忘却令嬢はペットになりました

まりあんぬ

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「よし!」

朝食を食べ終えると早速例の魔法絵本、レストを手に取る

昨夜、気がつくと1時間はとうに過ぎ、ついには空が白ばみはじめた頃にハッとして絵本からこちらに戻ってきた

それくらいいい空間だった
お互い何かに集中している状態というのはなんともいえない居心地の良さがあった

まぁ、、専門書は難しく集中し過ぎたせいもある

ササッと帰り支度をし、集中している彼を邪魔するのもなんだか違う気がするし、何より相手は絵本の中の住人、、
次開いた時覚えてるかどうかも分からなければ、そもそも彼がいるかどうかも定かではないなと思い至り黙って絵本を閉じてしまった

魔法絵本は大抵開くと中でも同じように開かれた魔法絵本が手元に残っておりそれを閉じると現実に戻ってくる仕組みだ

「毎回あの美青年なのかしら、、それとも何人かいて、ランダム出現だったりして」

仮眠程度しか睡眠時間がとれていないが
目標を持って活力が出たせいか頭ははっきりしている

ぱらりと本を開くと昨日と全く変わらない景色に戻ってきた

そしてやはり美しい黒髪の青年が書類に向かっている

なんだか少し嬉しい

私が昨日使った食器類は綺麗に片付けられている
うーん、、これはどっちだろう
リセットされているのかしら?
それとも昨日私が来たことは覚えているのだろうか?

なんとなく初めましてな対応をされたら悲しい気がした
なんと声をかけようかと悩んでいるうちに彼が私に気がつく

「あぁ、良かった
昨日気がついたらいなくなっていたから、、
驚きましたよ。」

その言葉にドキリと胸が跳ねる
自分の中で唯一の存在がしっかりと私を認知していて話せて、、
本の中の住人ではあるが、むしろその方が都合がいい

現実の人だったら、犯罪者で奴隷な私がそばにいたら迷惑以外の何者でもないもんね、、

「すみません、その、、お邪魔してしまうかなと思って」

私の言葉に彼は優しく微笑む

「いえ、邪魔などでは無いですよ。
、、貴女の好きなだけ話しかけてください」

うぅ、、なんという優しい言葉
思わず泣いてしまいそうだ

「ありがとうございます、あの、、」

ここでハッとした、名前を聞いていない、、!

「ごめんなさい、たくさん居座っておいてお名前も聞いてなかったですね」

そこまで口にしてから、聞き返される可能性に思い至った
もう、こうなってから何日も経つのに、自分の名前を言わなくてはならないような場面になっておらず、必要もなかった

自分の名前さえわからないですなんて言ってしまっては不思議に思われるし、聞いた以上何か答えなくてはいけなくなる
本の住人に何を、とも思うがこうして目の前にすれば現実と変わらないし、、
何より今後も頻繁に通おうと思っているのだ、変な印象はつけたくなかった

どうしようかと視線を巡らせるとあの絵本、ステラが本棚にもあるのが目についた

「わ、、私の事はステラと、、!」

思わず立て続けに言ってしまった言葉に彼は驚いたように目を見開く

「あぁ、こちらこそまだ名乗っていなかったな、、
それじゃあ私の事はレストと」

あぁ、この絵本のタイトル、、彼の名前だったのか
それとも私の名乗った名前が絵本のタイトルを口に出したと分かったのだろうか?

「レストさん、ですね」

「えぇ、よろしくお願いしますねステラ」

呼ばれた名前に少し頬に熱が集まる

つい口走っただけの名前だが愛着もあるし、何よりしっかりと名前を呼ばれるというのはなかなかにいいものだ


ーー
ーーー
ーーーー

あれから、私の毎日は本当に充実したものになった
お昼過ぎから夜にかけてレストの所に通い、
まだまだ本が読みたいと思った日は夕飯とお風呂を済ませまた夜から夜中にかけてお邪魔したりもしている
時間を問わずお邪魔できるのも絵本相手だからこそだ

「こんにちはレスト、今日もお邪魔するわね」

レストはチラリと私のほうを見ると少し微笑みまた書類に視線を落とす

「ええどうぞ、好きなようにお過ごしください」

どうやら彼は比較的無口な性格なようでこちらから話しかけない限りは基本何かを話すことも無く、ずっと書類仕事をしている

特にそれが気まずいとか息苦しいとかは無く、穏やかで心地いい空気が流れている

何冊の本を読んだだろうか、少し疲れて伸びをする
ふと時計を見ると夕方に差し掛かろうという時間だった
茜色に染まる窓の外がキラキラとしていて綺麗だ
現実の部屋の窓からは見えなかったが、こちらは雪が降っている
絵本の中はずっと雪景色なのか
それともうつろうものなのか

