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《236》解け
しおりを挟む彼が去ると、部屋には再び静寂が訪れた。
「悪かった。····焦るつもりはなかったんだ」
フィアンが呟いた。
「いいえ」
彼が焦る気持ちは痛いほど分かる。
国民の強い期待を一心に背負っているのだ。とてつもないプレッシャーだろう。
「全部僕が不甲斐ないせいです。フィアン様とジェダイト様は、帝国のために、義務を果たそうとしていらっしゃるのに」
「·····義務?」
二人だって、この自分と行為に及ぶなんて、嫌に決まっているのに。
ノワはベットに戻った。
ガウンを脱ぎ捨て座り込む。やり方は分からないが、精一杯やるしかない。
「お前は、俺たちがお前を抱くのは義務だからだと思ってるのか?」
「·····?」
フィアンの声は硬かった。
ノワは首をかしげた。
ブロンドから覗いた美形が、不満げにそっぽを向く。
「·····へ?」
まるで子供が拗ねたようなそれだ。
いつでも大人びているフィアンのこんな表情を見るのは、初めてだった。
唖然としていると、横から笑い声が聞こえた。
「ジェダイト様?」
「ノワ、君はそうとう馬鹿だね」
「え?」
真正面から罵倒された。
ユージーンが未だ笑いながらノワの頭を撫でる。少し傷付いたが、撫でる手が優しいので許そう。
いや、こうやって絆されてしまうのは、典型的なドメスティック・バイオレンスのパターンなのでは?
「俺がこんなに愛してるのに伝わらないなんて、いっそ素晴らしいよ」
「··········」
嘘のような告白に加え、また馬鹿にされる。
ノワは複雑な表情をした。
今更信じられない。
ならば、ユージーンがキスをしてくるのも、フィアンがノワに「美しい」と言う訳も、愛しているからだとでもいうのだろうか。
スカーレットの瞳が、じっとノワを見つめる。
ノワは確信して、瞬間、頬が熱くなった。
慌てて目をそらす。
「でも、ジェダイト様は、キスが好きだから」
「口付けは好きだ。けどそれは、君に限る」
「でも·····えっ」
「まさか口付けする理由をそんな風に捉えられていたなんて」
ユージーンがわざとらしく肩をすくめた。
二人が自分を好き。
言動の節々に、片鱗はあった。
けれど、気付かないふりをしていた。
思い上がってはいけないからだ。
「ノワはどうなんだ?」
フィアンがベットに腰掛ける。
少し気が緩むと、逞しい裸を意識せずにはいられなかった。ノワは口ごもり、慌ててシーツを引き寄せた。
「俺と一緒に、歩んでくれるか?」
「俺"達"だよ」
ユージーンが今日何度目かの訂正をした。
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