忘却令嬢はペットになりました

まりあんぬ

文字の大きさ
12 / 16

12

しおりを挟む

震える手がどうしてももたつき、なんとか胸元の紐をシュルリと解いたところで突然ガバリと覆い被さられる

無遠慮に体重をかけられ後ろに倒れ込んだ際、後頭部を打った

「大人しくしてれば優しくしてやるよ」

痛さよりも恐怖の方が勝る
押し倒され、上からニヤリと笑う彼に対して
ワンピース形のナイトウェアの防御力はあまりに低く
簡単に顕になった太ももを撫で上げられる
お酒のせいか熱を帯びた手のひら
怯えから体が固まりうまく動けない
それでも目だけは離せず、舌なめずりをする彼と目が合う

今からこの人に、私は、、

そう思った瞬間、やはり思い出すのはレストの事で
涙が溢れそうになる瞳をギュッと閉じると
朗らかに笑う彼との思い出が走馬灯のように駆け巡った

「貴女の好きなようにお過ごしください」

フフッと微笑む彼を思い出しピクリと肩が跳ねる
どうしてずっと忘れていたんだろう

「あの手紙を、、この人が、、?」

「、、、あ?」

自身のベルトに手をかけていた彼は突然の私の発言に動きを止める
こんな人が、、手紙を残したりするだろうか
あれは、目覚めた時の私を配慮しての行動だろう
この人はそんなことまで気を回すだろうか?

「君の好きにしてくれていいって、、そう手紙を下さいましたよね?」

私の言葉にキョトンとしている彼にやはりと思う
そもそも、好きして良いだなんて、奴隷にかける言葉ではないのだ

「私を買ったのは貴方じゃないのね、、!」

私の言葉に彼はハッと笑う

「母上が、お前を買ったんだろう?
だったら俺のものだ」

その言葉にむしろ私が笑いたくなる
若様に確認
そう執事長は言っていた
つまり、私を買ったのは伯爵夫人でないことは確かなのだ

それに、
彼は、、レストは、私が訪れる度に自由に過ごせと、好きにして良いと言ってくれていた
サイドチェストに置いてあった手紙と同じ文言だ
執事長が回収した、あの手紙
すっかり忘れていた

レストは本当に本当に忙しそうだった
それでも私に唯一残した言葉がアレだったんだ

「私を買ったのは夫人でも、貴方でもなくレストだわ!」

バチンッ

頬に走る痛みで自分がビンタされたことに気がついた

「レスト、、レストだと!?
奴隷の分際で、、俺を馬鹿にしているのか!!」

彼は整いだけは良い顔を歪めながら両手で頭を抱えるようにして仰反る
跨がれたままの私はなんとか身じろぎをして後ずさるようにしてそこから這い出る

「ふざけるなよ、、あいつのモノなんてここには一つもない
全部、全部俺のものだ」

ギロリとコチラを睨みつけられるがそんなことはどうでも良い
レストは、実在する、この家の関係者だ
私はあの本を通して彼に会いに行っていただけだったのだ
つまり、絵本に入っていたのではなくテレポートしていたということだ

この部屋から逃げ出したいが、扉の方に立たれてしまっている
私はお守りのように机に置き続けていた絵本を手にすると窓に向かい走りベランダに出る

「お前は俺の糧になるために買われたんだよ!
どのみち死ぬくせに、、主人を一晩楽しませることもできねぇのか?」

追って窓辺に来た彼を刺繍まみれのロープ片手に振り返る
どの刺繍が魔力増強で、どの刺繍が筋力増強かなんて分からない
でも、これを握りしめれば多少、、抵抗出来るはず、、!!

私は絵本の装丁が分厚く華美なことに感謝しながらそれを振り上げる

バコン

思い切り打つようにお腹めがけて本を打ち込むと驚くほど吹き飛びドアを破って廊下まで突き抜ける

「、、、えっ!?!?」

なんか、竜巻みたいな、、魔法も発動した??
え?魔法使えた!?

どんなに練習しても形にならなかったのに、、今!?
手にロープをぐるぐる巻きにしたおかげか
テレポートなんて大魔術を可能にした絵本のおかげか
初めて魔法が発動した

大きな音にざわつき出した屋敷内に私はハッとする
どうしよう、、!
少なくともこのまま、ここにいるわけにはいかない
糧だの
どのみち死ぬだの言っていたのだ
逃げる一択だ

私は結び目を魔法で切ると、手にロープを巻いたまま、絵本を抱えて走り出す

幸い、私の見た目を知らない使用人ばかりな為ざわざわと集まってきた人たちはあまり私に気がついていないようだ
そんなことより廊下で伸びているあの変態息子の方が使用人一同にとっては一大事なようだ

外につながる玄関の扉まで走ったところで、全てを見越していたのか、そこには執事長がいた

どうしようかと狼狽えたが執事長は何も言わずにそっと玄関の施錠を外し立ち去る

伯爵家に使えている立場として唯一できる後押しに感謝する

どうかお元気で、そう思いながら扉を開けたところで後ろから甲高い声に静止される

「お待ちなさい!!」

キンッと通る声に思わず振り向いてしまった
玄関ホールにある階段の上から見下ろすように伯爵夫人が立っていた
もちろん無視して行こう思ったが、隣に立つローブを被った人影に思わず止まってしまった

