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《63》戒め
しおりを挟む聞き捨てならない言葉だ。
ノワは激しく首を横に振った。
「全然、仲良くないですよ!」
そもそも彼との関係は、脅しの上で成り立っているようなものだ。
三白眼は少し驚くように見開かれた。
「僕は、ウォルター先輩ともっと仲良くなりたいな~、なんて、」
えへへ、と愛嬌たっぷりに笑うノワ。
「同学年と仲良くなるのが先だ」と、素っ気ない返答が返ってきた。
ロイドは、釣れない態度がカッコいいとゲームのレビューで話題だった。
隙のない横顔を覗き見る。
日焼けした頬の大きな切り傷の跡が、厳つさをましている。
が、やはり見れば見るほど男前だ。
(恋愛感情とは違うけど、どうせならヒロインに転生したかったな·····)
もう何度目かも分からない願望を脳内で呟く。
不意に、ロイドがこちらを振り返った。
「どこまでついてくるつもりだ?」
「え?」
周りを見渡すノワ。
1学年の荷物置き場は、反対方向の屋根だ。
気がつけば、彼のあとを付いてきてしまったようだった。
「あ·····ぼうっとしてて·····」
間抜けだなんて思われただろうか。
誤魔化すようにはにかむ。ロイドは無愛想な無表情を崩さなかった。
「·····いや、待て」
引き止められ、立ち止まる。
ロイドの方からノワへ声をかけるのは、事務的な用事がある時くらいだ。
一体なんの用だろう。
多少浮ついた気持ちで、彼のもとへと駆け寄る。
「信頼されるのは、言動に責任がある者だ」
野太い声は前触れもなくそう言った。
「·····?」
少し考えるように視線を伏せたるロイド。
まるで、言葉を選びあぐねているようだ。
考える姿も様になっている。
ノワは彼の言葉を咀嚼しようと、脳みそをフル起動した。
「悪い噂は、事実であれ虚実であれ、当人に落ち度がある」
「噂?」
自分の有名な噂といえばキースとのことだろうか。
デタラメだと言おうとした声は、ロイドに遮られた。
「軽はずみな言動はやめろ」
偶然、ユージーンとノワが一緒にいるところを目撃した。
校門の前で口付けをしたユージーンと、それを受け入れたノワ。
それだけの事で、確固たる権力を持ったユージーンの面子が潰れることは無に等しいだろう。
しかし、ノワは違う。
さらに生徒会に所属している彼は、生徒の代表であり、学園の看板を背負っている立場だ。
ノワのためにこのことは伝えなければいけないと思っていた。
彼なら、自分の口にした言葉の意味が理解できるだろう。
話を一方的に切り上げ、ロイドはノワへ背を向けた。
この場と共にノワへの特別な感情も消し去ろう。
これからも、1人の後輩と先輩という立場を忘れてはいけない。
血迷うなど、あってはならないのだ。
「待ってください」
ノワは遠ざかる背中を引き止めた。
彼の言うことは正しい。
噂が嘘か本当かなど、広まってしまったあとはなんの意味もなさなくなる。
しかし、今気にしているのはそんなことじゃなかった。
「ウォルター先輩は、僕が男好きだって、おもってるんですか·····?」
「·····は?」
素っ頓狂な質問を投げかけられ、ロイドはゴホンと咳払いを繰り返した。
「·····そんなことを言った覚えはない」
ノワは訂正したかった。
どうしても、ロイドには誤解されたくなかったのだ。
「違います。僕は、噂通りなんかじゃ·····」
返答は無い。
剣練部は、学園の中でも極めて上下関係が厳しい。口答えだけでも十分ペナルティが課せられるはずだが、ロイドは、さっさとノワから顔を背けた。
気のせいではない。
今この瞬間から、ロイドに距離を置かれたのだ。
「ぼ──僕の話も、聞いてください!」
「!おい、声がデカ·····」
高い声が闘技場に響き渡る。
周りの生徒達は皆ロイドとノワを振り返った。
「なんだなんだ?」
彼らは囁きあいながら、興味深そうにこちらを伺っている。
ざわめきの中に「教官が1年を泣かせた」なんていう声がまじり出した。
誰にともなく否定しようとしたロイドは、苛立たしげに舌打ちを落とす。
「来い」
彼はひったくるようにしてノワの手首を掴んだ。
「あっ」
たくましい腕に引っ張られ、否応なしに人目のつかない渡り廊下まで連れられる。
「一体何がしたいんだ?」
「·····っ」
2人きりになると、多少乱暴に壁へ押さえつけられる。
ノワは背の高い相手を見上げた。
大きな体格から感じるのは、普段とは比べ物にならないほど威圧的な雰囲気だ。
こうなることは分かっていた。
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