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《290》順調な日々
しおりを挟む「あの、慰みが欲しい時は、言ってください」
ノワはボソボソと言った。
ただの治癒だが、やることは性行為に限りなく近い。
言っておきながら、なんだかこっちの方が恥ずかしくなってくる。
深い口付けは、少し強引で、様子を伺うような優しさもある。
レイゲルは片手でノワの身体を支えながらシャツを脱いでいった。
岩みたいな身体に強く引き寄せられる。
やがて、彼は吸い付くようにして乳頭を舐め始めた。
「····っ·····ン·····っ」
薄皮が、濡れた快楽を悦ぶ。
声を我慢するために、行き場のない手をグーパーさせる。
そうするとレイゲルはこちらの両手を掴み、自身の肩に落ち着かせた。
熱い口内で、吸われ、舐められ、時に噛みつかれる。
肩口を引っ掻いていたノワは、いつの間にか彼の頭を抱きしめていた。
彼の唇が離れてゆく。
ノワの身体は骨が砕けたようにふにゃふにゃだった。
「気持ちよかったですか?」
「····っ」
返事さえままならない。
ひとつの生き物みたいだった舌が、オマケでぺろりと乳頭を掬う。
「ひゃうん」
「ノワ様、」
気がつけば、レイゲルの髪の毛を引っ張りあげていた。
舐められている最中、めちゃくちゃにかき混ぜていた気がする。
ノワは慌てて手を離した。
そして、ギョッと目を見開く。
「だ、誰?!」
そこには、物憂げな色気のある美男がいた。
思わず叫んだノワだが、彼は間違いなくレイゲルだ。
少し盛り上げてオールバックにされていた髪が、完全に崩れている。たったそれだけの違いで、普段とはまるで別人の雰囲気が醸し出されていた。
「誰って、酷いですね」
さっきまであんなに気持ちよくして差しあげたのに、と、赤い舌がふざける。
リーゼントをしていた厳つい不良が、髪を下ろしたら実は超絶イケメンだったとか、メガネ地味っ子がメガネを外したら美少女だったとか、そのくらいの衝撃だ。
いや、元から整った顔立ちだとは思っていたが。
「顔、かっこいいですね」
レイゲルは驚いた顔をしてから、たのしそうに笑った。
「今更ですか?」
ノワはウンウンと頷いた。
かっこいいものはかっこいい。
「ノワ様のものです」
「え?」
「好きな時に、好きなようにしていただいて構いません」
彼は未だ愉快げに笑っているが、言っていることは凄まじく意味不明だ。
「ですから、俺意外を選ぶだなんて、冗談でも仰らないでください」
そんなこといつ言ったっけ。
焦げ茶の瞳がこちらをじっと見つめて、顔をかたむけてくる。
「ん·····っ」
今度から彼の慰みを行う時は、髪の毛を下ろしてもらおう。
これは別に、くだらない煩悩からとかではない。仕事をはかどらせるためという、正当な理由があるんだ。
窓の向こうを鳥が飛んでゆく。
空耳だろうが、鳴き声は「アホー」と聞こえた。
親切な使用人たちと、慎ましく厳かな城。
そして傍には、信頼出来る側近達。
大公国での生活は心配していたより順調だ。
翳りが刺したのは、その日の深夜のことだった。
「殿下は?」
「既に眠っておられます」
ノワは今晩もイアードの寝室へ通っていた。
レハルトの許可を得て部屋に入ると、すぐに苦しげな呼吸が聞こえてきた。
出来るだけ足音を立てないように、ベットへ寄る。
まずは呼吸を落ち着かせよう。
髪から頬にかけてをゆっくり撫でながら、マナを送り込む。
少しすると、穏やかな息遣いが聞こえてきた。
ノワはほっと息をついた。
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