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《22》絶交を阻止する
しおりを挟む「じゃあ、誠意を持って全力で相手してやんねぇとな」
「………」
目の前に、木剣の切っ先が突き立てられていた。
尻もちを着いたノワは、視線だけを相手に向けた。
「こんなもんか」
独りごちたリダルが剣を下ろす。
目立つところでは勝負したくないと言うリダルのせいで、一体一の勝負は、闘技場の端で行われた。
負ける所を見られたくないからだろうと、内心あざ笑っていたのだが───結果はこちらの惨敗。
「見かけによらずやるじゃねぇか」
まあ、俺の勝ちだけど。と、整った唇が紡ぐ。ノワは信じられないような思いで、降参の言葉を口にした。
対戦中、リダルは暫くこちらの実力を試すように適当な防御を続けていた。
やがて舞うようなステップでノワを翻弄させ始め、気がついた時には顔に剣先を突きつけられていたのだ。
ノワと対照的に、リダルの表情は涼し気だった。
「俺の言う事、何でも1つ聞くんだろ?」
「··········」
ノワは渋々頷いた。
相手はすこぶる上機嫌だ。
「金銭的なものとか、命に関わるのは駄目だから!」
慌てて付け足す。最初はそんなこと言ってなかっただろと、もっともな返答が返ってきた。
「それに、んなもん興味ねぇ」
こんなつもりではなかったのに。
内心地団駄をふむが、負けは負けだ。
「·····で、何すればいい?」
ぶっきらぼうに言う。リダルは考える素振りを見せたあと、じゃあ、と口を開いた。
「保留」
「?」
「何か出来た時に言う」
「は?!そんなのずる·····」
「決まりなんてなかったろ」
もはやぐうの音も出ない。
ただでさえ弱みを握られているのに、自ら首を絞める提案をしてしまうとは。
(けど、なんでリダルはこんなに、剣の扱いが上手いんだ?)
「あのさ、リダル·····あれ?」
先ほどまで隣にいたはずのリダルがいない。
周りを見渡すと、木剣を肩に担いだ彼は、フィールドから出るところだった。
ノワは慌てて彼に声をかけた。
「どこ行くの?」
「飽きた」
「は?」
「上手く伝えとけよ」
つまり、サボりがバレないよう監督生に話をしておけということだろうか。
冗談じゃない。
「じゃあ、それが願い事って事でいいよな?!」
これでウィンウィンだろう。
胸を張るノワだが、現実はそう甘くはなかった。
「はぁ?"友達"のささやかな頼みも聞けねぇのか?」
振り返った彼は、今日一意地悪げに笑う。
「悲しくて胸が張り裂けそうだぜ」
嫌な予感がする。
「俺達"絶交"だな」
「!」
リダルの言葉の意味を理解すると、ノワの顔はサッと青ざめた。
彼との友好関係は、ノワの秘密──即ち、ノワのフィアンへの想いや、変態行為を黙秘するという上で成り立っている。
"絶交"は、即ちそれを取り消すという意味だ。
ノワにとっては何よりも恐ろしい破滅の言葉だった。
「つ、伝えとけばいいんだろ」
「おう」
睨みつけながらも彼の"頼み事"を引き受けるしかなくなる。
丁度、リダルと入れ替わりに、ロイドがやってきた。
「ウォルター先輩!」
振り返ったロイドは相変わらず威圧的な見た目だ。
今日はそれに加え、機嫌が優れないようにも見えた。
「クラスメイトのリダルなんですが、午後から体調不良で、今日は練習に参加できないみたいです」
「言伝を頼まれたのか?」
ロ本人が直接言いに来る機会はあったはずだろうと言うロイド。
ノワは険しくなった三白眼に震え上がった。
この様子だと、明日辺りリダルの元へ向かいそうだ。
ノワはええっとと話を続けた。
「それが~、彼、朝から熱と冷や汗がすごくて、授業中も本当に気を失いそうなくらい体調が悪くて、あの、意識がもう本当に朦朧としてたので、僕が無理矢理家に返したんです·····剣練部には僕から伝えておくからって·····」
気がつけば自分が責任を取るような言い回しになってしまっている。
しかしもう手遅れだ。
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