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🍸2話.鮮やかな世界🍾
しおりを挟むネックレスと揃いのピアスが少しグロテスクで、神経質に美しい横顔は、男らしい色気と冷たさを閉じ込めていた。
彼を捉えると、まるで映画のスローモーションみたいに時が止まる。
切長の目元がこちらを端で捉えて、やっと忘れられていた時間の流れが戻るのだ。
「飲んでる?」
ネオンの色が移り変わる中で、彼がニコリとする。
遅れてごめんとか、お待たせなんて言葉は投げられない。そんな事はどうでも良くて、声をかけながら当たり前のように隣に座られる事に意識が釘付けになる。
カサ・ディアブロNo.1ホスト、haruki。
テンポの良いトークスキルと華やかなビジュアルでこの店の頂点へ登り詰め、歌舞伎町で彼の名を知らないものはいない。
彼との出会いは3年前に遡る。
今から三年前。17の頃、家出したミチルへ手を差し伸べてくれたのが彼だ。
歪な監視や暴力、それにより精神病を患い、学校にも居場所がなかった。
もう死のうと思っていた。
ただその日、雨の路地裏で、たまたま隣に崩れるようにしてしゃがみこんできた男。
目の前が涙と雨でぼやけていても目のやり場に困るほどの美男だった。
カサ・ディアブロという店の、紫髪の男。
その記憶を頼りに、あの日から、グレー1色の世界へ、鮮やかな色が差し込んだ。
「またヘルプ拒否ったの?」
空いたグラスに氷を落としながら、ちょっと酒焼けした声が笑う。
「ん、う、ん」
ミチルは慌てて頷いた。
長い指が自身の紫髪をかきあげるのに見蕩れていた。
「あはは、せっかく来てんのに。ひとりでお酒飲んでちゃ寂しいでしょ~」
ほんとシャイだねなんて言って、彼はこっちと同じ酒を注ぐ。
今日は機嫌が良いみたいだ。嬉しくって目元が熱くなる。
ハルキとしか話したくない。
それに、ヘルプが入ると、彼らが席を立つまでハルキと二人きりになれないではないか。
他のホストなんていらない。
「それとも、気になる奴いるなら教えてね。ヘルプ入れそうだったら付けてあげるよ」
それなのに、どうしてこんなこと言うんだろう?
「ぃ、ぃらない」
被りの姫(ライバル)がいる時だ。ほかのホストに時間稼ぎさせなきゃいけないのもわかってる。
でも彼にそんなこと言って欲しくない。
ほかのホストなんて、いらないんだってば。
「ハルくんだけがいい」
「っくくっ·····」
堪えきれなさそうに吹き出されたそれに、はたと思考が停止する。
「あ~、可愛い」
ちょっと甘くなった声が呟いて、頭上に影ができた。
彼が、こちらへ体を寄せてきたのだ。
「チル、そんなに俺がいーんだ?」
「へ、ぁ」
「ごめんね。可愛くってイジワルしちゃった」
髪を梳いた手は顔よりも大きい。
触れた腿が熱くて、動悸が早くなってゆく。
可愛いって、2回も言われてしまった。
氷が解けたグラスはそっと取り上げられて、新しい酒を作ろうとしてくれる。
「きょうは」
「ん?」
「長くいてほしい」
彼のグラスに入ってるのはあと数口程度。
きっと飲み干して、また別の卓へ行ってしまう。
「おねがい」
ずっと一緒なんて言わない。
今日はもう少しでもいいから、そばにいて欲しい。
「じゃあ、チルが俺のエースになる?」
少し首を傾げたら、彼の首筋をネオンがかけた。
口元の黒子を見るまでが精一杯だ。
いらないことを言ったと分かった。
「そんなの、」
「意外とムリなことじゃないかもよ?」
「·····!」
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