忘却令嬢はペットになりました

まりあんぬ

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ガチャガチャ

鍵が開く音で私は読んでいた本を閉じる

あれから数日、私は退屈ながらも奴隷とは思えない穏やかな日々を過ごしている。

まぁ、軟禁状態ではあるのだけれど
あの日、ナイトウェアを着て浴室を出ると執事長はサイドチェストに置いてあった紙を眺めていた

「あの、、?」

声をかけると小さなメモ用紙、

君の好きにしてくれていい

と書かれたものだ
それを胸ポケットにしまい口を開く

「申し訳ございませんが、若君が戻るまでこの部屋から出ないようお願いできますか?」

「あ、、分かりました」

この人の言うことを聞く他ないため頷いたのだが、信用ないのか数時間後には部屋の外から鍵が取り付けられた

やる事のない退屈な日々の始まりだったが

幸い、この部屋には大きな本棚があり、割とぎっしり本が置いてあった
とりあえずの退屈凌ぎにはなったが、それも時間の問題だ

なかなか堅固な鍵なようで、音が鳴り始めてしばらく経つ。
ようやく開いた扉から朝食と着替えやタオルなどが乗っているワゴンだけが押し入れられすぐさま閉められる

ガチャンッ

慌てて閉められた鍵、、
ほんの少しワゴンを押す指先を確認できたかできないか程度にしか人を感じられない

カラカラと音を立てながら余韻で少しだけ前に進んだワゴンに私はなんだか少し悲しくなる

3段のワゴンには一番上に朝食
2段目にクッキーなどの菓子類
一番下にタオルと着替えが置いてある

「ご飯が食べられるだけ十分よ、ね!」

奴隷生活とは思えないほど充実しているじゃないか!
一日に二回、朝と夜にこうして少し多めにご飯の乗ったトレイが部屋にねじ込まれるわけだし

お風呂だって好きなタイミングに入れ、毎日清潔なタオルとお洋服が支給されている

まぁ、誰に会うことも誰と会話することもないんだけれど、、
それは贅沢な悩みというやつだ
世の奴隷達がどんな生活を送っているかは知らないが私の生活はそう、さしずめペットのようなものではないか

チラリとベットと、、先程ので4台目となったワゴンを眺める
うん、、そろそろだな

この部屋にある程度ワゴンが溜まってくると外から

「浴室に行ってくださいっっ!!」

と叫ばれる

浴室に移動すると恐る恐る侍女が入ってきて今度は浴室に鍵がかけられる
その間に部屋に溜まったワゴンが運び出され、、ついでにシーツまで変えてくれたりする
まぁ、、どんな犯罪を犯したかもわからない奴と部屋でサシになりたい人なんていないよね

私が彼女達でもこうすると思う
なんというか、、猛獣になった気分だ

少し後ろ向きになった気持ちをパンっと頬を叩いて立て直す

「、、今日もご飯が美味しい、うん、、それで十分!!」

強制労働も、それこそ変態ジジイの夜のお相手もない
ただただ孤独なだけ
いいじゃないか!
カゴの中の鳥と相違ない、、うん、セレブペット生活だ!

そう自分に言い聞かせながら時間を潰すようにゆっくりとご飯を完食するとまた本棚に足を向けた

もうすでに半分以上読み切ってしまったが、これだけ蔵書があればあと何周かは楽しめるはずだ


ーー
ーーー
ーーーー

「あ、、、」

さらに数日が経った

ついに、後残り二冊となってしまったところで初めて、残りの二冊がまさかの絵本だと言う事に気がついてしまった

今日中に読み終わるどころか、1時間も持たないではないか
そう思ったがそのうちの一冊のタイトルを見て胸がキュッと締め付けられる

「、、、ステラ?」

その絵本のタイトルを見て、なんだか鼻がツンとした

懐かしい、

熱くなる目頭に思わず絵本を抱きしめる

私が大好きだった絵本だ
よく辛いこととか、悲しいことがあったらこの絵本を開いていた

ステラ、これは一時期貴族間でとても流行った魔法絵本の一種だ
開くと絵本の中に入れるのだが、広い草原に夜空、そしえそこに輝く一番星ステラ
それをただぼんやりと眺めるだけと言うあまり子供向けではない魔法絵本だ

動物が飛び出してきたり、不思議な国を散歩できる絵本が人気な中、なぜか私はこれがとても好きだった

少しだけ思い出された記憶に胸がいっぱいになりながら絵本を開く

ザァァ

風の音と揺れる芝
そして空に輝く星
その中でひときわ綺麗に輝くステラに私はまた涙を流した

本当はすごくすごく不安で押しつぶされそうだった

もう何日も経っているが未だ戻ってきていない若君がいい人とは限らない
ずっと続くとは思えない今の生活は風前のチリのように不安定で儚いものだ
いい人かもしれないじゃない
と昼間は言い聞かせていても夜中に急に不安に襲われて眠れない日の方が増えてきている

