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《23》披露パーティ

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「か、勝手な判断をして、申し訳ありません·····罰なら、僕が受けますから·····」


消え入りそうな声で謝る。ぎゅっと拳を握った。

この世界の罰は平手打ちや鞭打ちだ。
ノワをしばらく見下ろしていたロイドは、諦めるようなため息をついた。


「·····もういい。本人には俺から注意しておく」

「!で、でも彼は·····」

「今回は口頭だけで済ますが、次はない」


ノワのほっとした顔を見ながら、ロイドはある種感心していた。
自分を犠牲にしてまで具合の悪い友人を庇ったところで、損をするのはノワだ。彼の行いは賢明とは言えない。

けれど誰よりも心の優しい後輩だ。

しかし体裁のために厳しい視線をやる。
目が合ったノワはしゅんと項垂れた。


「あと、ウォルター先輩…」


怖がっているくせに、まだ何か用があるらしい。

ロイドはこの場から立ち去りたかった。
見た目に囚われず、この自分を「優しい」と評価したノワに、これ以上恐れられたくなかったからだ。


「これ、昨日のお礼です。僕にとってはすごく嬉しい事だったから·····」

「·····これは·····」


差し出された小包を受け取る。
ふわりと甘い匂いが香った。

ノワは前と同じく、気恥しそうに少し俯いた。


「チョコレートクッキーです。あ!あの、この前のおもちの材料が余ったから作っただけで、いや、余り物ってことじゃなくて·····とりあえず、良ければ受け取ってください!」


もちの材料には、バターや小麦を使うものだろうか。
疑問は口にしなかった。

嬉しそうに笑みを零し離れていくノワ。

ロイドはそっと息を吐いた。
昨日から取れなかった胸のつかえが、嘘のようにとかされてゆく。

フィアンと話す時のノワの横顔や、バーテンベルクとの噂話は、ロイドを酷く不快にさせた。

もしもユージーンの言う通り、彼が男色家だったとしても、ここまで不快には思わなかっただろう。

男色家のノワに嫌悪感を抱いたのではない。
彼が自分以外の誰かを恋慕っていると想像した時──酷い苛立ちを覚えたのだ。

ロイドはその場に立ちすくんだ。

剣術場の騒音は酷く遠くに感じていた。













─────────────────





メインダイニングには豪華な料理が並んでいた。

オーケストラの伴奏が大理石の天井へ響き、貴賓たちの和やかな談笑が会場内の華やかさに磨きをかけている。

披露パーティー当日。
ものの十数分で人混みに酔ってしまったノワは、涼しい夜風を吸い込み、ため息をついた。
様子を見兼ねたフィアンが、バルコニーまで連れてくれたのだ。


「大丈夫か?」


憧れの最推しと、ロマンチックな雰囲気で2人きり。
予想すらしない棚ぼた展開だ。

頬を撫でる風が心地よい。

隣を覗き見ると、美術品のような横顔は、じっと夜空を見上げていた。

深呼吸を繰り返す。

胸が締め付けられるような、優しいコロンの香りがした。


「緊張してるだろ」



フィアンが悪戯っぽく笑う。


「う·····」


大勢の前に出る事自体は、大して苦ではない。
前世で星の数ほどこなしてきたプレゼンテーションのおかげだ。

ただ、今回は命がかかっている故、万が一のことを考えてしまう。


(失敗したら·····)


主要人物3人を敵に回すことになるかもしれない。
悪役令息のノワは、物語の展開上、断罪されるためだけに用意されたキャラクター。
生き残るためには、彼らに気にいられなければいけない。

だからこのイベントには、命運がかかっているといっても過言では無い。


「なんて顔してんだよ」

「!」


眉間を長い指先にトンと押される。
ノワはハッとした。

しっかりしなければ。
何とかして気を持ち直そうとするが、不安感は拭えなかった。


「シミュレーションするんだ」


フィアンがふいに告げた。


ノワが首を傾げる。


「瞼を閉じて、成功した時の事を」


フィアンの声は、普段よりも優しく聞こえた。


「始まりから終わりまで」


ノワは瞼を閉じ、一通りの流れを思い描く。


「難しいか?」


そっと目を開ける。

目の前に、精悍な顔立ちが広がった。

力強く、艶やかな眼差しが、ノワだけを見つめている。



「·····いいえ·····」


それは、漠然と描いていた失敗よりも具体的に、安易に想像することが出来た。








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