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《230》空白の胸騒ぎ
しおりを挟む何がおかしくて笑っているんだろう。久しぶりに会えて多少嬉しかったのは間違いないが、彼はやっぱり変態なのかもしれない。
冷めた視線を返すと、キースは更に楽しげな笑みを見せた。
「これ以上の救済は、事前の申請をとり、教会までいらしてください」
ノワはツンケンして言う。
「相変わらず積極的ですね」
優美な顔が訳の分からないことをくちばしった。
「は?」
「いえ、ではそうさせていただきます。積もる話もあるので」
「·····」
「聖女の慈悲」。
人々を癒すこの力は、触れ合い方やその時間によって効果が変わる。
ノワはさっきの会話中、規格外のイケメンしか来ない個人風俗店を経営している気分になった。
開店は近いうちするだろう。
聖女としての力が開花してから、ノワの思想に変化があった。
全ての国民は愛し、慈しむもの。その為の慰めは、後ろめたかったりいかがわしいことでは無い。
ノワの根本には、忽然とそんな想いが芽生えた。
そんなわけで聖職は(色んな意味で)完全なる役得だった。
もしかしたらこの意識の変革こそ、女神の御心が乗り移ったということなのかもしれない。
パーティに招待された貴族は、次々とノワへ挨拶にやってきた。捌いても捌いても客足が遠のかず困っていた頃、フィアンがノワの肩を抱いた。
「人気がありすぎるのも問題だな」
彼の登場で、ノワを囲んでいた貴族たちは、皆いそいそとその場を離れてゆく。
国民たちは、今日というめでたい日を境に、二人の関係に進展があるのを望んでいるのだ。
どこに行ってもそれが感じ取れる。ノワは頭を抱え込みたくなってしまった。
「似合ってる」
フィアンはノワの全身を見てから、一言告げた。
「ありがとうございます」
未だに自分の地位さえ信じられない。
何もかもが、三年間という空白の時間が嘘のように順調だ。それもこれも全てフィアンのお陰だが、ノワはそれよりも、更に不思議に思うことがあった。
フィアンに対して、昔のように焦がれる想いが無くなったのだ。
勿論好きだ。
尊敬しているし、魅力的だと思う。最推しなのは変わらないが、その中に恋愛感情があるかどうかは、よく分からなかった。
「今日のお前は本当に美しい」
まただ。
力強いスカーレットの瞳がノワを見つめる。
なぜか、漠然とした胸騒ぎに襲われた。
「式のあと、少しいいか?」
「はい」
ふと、強い視線を感じた。
ノワは立ちすくんだ。
柱の下から一人の男がこちらを眺めていた。
影にいるせいで、血色の無い肌が青白く見える。
片目を眼帯に覆われた顔は、美しい死神を思わせるような美貌だった。
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