こんなことを考えているとくぅっと少しお腹がなる

随分と集中していたし、お腹が空いてきた

私はハンカチに包んできたお菓子を広げる

少しマナー違反かなと思ったが、部屋で食べようが絵本の中で食べようが同じだ。

食器の入った棚に行きカップとソーサーを二つ、茶葉を一つ手にした

随分慣れたものだ
初めこそ私が淹れたお茶がレストの口に合うかなーとか
ドキドキしてしまったが、、

「ステラが淹れたものならなんでも美味しいですよ」

と、、
どうやらあまりこだわりが強くないタイプのようだ
一応絵本だし、子供のおままごとにも付き合ったり出来るようになっているのかもしれない
おままごとに参加するレスト、、みてみたい気もする

「少し休憩しませんか?」

そう声をかけると彼はすぐにペンを置く

「いつもありがとうございます」

そう言って席を立つとソファーに移動し私の向かいに座る

ほんの15分から30分程度、こうしてお茶をしながら会話をするのも楽しみの一つだ

「今日はマカロンです」

初めはハンカチの上に乗った菓子を広げるのが恥ずかしかったが、レストは無反応で
まるでお皿に用意されたものを食べるかのように指を伸ばした為、特に気にすることでもなかったかと思い
今では堂々と机にハンカチを広げている

「雪、結構積もってそうですね」

何気なく呟くとレストはチラリと外を見る

「ずっと室内で書類ばかり見ているので気が付きませんでした
外は寒そうですね」

カチャリとソーサーの上に置かれたカップが音を立てる

「ずーっと雪ってわけではないんですね」

私の言葉にレストは少しキョトンとした後
あぁ、と何かを思い出したかのように笑う

「外と同じように季節は移ろいますよ」

外と同じように、という事は今は冬なのか
現実の私は部屋から出られずにずっと室内だし
窓の外に雪は降っていなかった

窓から見える庭の木は常緑樹なのだろう
季節感というものを感じられていなかった為思わぬ収穫だ

「そっかぁ、冬だったのか、、そのうち雪とか降るのかしら、、」

呟くように出た言葉
何気ない言葉だったが不思議そうにアメジスト色の紫の目が私を見つめる

「あ!えっと、、実は絵本の外でもずーっと本を読んでいて、、、
出不精なんです、私」

慌てて取り繕ったが変だったに違いない

季節がわからないほどの出不精ってなんだよ!!
まぁ、こんな頻度で絵本を開いている時点でとんでもない引きこもり女だとは思われているだろうけど、、

「そうですか、、あまり無理し過ぎないように、、たまには庭園を散歩したりも良いものですよ?」

そちらはまだ雪も降っていないでしょうし、、

そう続いた言葉に感心する
そんなことまで分かるのかぁなんて思っていたがレストはなんだか少し慌てる素振りをして口を閉ざした

魔法絵本は比較的高価なものだし、庭園がある前提の会話は良いとして、外の天候まで分かるものなのだろうか、とも少し思ったが
ここまで精巧な会話だって出来るのだ
それくらい分かっても不思議ではない

本当は少し、ここが現実で
どこかの誰かのところに転移しているのでは?とも思ったが
外の雪を見てそれはないなと思った
天候が異なるほどの長距離を移動できる魔道具なんて聞いたこともないし、もしあったとしたらとんでもない量の魔力を必要とするはずだ
表紙にとんでもないサイズの魔法石が嵌め込まれている訳でもないし
私の魔力を消費しているとしたら、、こんな平然と何度も往復できるはずがない

それに何より、どんな時間に来てもずっと書類仕事をしているレストがここは絵本の中だと物語っている

きっと美男子の仕事風景
みたいなコンセプトの絵本なのだろう

貴婦人に人気そうだ

「ステラ、、、また変なことを考えていますね?」

飛躍する思想を止められ
ジトっと私を見つめるレストの綺麗な瞳を見つめ返す

「いえいえ、この絵本の素晴らしさについて考えていただけですよ」

私の返答に何を言っているのやらと呆れたように肩をすくめると空になったティーカップを置き立ち上がる

「飲み終えたものは置いておいて下さい」

そう言い残してまた書類仕事に戻ったレストにはーいと軽く返事をする

レストの美麗な顔をこっそり眺めながらまたマカロンに手を伸ばし紅茶に口をつける

ここでいくら食べたり飲んだりしても、本を閉じて戻るとお腹の膨れは元通りなくなってしまう
たとえ現実から持ち込んでこちらで食べたとしても必ず戻ると何も食べていなかったような空腹に襲われる

それでも私がせっかくの軽食をこちらで食べるのはもちろん
レストと食べた方がずっと美味しいからだ

「うん、美男子は食事までもおいしくするのか」

私の呟きにレストは少しだけ視線を上げ、やれやれと言ったように首を振った


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