レストがいつも羽織っていた、濃紺に銀の刺繍のローブだった
フードをかぶっており顔は見えないが懐かしい装い

「、、、レスト?」

つい口をついた言葉
私が気を取られているうちにいつだか私を跪かせたメイド二人が私を両脇から押さえつける

そして私を嘲笑うかのようにフードを外したのは50代後半くらいの中年男性だった
レストじゃなかった、、
少し白髪混じりの髪の毛をぴっちりオールバックにした気難しそうな顔立ちの男性は私をみるなり興奮したように声を上げる

「あぁ、まさかこれほどの魔力量とは、、!」

伯爵夫人と同じ、私を人として見ていない、冷たい目だ

「はっ、やはりね、、!
あの卑しい男が大金叩いて買った奴隷だもの何かあると思っていたのよ」

カツンカツンと近づいてくる二人に私はどう逃げようかと考える
大丈夫、筋力増強してるもの!!!

ぐっと体を捩ると私の腕を掴んでいたメイドたちを簡単に振り落とすことが出来た

今だと振り返り、扉に向かう
わずかに開いた隙間から月明かりが顔を照らすがすぐに遮られる

頭から血を流した状態でランランとした目で私をみる伯爵子息は完全にイカれていると思う

「残念だったな!」

「カイン!待ちなさい!!」

後ろから伯爵夫人の叫び声が聞こえる

彼は手に持った羅針盤のようなものを私に押し当てる
羅針盤の中心に嵌められていた魔力石がぴかりと光り何も見えなくなる
体中から何かが抜けるような感覚と共に体に力が入らなくなる
これは、、魔力切れに似ている

あのおじさん、魔力量の事で興奮していたな
それに、糧だのなんだの言われた
あぁ、そういう事か

前にレストがつけているたくさんの魔力石に魔力を注いだ時のように
魔力石に大量の魔力を入れる為に使われるのか

教科書に書いてあった
血液と同じように、魔力も大量に失うとショック死することがあると

それに、、昔、人を魔力石にする禁術を作った人がいるという文献も読んだ
普通の魔力石と違い、力を失う事の無い
半永久的に使用できる魔石、、
糧となる人間の魔力量でその質が変わるというが、、
私はそれにでもされるのだろう

最後の力を振り絞り抱えたままの絵本をなんとか少しだけ開く

彼に、レストに、、もう一度会いたい

そう思ったが、叶うわけもなく
私の意識はぷつりと途絶えた

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

婚約破棄したら食べられました(物理)

かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。 婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。 そんな日々が日常と化していたある日 リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる グロは無し

【完結】島流しされた役立たず王女ですがサバイバルしている間に最強皇帝に溺愛されてました!

●やきいもほくほく●
恋愛
──目が覚めると海の上だった!? 「メイジー・ド・シールカイズ、あなたを国外に追放するわ!」 長年、虐げられてきた『役立たず王女』メイジーは異母姉妹であるジャシンスに嵌められて島流しにされている最中に前世の記憶を取り戻す。 前世でも家族に裏切られて死んだメイジーは諦めて死のうとするものの、最後まで足掻こうと決意する。 奮起したメイジーはなりふり構わず生き残るために行動をする。 そして……メイジーが辿り着いた島にいたのは島民に神様と祀られるガブリエーレだった。 この出会いがメイジーの運命を大きく変える!? 言葉が通じないため食われそうになり、生け贄にされそうになり、海に流されそうになり、死にかけながらもサバイバル生活を開始する。 ガブリエーレの世話をしつつ、メイジーは〝あるもの〟を見つけて成り上がりを決意。 ガブリエーレに振り回されつつ、彼の〝本来の姿〟を知ったメイジーは──。 これは気弱で争いに負けた王女が逞しく島で生き抜き、神様と運を味方につけて無双する爽快ストーリー!

幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫
恋愛
 幼い頃に、セレフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セレフィアはそれを喜んで受け入れた。  その後、十年以上彼と再会することはなかった。  三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セレフィアはその場を離れた。  しかし治療師として働いているセレフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。  それどころか、シルヴァードはセレフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。 「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」 「お願い、セレフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」 ※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

ヤンデレ王子に鉄槌を

ましろ
恋愛
私がサフィア王子と婚約したのは7歳のとき。彼は13歳だった。 ……あれ、変態? そう、ただいま走馬灯がかけ巡っておりました。だって人生最大のピンチだったから。 「愛しいアリアネル。君が他の男を見つめるなんて許せない」 そう。殿下がヤンデレ……いえ、病んでる発言をして部屋に鍵を掛け、私をベッドに押し倒したから! 「君は僕だけのものだ」 いやいやいやいや。私は私のものですよ! 何とか救いを求めて脳内がフル稼働したらどうやら現世だけでは足りずに前世まで漁くってしまったみたいです。 逃げられるか、私っ! ✻基本ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

処理中です...