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《247》雨の帝都
しおりを挟むそう決めた矢先。
宮殿に戻ったノワは、初めて彼と言葉を交わすことになるのだった。
帰り際、ポツポツと降り出した雨は、やがて本降りへと変わった。
雨が降ると、なんだか眠くなる。ノワは自室に着くと、簡単な服に着替え、窓辺のソファに腰掛けた。
霧のような雨が窓を濡らしてゆく。
ガラスの向こうの庭がぼやける。窓の片方をちょっと押して、外をのぞきこんでみた。
鮮やかな花々が泣いているみたいだ。
湿気の籠った涼しい空気が、部屋に入り込んできた。
甘い香りがした。
ぼんやり庭を眺めていると、先日、図書館で見かけた花の図鑑を思い出した。
その中の一輪の花に興味を持った。
実物を探してみようと思い、紙切れに名前を書き留めておいたが、どこに行ったっけ。
少しくすんだ、青色の小花だ。
ノワはじっと目を凝らした。
「あ」
噴水の向こうに、薄い青が揺れていた。
確かあんな花だった。
視界が悪い。
身を乗り出すと、額に雫が跳ねた。
そっと背後を振り返る。
扉の向こうには、ロイドとレイゲルが交互に待機している。部屋を出るとなると、二人揃ってノワに付き添わなければいけなくなるだろう。
いや、そもそも「雨だから」なんて理由で外に出して貰えない。
女神の化身といわれるこの身体は、色々と不便だ。
まるで女神様本人のように崇められる。
雨になんて打たれたら、数日間ベットから出して貰えないかもしれない。
ノワは窓に片足をかけた。
直ぐに戻ってきてシャワーを浴びれば良い。飛び降りると、地面は少しぬかるんでいた。
ブランケットを頭からかぶり、できるだけ雨を凌げるように、木の下を駆ける。
噴水の前で足を止める。
柵の下に咲いていたのは、ノワが探していた花ではなかった。
───ざくり、と、他者の足音がした。
「!」
振り返った先に、黒服に身を包んだ男がいた。
昼間かきあげられていた黒髪は無造作に下ろされ、雫を滴らせている。
ノワは思わず後ずさった。
一瞬、誰かわからなかった。
眼帯が取れている。ギラギラと輝く深紅が一つ、もう片方の目元には、本物とは程遠い義眼が埋め込まれていた。
「教皇聖下にご挨拶申し上げます」
彼は硬い半身を折り曲げた。
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