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《296》ノワの計画

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もう少しだけでも優しくしてくれたら、きっとすごく嬉しいのに。


「聖徒様」


隣に背の高い人影が立ち止まった。


「殿下はお忙しいようです。良ければ私とお話していただけますか?」


こちらをのぞきこんだレハルトが、白い歯をこぼして笑う。
彼はノワの片手をとり、口元へ近付けた。


「まだ涼しい季節ですから、聖徒様のお部屋に行きましょう」


頷こうとしたノワは、強い力に引き寄せられた。


「まだ話が終わってないだろ」


ノワの腕を引っ張ったのはイアードだ。
彼はレハルトを追い払い、すぐにノワから手を離した。

しつこいとか言っておいて、なんなんだ。


「前夜祭に行きたい」


「勝手にしろ」


「一緒に行きたい」


昨日、何度も練習した言葉を告げる。
イアードはピタリと動きを止めた。


(そういえば忙しいって、さっき言ってたな)


それに平民の祭りに貴族が混じるなんて、はしたないと思われたかもしれない。

沈黙が長い。
ノワは指先をモジモジと動かし、最終的に俯いた。


「夕方迎えに行く」


返ってきたのは、短い返事だった。
彼はそれきり、廊下の向こうに消えてゆく。取り残されたノワはゆっくりと両手を持ち上げ、手のひらを握った。

誘うことには成功した。

イアードを前夜祭に誘ったのにはわけがあった。
毎夜行っていた事を白状するのだ。
そして謝罪し、同意の元で治癒をする必要がある。

大公領を発つまでは残り1週間。
それまでにできる限りの慰みを施して、彼の苦痛を軽減させてあげたかった。

基本、聖徒は教会以外で、頻繁に宮殿から出ることは良いこととされていない。

次に大公国へ来れるのは半年後。イアードが首都の宮殿に来てくれない限り、彼と会うことは叶わないのだ。
つまりどんなに考えたって、継続的な治癒はあと1週間しかできない。


(全部言って、それであと1週間、しっかり務めよう)


さらに継続的な治癒を続けるため、週に一回は宮殿に来て貰えるよう約束出来れば満点だ。

ノワは気合を入れるように、再度拳を握りしめた。


















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