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🍸7話.迷い猫🍾
しおりを挟む迫るように隣へ座ってきたではないか。
来店する度余計な一言をかけてくるこの男は、カサ・ディアブロNo.3のtsubasaだ。
関西出身、デビューはハルキより先輩だが歳は同じ。手品と酒作りが趣味とか言っていた気がする。
気さくで適当な冗談を連発しては客を喜ばせる、エンターテインメントを人にしたような人物である。
ミチルからしてみれば、彼の馴れ馴れしくて勢いに任せるみたいなノリが苦手だ。目立ちたがりで何にでも首を突っ込もうとするし、呼んでもないのに茶々を入れてくる。
犬系とか言って不機嫌なお姉様方を喜ばせるので有名らしいが、距離感がバグってる。
「今度カクテル作ってあげるよ。甘いのが好き?どんなフレーバーが好み」
おちょくる訳ではなく、会話を始めてこようとするのは初めてな気がする。
酒には興味ない。
もっと言えば、ツバサにも興味が無い。どちらかといえば関わりたくない。
「分かんない」
「じゃあ·····────」
トイレと呟いて、慌てて席を立つ。
飲みかけのカクテルには申し訳ないけど、彼の隣は落ち着かなくて少し怖い。
立ち上がったら少しめまいがした。
逃げるように店内奥の黒い通路へ向かう。立ち上がったら、本当に少し尿意を催してくる。
「お手洗いは」
不意に、ただでさえ暗めな頭上に影が落ちた。
「こっちじゃないよ·····?」
相手は壁に肩を寄りかからせ、こちらの進行を阻んできた。
眠たそうに透き通った男の声が特徴的だ。見上げたミチルは、とうとう眉を下げた。
「こっちは立ち入り禁止だよ」
カサ・ディアブロ最年少ホストでありながらNo.2の座に鎮座するNoel 。
出勤日は気まぐれで、ホストとしてはありえないほどの無口とマイペースさは、どこか別の世界に意識を置いてきたようにも感じる。
ただ日にちが被った時は、こうしていつの間にか傍に来て、無言のままにこりとしたりお菓子をくれたり、はたまた髪の毛を撫でられたりしたことがあった。
言うならば、店内に迷い込んだ仔猫を可愛がるみたいなそれだ。
「どこか行きたいの?」
俯いたら追いかけるようにしてかがみこんでくる。
というか、御手洗いに行こうとしてるって、聴こえてたんだろうか。あの距離で?
彼のペースは変だ。
「ゃ」
花の香りがした。
狼狽えるこちらに伸びてきた指が優しく髪の毛を耳にかけた。
その時ちょっと悪戯して、こめかみをくすぐられた気がする。
こんなこと、簡単にするのだから、全然掴めない。
さっきのデジャヴュで、ミチルは今度こそ御手洗に向かって駆け出した。
彼らが気まぐれで話しかけてくるのも仕事のうちだろう。ついでに物珍しいし、自己主張もなくて手頃なのだ。
個室に逃げ込んで用を足す。
少し寒くなってきたけど、今日は頑張って薄手のワンピースを着てきてる。ハルキに見てほしいから。
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