それに記憶がないと言うのは、真っ暗な海の中に1人投げ出されたような強い恐怖感があった
心を強く持とうにも私を支えるような思い出も何もない、、
でも、、本当に些細なことだけれど
この輝く一番星が少しだけ私を支えてくれるような気がした
それは幼き日の自分がこれを見ていたと言う記憶からか
それとも暗い夜空を照らすこの輝きが少し自分に重なって希望を持てたのかは分からない

横になって何時間ともなくぼんやりと夜空を眺めた

本から出ると辺りは真っ暗になっており所在なさげなワゴンの上に冷め切った夕飯が乗っていた

一体どれほど本の中にいたのかとも思ったがそれを誰に気付かれることもなければ
誰に心配されることもない

少し前だったら自分という存在が誰にも認知されていないという事実にもう少し落ち込んでいたかもしれないが今はなんだかどうでもいい事のように思えた

冷め切った食事を喉に流し込むと最後の一冊に手を伸ばす

「レスト、、休憩?」

ステラを蔵書に置いていた人だ、なんだか少し期待が出来る

そう思いながら魔法絵本を開く

フワリと鼻を紙とインクの匂いがくすぐる
執務室だろうか
壁面は全て本で埋められている
机を挟んでソファが二脚並べられており、4人ほどで談笑できそうなスペースが設けられいる
その奥に書類が山積みになった机、、
そして書類に向かう男性が座っていた
さすが絵本、と言うべきか美麗という言葉がぴったりと当てはまる人だ
左側に一つに括られている艶やかな黒い長髪は女性を思わせるが端正な顔立ちの男性だ
メガネの奥の瞳は書類に向かって伏せているせいか睫毛の長さをより一層際立たせている
カリカリと紙にペンを走らせていた彼が私に気がついて顔を上げた

「、、、ん?」

美しいアメジストのような紫の瞳が自分に向けられドキリと心臓が跳ねた

「あっ、、貴方は本の賢者でしょうか??」

幻想的なほど美しい男性に昔聞いた御伽話の人物を思い浮かべついつい声を発したが、
久しぶりの会話に声が上擦ってしまった

本の賢者
それは幼子に言い伝えられる御伽話のようなもので
その昔ある賢者が永遠の時を求め己を本に閉じ込めたと言うものだ
自分でもなんて突拍子のない質問だと思ったが彼は驚いたように何度か瞬きをするとクスリと笑う

「いや、、本の賢者とは随分懐かしいな、、
残念ながら違いますよ」

物腰の柔らかい穏やかな声音にカァァっと顔に熱が集まるのが分かった
久しぶりの会話だからか
はたまた会話の相手がとんでもない美人さんだから

どちらもか、、、

「それじゃあここは、、」

周囲を眺め、手元に残った開かれたままの本に視線を落とす
休息、、、
なるほど、、美男子を見ながら休憩をという事?
癒し的な、、休息とするには少し緊張はしてしまいそうだけれど

「でもまぁ、、うん、ゆっくり勉強できそうな場所ではあるわね、、こんな魔法絵本があったなんて」

「魔法絵本、、?」

返された言葉に首を傾げる

あ、もしや本の住人に言うべきことではなかったかも!?

彼は少しだけ思案した後ふむ、と頷く

「、、、あぁ、うん、、そうだな、
本を読んだり、勉強したり、、寝てくださっても構いませんよ。
あなたの好きなようにしてください。
私はさしずめこの絵本の案内人、と言ったところでしょうか?」

イタズラな笑みを浮かべる彼におお!と思わず声が漏れてしまった
本はこれで終了と思っていたがまさか本の中で本が読めるとは!!

「良かったです!退屈する予定だったので!!
たくさん通う事になりそうです!!」

彼は私の言葉に少し考える素振りをするとパチンッと指を鳴らす
彼の顔に似合わず指に大量についたアクセサリーがカチャリと音を鳴らす
人差し指についた指輪の大きな赤い石が少し光ると私の体がフワリと浮きソファーに降ろされる
食器棚からカップとソーサーが1セット動き出すと空中に浮かび机にセットされる
棚から茶葉の入った缶がいくつか飛び出て並ぶ。
小さなお皿にクッキーが数枚並べられる

あっという間に机の上に1人分の簡単なお茶会の準備が整う

「もう夜も遅い、1時間程度で帰った方が良さそうですね」

砂時計がとんと机の上に置かれサラサラと砂を落とす

「わかりました」

私はそう返すと缶から茶葉を取り出しカップに入れお湯を注ぐ
待ってる間にと茶葉の入った缶を持って立つ

「やっておきますよ?」

「いえ、これくらいはさせてください」

缶が出てきた棚に茶葉を戻すついでに本棚を眺める
領地経営に関する本が多いが魔法に関する本もある
専門書か、、仕事が出来るってアピールができればもしかしたら大切にしてもらえるかもしれない!

奴隷としての格を上げる?為にもここは一つ頑張ってみよう

目標ができるとなんだか視界が開けたような気がした

紅茶を飲み、クッキーをつまみながらパラパラと本をめくる
チラリと視線を上げるとカリカリと書類にペンを走らせる美しい横顔

うん、これはなかなか、、

いい絵本だ


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