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《220》殺す
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緑の火花が弾ける。イアードとデリックの身は、それぞれ数十メートル吹っ飛び、壁にたたきつけられた。
その場は砂煙に包まれた。
「もう、ズルは使えねえぞ」
イアードは口内の血を吐き捨て、立ち上がる。
少しずつ視界が晴れてくる。
霧の向こうからじっとりとした緑が浮かび上がった。
長年マナを注いでいた大剣は砕け散り、起き上がったデリックは新たな剣を構えていた。
「殺す」
「は·····っ」
かわいた笑い声を落とすのと一緒に、脇腹に刺さった瓦礫を引き抜く。
幸い致命傷では無いが、血を流しすぎたようだ。
激しく動けば、傷口も開くだろう。
闘いを長引かせるわけにはいかない。
「来いよ」
「殺してやる!!!」
デリックが咆哮する。
イアード目掛けて猛進するデリックと、その場に佇んだままのイアード。
零点一秒後、広間に鮮血が飛び散った。
ノワは後ろを振り返らず走り続けた。
とにかく先へと、一心に進む。剣がぶつかり合う音は、いつの間にか聞こえなくなっていた。
「·····!!」
場内が激しく揺れる。
何度目かの地鳴りとともに、壁に絡みついた茨が剥がれ落ちる。
床に横たわった茎はみるみる枯れ、しぼんでいった。
(デリックの力が、弱まった?)
聖徒が短時間に消費する聖力には限界がある。きっと、上階で戦っているイアードが優勢になったのだ。
(良かった!)
彼は無事だった。ノワは心から安堵した。
(そうだ、あのイアードが、負けるわけないじゃないか)
死んだと信じて疑わなかったのに、生きていたくらいだ。
もうじき、全国民の催眠を解くことが出来る。
外で戦っている者たちも、レイゲルも、あと少しの辛抱だ。
そうと分かれば、自分は一刻も早く城から抜け出して、重傷者の治癒をしなければ。
今度こそ、信じて待つのだ。
(イアードが、デリックを────)
ノワは、はたと立ち止まった。
催眠を解くためには、聖徒であるデリックを殺さなければいけない。
「·····」
ノワは、激しく首を振る。
私利私欲のために皇帝を殺し、帝国を侵略した。決して取り返すことの出来ない大罪だ。
彼は真の悪役なのだから、殺されて当たり前だ。
再び走り出そうと、脚に力を入れる。
ふと、脳裏に、吸い込まれそうなほど深い緑が浮かび上がった。
それが、驚いたように見開かれ、戸惑いながら視線を逸らす。やがて熱を孕んだ瞳がじっとこちらを見つめ、眩しそうに微笑んだ。
デリックは、憎むべき相手だ。
しかし記憶にあるのは、あまりに人間らしい表情ばかりだった。
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