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《166》勉強会

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ノワは彼の手元を眺めながら、ぼんやりと頬杖を着いていた。


「いえ·····何、考えてたんですか?」

「えっと·····」


色素の薄い瞳が、じとりとノワを睨みつける。

ノワは「えっと」を繰り返した。

アレクシスに会ったのは、告白された夜ぶりだ。


(告白、されたよな·····?)


あの夜の出来事は、夢か幻か。疑ってしまうほど、アレクシスはいつも通りだった。


「なんでも·····ていうか、アレク、わかんない問題とかなさそうだね?!僕が教えることなんて、無いかも···」

「そんなの、会うための口実に決まってるじゃありませんか」


冷ややかな声がつぶやく。ため息つきだ。

声質と内容が合っていない。


「せめて、俺の事、どう思っていますか?」


下手なことを言わなければ良かった。


「·····アレクは、勉強ができて、大人っぽくて、かっこよくて·····」


ノワは、アレクシスとの思い出を辿る。


「意外と優しくて、頼りになって」


可愛くて頼りない弟は、はるか昔の記憶だ。

いつの間にか背も追い抜かれて、朝は、寝坊しないように起こしに来てくれるようになっていた。


「大好きな·····」

「止めてください」


褒めたたえていたのに、拒絶された。


「アレクの照れ屋さん~」


「··········」


「?」


アレクシスが、ノワから顔を背ける。


「あ·····」


耳が真っ赤だ。

またやってしまった。


ノワはオロオロしてから、そっと机の下を覗き込もうとし。


「·····俺を、猿か何かだと思ってるんですか?」


未だ耳元の赤いアレクシスが、苛立たしげに言った。


「デリカシーの欠けらも無い人だ」


長い足が組まれる。


弟の股間事情を確認しようとするなんて、確かに褒められたものじゃない。

ノワは椅子に座り直した。


「アレク?あの·····」


さっきの話には続きがある。

しかし、ノワはそれを口にするのを躊躇った。


ポーカーフェイスの彼が喜びを隠すように顔を背けた。
続きを言えば、アレクシスを傷つけるに違いなかった。


大好きな"弟"だ。どんなに好きでも、恋愛感情が芽生えることはない。


「ノワ先輩」


不意に、後ろから声をかけられた。


「オスカー?」


本棚の前に立ったオスカーがこちらへ会釈した。
手には分厚い本が数冊握られている。


「オスカーも、テスト勉強?」


「はい。ノワ先輩は·····」


意志の強そうな瞳が、ノワの向かいの席へ流される。


「僕も、アレクと一緒に勉強してたとこなんだ。良かったら·····」

「兄さん、ここ、教えて欲しいのですが」


アレクシスの声がノワの言葉をさえぎった。










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