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120.🍸迷路🍾
しおりを挟むそして絶句した。
「ぁ·····へ·····?」
目の前にかざした指に鮮やかな赤が絡んでいた。
真っ白になる頭のなかへ、やがてどこからか警告音が鳴り響く。
直接そこへ痛みは無い。
けれども、この初めての症状を、知っている。
(生理)
それは、妊娠の準備をした子宮内膜が、妊娠しなかった場合に剥がれ落ちて、血液と一緒に体外へ排出される現象。
「うそ、なんで·····」
思わず呟いて、また重たい痛みにうずくまる。
(どうして?)
考えたって分からない。
けれど、それならば、この身体は────。
(逃げないと)
目眩の酷くなった脳内で直近の結論を出す。
ここから出ていかないと。
ハルキから離れないといけない。
もしも妊娠なんてしていたら、彼の人生をメチャクチャにする。
(はやく)
つまづいて、前のめりに転げながら、よく分からない部屋に迷い込む。
無地のパーカー、ズボンを手に入れる。ズボンはスラックスなのに自分にとっては長丈で、遥かに大きなウエストはとても履くことができない。ワンピースのようになったパーカーがかえってボトムスを探す必要をなくしたから、それ1枚で玄関を目指した。
(早く、遠くに)
持ち物なんて何もない。
奪い取るようにノブを掴んだ手はピタリと立ち止まった。
───一体、どこに行けばいいのか?
何もない。
(ここを出るのが、こわい)
そんな───暗闇が立ち込めた思考を、ミチルは力強く振り払った。
自分の人生を探しに行くのだ。
初めて仕事をした。気持ちを認めて貰えた。
誰かに大切にされる幸せを知った。
ハルキさえいれば良かった人生が、いつの間にか代わり出した。
心からハルキの幸せを願えるようになった自分がいた。
(ここを出る)
捻った扉は重たい。
冷たい風が差し込むのに抗って、全体重で鉛を押し出す。
「!!」
久しぶりの外まではあと少し。
振り返る余裕は無い。
数秒後、誰もいなくなった廊下へ、オートロックの電子音が静かに響いた。
広くて無機質な廊下を逃げ惑った。
まっすぐ進んで、なんだかよく分からない吹き抜けに出て、全面ガラス張りの窓から見える摩天楼にヒュッと喉がなる。
そして踵を返し、躓きかけながら反対側を走る。
酸素の薄い迷路の中へ閉じ込められたみたいだ。
半ばパニックになりながら足を動かした。
止まったら、もっと恐ろしいことがある気がした。
やがてエレベーターを見つけた。
ボタンを押してから扉があくまでは、実際の何倍も長く感じる。
立っている感覚すらしない。今か今かと怯え、ゆっくり開く扉にぶつかりながら転がり込む。
(早く、遠くに)
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