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《289》紳士な彼

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1度離れていった手が、不意に足の裏を掴む。硬い指が滞った肉を解してゆく。
いきなり触られたから驚いたが、足裏も心地良い。

足先に、ぬるい空気を感じた。


「·····?」


振り返りかけるが、彼の指がふくらはぎを揉みあげると、些細な違和感などどうでも良くなる。


「んっ」


たっぷりとオイルを塗りつけた手が、うちももを掴み、揉み解してゆく。
極楽だ。


「痛くありませんか?」


レイゲルが問いかけてきた時には、ノワはうっとり夢心地だった。


「痛いのも気持ちい」


初め強く押された時は不快だったのに、慣れてしまうと、少し強いくらいの圧迫が好い。


「·····」


背中をもんでいた両手が脇腹を圧し滑る。
ぞわぞわして、また別の心地良さがある。
それを何度か繰り返していた手が、マットとノワの肌の間に差し込まれた。


「ひぁっ?」


指の先が乳頭に触れた。間違いかと思ったが、彼の指は執拗にそこを撫で始めた。


「へ·····っ?な·····やめ、っ?」


キュ、と、先端をつままれる。
次に、触れるか触れないかの位置で、器用に先端を擦られる。


「乳頭のマッサージですが」


痛みが消えた突起は、じくじくと変な疼きを持っていた。


「やめますか?」


穏やかな声が聞く。
ノワは口ごもった。
飛び上がった色付きは、更なる刺激を求め、腫れている。


「や、めなくていい····」


これは、マッサージだから、何も変な事じゃない。
自分に言い聞かせて、小声で許可を出す。

彼は、指の腹でくるくるとそこを撫ではじめた。
骨が引き抜かれるような、身体中から力が抜けるような、言い表せぬ感覚だ。


「ん·····っ」


これは違う気持ちよさだ。
気づいているけれど、一度許すと、観念は緩くなる。

もう少しだけ、と、自分を甘やかす。刺激はどんどん甘くなっていった。

後頭部に柔らかく弾力のあるものが触れた。
それが次は首筋に落とされ、背中に降り注ぐ。


「な、にして·····っ」


抵抗するより先に体が浮く。
ノワはレイゲルの膝の上に座らされていた。


「慰みを」


鼻の先で言葉を紡がれる。
彼はそこで、ピタリと動きを止めた。


「いただけないでしょうか」


決して無理強いはしない。こちらの許可をじっと待つ様子は、忠犬のようにも見えた。

レイゲルは初めからこのつもりで、マッサージを申し出たのだろうか?
いつも冗談交じりに言っているからわからなかった。

彼は変なところで謙虚らしい。













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