は息を潜めて、空牙と壬生の会話に耳を立てる。
「戦鬼…大丈夫か?」
「あぁ、別段そこまで…さっきほどではない…な」
首をひねりながら、不思議だと呟く戦鬼に門桜は、人間の姿を見てないからかな?とつられるように首を傾げる。
聞こえて来た会話に、あの人戦鬼について知ってた人だと、驚いたように目を開く。
「俺を?」
「うん、2千年くらい前かな…戦鬼を探してる時に…あの人長寿種か…もしかして、ずっと戦鬼の事1人で追ってるのかな」
年月の流れはいまいち覚えてないから曖昧だけど、多分それくらいと思い出すように答える。
「長寿種?」
「うん、人間の殆どは100年前後で老いきって死ぬんだけど、たまに1000年ぐらいは生きる種族もいるんだよ…昔は結構半々くらいに居たらしいけど…今はとても珍しいからね」
空牙の姿に反応しない対峙している男に、100年で天寿を迎える種とは違うと説明する。
「あの人に戦鬼狩りに誘われたんだって」
「さっきから、いくさ…おに…?って俺の事か…」
「そう、その字の音を変えて君は戦鬼」
何でわざわざ変えたんだと首を傾げれば、かなり有名な名前だから人前じゃ呼べないでしょうと笑う。
不知夜は君の名前だけどまだ違うから、それで呼ぶこともできないからねと少し、寂しそうに目を伏せた。
「それにしても、なんともなさそうだね…」
「そうだな、なんでだろう…?」
2人の会話に聞き耳を立てながら、変化なく落ち着いている戦鬼に首をかしげると、ちらりとこちらを見る空牙と目が合う。
大丈夫だと示すように頷いてから、戦鬼を見る。
「どうやら、このままあの人もここに来るみたい、戦鬼は極力無言でね?あと不味いと思ったらすぐに教えて」
姿を見たら急変する可能性もあるけど、その時は、あの人間には悪いけどと眉尻を下げる。
わかったと頷く戦鬼に笑うと、空牙に問題ないと合図を送る。
合図に気づいた空牙は壬生と二言三言、再び言葉を交わすと中に連れ立って入ってきた。
「門桜、まだまだだな、いや、相手の方が上手という事か…戦鬼もこの距離で感じてないか?それとも街の気配の方に気を持ってかれてるか?」
街から離れてるとはいえ、人の気配に落ち着かないなら気づくと思ったが、やはり距離はそこまで関係ないのかと1人呟く。
外にちらりと視線を向けてから、門桜に外の気配を探ってみろと笑う。
「え…あ……1人…墓場の外れ…?」
空牙の言葉に慌てて、周りを探るように目を閉じると小さく呟く。その回答に首を捻ってから静かに息を吐くとはずれだと額を小突く。
「正解は、門前の木陰…そっちは偽物だな。偵察慣れしてる…気配の消し方も上手い手練れだろうな」
まんまと騙されたなと笑う空牙に、しょんと全くわからなかったと落ち込む門桜に、何が起きたか分かっていない様子で2人を戦は見上げる。
「こっちの様子を伺ってる人間がいる。さっきお前の眼帯を外したときに気づいたんだろう」
鬼狩りだが、様子を見てるだけというとこを見ると判断し兼ねてるんだろうと空牙は、2人をその場に待機するように指示して入り口に向かう。
「確かにここだったはずなんだが…」
廃寺の入り口に着いた大男は、途中で消えた鬼の気配に気のせいだったかと首をひねる。
静かに息を吐くと、廃寺内を伺うように門扉の草陰に隠れる。
腰の布袋から、文字の書かれた紙で包まれた筒を一つ取り出すと、根元についた紐を食み引く。素早くそれを崩れた墓地へ向けて投げ込む。
ぽすりと草陰に落ちると、絵のような黒い墨文字から、しゅわしゅわと煙が立ち始め、しばらくすればなりを潜める人の型になる。
「中に…2人…?鬼の気配…ではないな…」
確かに強い鬼の気配がしたはずなんだが…と眉根を寄せ、それでも警戒するように様子を伺う。
「鬼が人に化ける…なんて話も聞く…最近のはそういう輩も多いからな、もしそうなら相当強いぞ」
2体いるとして、やりあえるかと服のあちこちに仕込んだ武器と、腰に下げられた刀を確認する。
動きなく、ただ講堂内に潜む二つを見張ってから、日が暮れすっかりと夜になった頃、ほんの少し二つの気配が動いた。
「なんだ…動いた?」
男は気づかれたかと、内心舌打つとダミーの方を確認してから、再び講堂の入口へ目を向ける。
「あ?…なんだ…もう1人いやがったのか」
