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🍸13話.オモチャ箱🍾
しおりを挟む「それ以上なら応相談で買ったげるわ」
願ってもない商売じゃないか。
そう言う唇が、耳元へ当たる。
「ひぅッ」
「あは、かわいー反応。そんなんで今まで·····」
彼はこちらにだけ聴こえるように言った。
「ハルキとはどうしてたん?」
肩を抱いていた手が腰へ滑る。
「ヤッたんやろ?」
彼は心底愉快そうだった。
首を振ってもまるで取り合わない。向かいの男は秘書と話しながら書類を眺めている。
誰もこの空間が歪だと異を唱えない。
この自分に当てる配慮など皆無で問題ないと知っているのだ。
「ごめんなさい」
自分でもよく分からないまま謝ることになった。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
死のうが死なないが、事実は変わらない。
犯罪だ。そして自分の都合でハルキを裏切ることを平気で受けいれていた。
そのくせ嫌われたくないなんて、愚かにも程がある。
「金を返すだけです」
黒い男が言った。
「我々もすぐに全額を返せとは言わない。返済可能額に合わせて契約を進め、その為に割の良い稼ぎも紹介しよう」
こちらの心を読むように、静かな声が続ける。
「返済が終わるまでカケトビをした客同様、立ち会うことは出来ないが·····担当のホストにもこちらから説明すればいい。アナタが返済を続ける限り、彼がアナタを責める理由は無い」
全て丸く収まるのだ。
(ハルキに、また会える·····?)
渡されたのは八割がゲイ風俗だった。
風俗点の需要が減り、キャストが困窮する中で、紹介された全ての店舗が相場の価格を大きく上回っている。
プレイ内容は半分も分からない。
しかし教養のない者でも、それがノーマルな稼ぎ口ではないと気がつくだろう。
「出張デリはあかんの?脳みそ花畑スピーカー女共で性欲発散するのも、飽きてきたんやけど·····」
この手の店には、身バレを考慮して行きにくい。だからって一般女性に手は出せない。性事情は難しいんだとツバサが言う。
前々から限度を知らない冗談があったが、彼はとうとう、客でなくなったこちらの前で取り繕うのをやめたようだった。
後ろに気配を感じた。
「ミチルちゃんも、オモチャ箱にいくんだね·····」
(オモチャ箱·····?)
どこか虚ろに呟いたのはノエル。
風俗へ沈む客をそう呼ぶのだろうか。天使のような容貌からは想像もつかない、恐ろしい発案だ。
そしてフラフラ部屋に入ってきて、何か考えるように、あるいは何も考えていなさそうに宙を眺めている。
「そう」
買いたかったペットをあきらめる少年のようにも見えた。
しかし、
「じゃあやめる」
彼はよく分からない言葉を続ける。
「やめる?」
ダンの問いかけにノエルはただうんと頷く。
「せっかく、すごく気に入ってたのに。別のところで探さないと、また」
胸元から取りだしたのは数枚の名刺。
それをポイと捨て、とても沈んだ声が呟いた。
「つぎは俺のことだけ見てくれるかわいい子·····」
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