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第五章
《第25話》告白
しおりを挟む一世一代の告白は、いつもみたいな年上っぽい笑顔に淘汰される。
「いきなりどーしたんだよ」
説教が好きなのか?なんて、ふざけたように言っている姫宮にもう一度、好きなんですと呟く。
彼はふと笑うのをやめて、こちらを振り返り、不思議そうな顔をする。
姫宮の頬に、そっと触れる。
カサついた自分の指が、滑らかな肌から温もりを感じる。
触れるだけのキスをした。
「姫宮さんが好きです」
間近で彼を見つめ返す。
姫宮は特に驚いた様子もなく、視線は伏せ目がちで、ピクリとも動かない。
他に何か言うことがないかと、こちらを待っているようにも見える。
どういうところが好きだとか、いつからかとか、全然浮かんでこない。
そんな事を口に出す余裕はない。
「好きです」
赤子が覚えた単語みたいに、それだけを繰り返す。
「更衣月」
真剣な声がした。
ギクリとする一方で、ほっとした。
やっと伝わったのだ。
「更衣月の気持ちには応えられない」
そして、拙い告白は散った。
逡巡の暇もなかった。
まあそうなるわな。他人事みたいに分析してしまう。
この人とはもうあと少しでお別れで、自分はこの人なしで生きてゆくのだろう。
この人の人生にもまた、俺という存在はいなくなる。
俺の知らない誰かと付き合って、愛し合って、家庭を作ったりするのだろう。
「嫌っす」
えぇ、と、呆れたような声が聞こえてくる。
「嫌って言われてもな」
動揺すらしていない。
想いを伝えることさえ恐れていたのに、彼のこんな様子を見ると、バカバカしく思えてしまった。
「すげぇ好きなんです」
バカバカしく思ってるのに、馬鹿みたいな言葉を口にする。
言葉にしてやっと、再確認する。
諦めたくなんか全く無い。
「姫宮さん」
風にはためく3年の青いネクタイ、腕まくりされたシャツから伸びる、細く角張った腕。
爽やかな笑顔も、こっちを見つめる眩しい目も、はためくシャツも。
全て、あまりにも切なくて愛しい。
「バスケで、俺と勝負してください」
自分と姫宮をつなぎ止めている、唯一の共通点だ。
「俺が勝ったら、言う事一つ聞いてください」
「いいよ」
返答は簡単だった。
「俺が勝ったら、さっき注意したこと全部ちゃんとやるって、約束しろ」
いいな?そう確認してきた姫宮に、頷く。
「よし、じゃ早速、明日の部活の後な」
姫宮が離れてゆく。
後ろ姿を目に焼きつけて、扉が閉まると、更衣月はまた空を見上げた。
コート上の彼を脳裏に浮かべた。
扉を閉じた姫宮は、階段を降りている途中、ピタリと立ち止まった。
「はあぁ·····」
深く、小さくため息を漏らし、しゃがみこみかけた足を持ちこたえる。
更衣月は、決して友好的な関係ではなかった。
例えるなら、野良猫を無理やり飼ってるような感じだ。
『更衣月は俺のことが好き』
ありえないはずのそれに顔をしかめる。
「え、あいつドM·····?」
我ながら全く笑えない冗談だ。
後輩や先輩、同級生から、そういった告白をされる事は、少なくはなかった。
更衣月の気持ちに薄々気づいているような時も、心の奥底ではあったのかもしれない。
けれど気が回らなかった。
まさかなんて思って、放ったらかしにしていた。
『バスケで、俺と勝負してください』
高校一年生の頃、悪びれもせず部活動に参加してきた更衣月。
挨拶もなくアリーナへ上がってきて、先輩のことは呼び捨て、気分が乗らなければ無断欠席。
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