感じている二つの気配とは別に入口の戸が開き、背中に嫌な汗が伝うのを感じ、腰の刀へと手を伸ばす。
「完璧に気配消してやがった…あれがさっきの気配のやつだったとしたらやべぇぞ…」
ならあの2人は餌の可能性もあるのかといつでも飛びかかれるよう身構え、入口を睨む。出てきた、酒場でみたことのある顔に驚いたように固まった。
空牙は入り口の戸を押すと、外へ出てまずは墓地裏に潜む偽物へちらりと視線を向ける。
それから門へと視線を向け、目を細めた。
「そこに居るのは、わかっている。出てこい」
室内にいる戦鬼の様子を気にしながら、門影に潜む男に声をかける。
しばらくして身じろぐ気配とともに、ゆっくりと男が姿を現した。
男の手は、いつでも斬りかかれるよう、刀にかかったまま人当たりのいい笑顔で口を開く。
「だれかと思ったら、あんたか!覚えてるか?俺だよ!壬生だ。昔、荒れ果ての地の酒場であったろ」
「みぶ…?あぁあの時の鬼狩りか」
かけられた言葉に訝しげに眉を寄せてから、聞き覚えのある場所と名前に、思い出したように呟く。
「成る程なぁ…あんたなら気配が感じれなくても無理ねぇか…ここいらで鬼の気配がしたんだが、しらねぇか?」
「さぁ、俺もそれを感じて来たんだが、俺たちが来た時には気配は消えてたな。」
首を振って答える空牙に壬生は目を細めて首をかしげる。
「そうかぁ?あんたら探してたようには見えなかったが…俺も大分早く到着したと思ったんだがなぁ…」
「そう見えたか?何もいなかったからそのままここを今晩の宿にさせてもらおうと思っただけなんだがな」
3人で泊まれそうな宿が高くてなと、空牙は首を振る。
訝しげに見ていた壬生は、納得しきれなさそうに刀からは手を離さず、数歩近寄った。
「ふぅん、酒場の時といい、あんたは気になってたんだ。ちょうどいい俺も混ぜてくれや」
問題ねぇだろと首をかしげる壬生に、ふっと笑うと刀に触れたままの壬生手元を指差す。
「そんな警戒してるやつにはいそうですか、とは言えんな」
空牙の言葉に壬生は確かにそうだなと刀から手を離す。
「まぁ、一晩くらいいいだろ?俺ぁ寂しい一人旅なんでな」
壬生の言葉に空牙はちらりと戦鬼の方を確認した。
空牙が外に出て声をかけたと同時に、門前の気配が動く。
2人は息を潜めて、空牙と壬生の会話に耳を立てる。
「戦鬼…大丈夫か?」
「あぁ、別段そこまで…さっきほどではない…な」
首をひねりながら、不思議だと呟く戦鬼に門桜は、人間の姿を見てないからかな?とつられるように首を傾げる。
聞こえて来た会話に、あの人戦鬼について知ってた人だと、驚いたように目を開く。
「俺を?」
「うん、2千年くらい前かな…戦鬼を探してる時に…あの人長寿種か…もしかして、ずっと戦鬼の事1人で追ってるのかな」
年月の流れはいまいち覚えてないから曖昧だけど、多分それくらいと思い出すように答える。
「長寿種?」
「うん、人間の殆どは100年前後で老いきって死ぬんだけど、たまに1000年ぐらいは生きる種族もいるんだよ…昔は結構半々くらいに居たらしいけど…今はとても珍しいからね」
空牙の姿に反応しない対峙している男に、100年で天寿を迎える種とは違うと説明する。
「あの人に戦鬼狩りに誘われたんだって」
「さっきから、いくさ…おに…?って俺の事か…」
「そう、その字の音を変えて君は戦鬼」
何でわざわざ変えたんだと首を傾げれば、かなり有名な名前だから人前じゃ呼べないでしょうと笑う。
不知夜は君の名前だけどまだ違うから、それで呼ぶこともできないからねと少し、寂しそうに目を伏せた。
「それにしても、なんともなさそうだね…」
「そうだな、なんでだろう…?」
2人の会話に聞き耳を立てながら、変化なく落ち着いている戦鬼に首をかしげると、ちらりとこちらを見る空牙と目が合う。
大丈夫だと示すように頷いてから、戦鬼を見る。
「どうやら、このままあの人もここに来るみたい、戦鬼は極力無言でね?あと不味いと思ったらすぐに教えて」
姿を見たら急変する可能性もあるけど、その時は、あの人間には悪いけどと眉尻を下げる。
わかったと頷く戦鬼に笑うと、空牙に問題ないと合図を送る。
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