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《331》モブ

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ノワは勢い良くカーテンを閉めた。

今夜も、深夜0時がやってくる。とても眠れるわけがなかった。

不安と恐怖に苛まれる。安全なところで身体を暴かれていても、まるでそこに自分は存在しないみたいだ。
心は彼が持って行った。

唯一無二の赤が、自分を見つめて熱を孕んだのも、哀しげに月を沈めるのも、全部嫌いだ。

他人を見るのと同じようにノワを見た。
大嫌いだと、虫唾が走ると、寂しい声が言った。

胸が痛くて空っぽになる。

彼は今日も苦痛に耐える。
彼だけが1人、3年前の痛みを抱えている。
そして、もっとずっと前から、傷だらけだ。


(助けに行かないと)


しばらくして、ノワはムクリと起き上がった。
自分でもバカバカしいと思う。こんな夜中に飛び出すなんて現実的じゃない。

でも会いたい。忘れられたのが、なんだって言うんだ。
彼が、他の人を好きだって構わない。


(僕は、僕のできることを·····)


寝具を脱ぎ捨てる。
クローゼットに手をつっこんで、まさぐっているうち、ノワは頭が冷えていった。
手はおもむろに止まる。
部屋はしんと静まり返って、この世界にいるのは自分だけのように錯覚させられる。


(誰を好きだって、構わない?)


そうしたら彼は、他の人を愛して、いずれ今の自分さえ忘れてしまう。
忘れるどころか、ほかと変わらない、初めから彼の前にはいなかった、本当のモブだ。

さっきまでの衝動が、嘘みたいに身を潜める。

このまま、ベットに潜って、目を瞑ればいいじゃないか。
そうしたらイアードとの思い出は、全部、夢だと思えるんじゃないだろうか。

涙は流しちゃだめだ。明日は教会で活動がある。
目が腫れてたら、見れたものじゃない。


(全部夢だ)


記憶の中から彼だけを剥離する。
きっと楽になれる。

今度こそ彼を独りにするとしても───。



────コンコン。



静かなノックの音がした。

「·····?」


再び、同じ叩音がする。
廊下の扉からじゃない。
バルコニーのガラス窓からだ。

動物·····では無い。










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