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第六章
《第36話》待ってて
しおりを挟む名前こそあの庵野雅と同じものの、歳の割に非力な体つきで、性格、見た目、どれをとっても、完璧と謳われる彼には、似ても似つかない。
でも、懐かしい瞳や、自分を呼ぶ声に覚えがあった。
いつかの日、自分は、また来ると言ってから、もう公園へは行かなかった。
急な両親の転勤で引っ越したのだ。
"もう忘れないでください"
完璧ともてはやされる庵野の、どこか寂しそうな表情が、脳裏に焼き付いて離れない。
彼が年寄りもずっと大人びなければいけなかった理由。
虐待を受けていた幼い庵野雅にとって、自分はどんな存在だったのだろうか。
ただ、少しの時間構ってくれるだけの年上の少年が、彼には数年越しに執着するほど、頼りだったのだろうか。
それとも·····────。
「到着致しました」
チラホラと学生のいる校門を通り抜けると、つい数週間前までは満開だった桜の木は、いつの間にか葉を茂らせている。
迎えに行かなければいけない。
焦れる思いを胸に馳せ、教室へ向かった。
「あの、庵野君、3年生の人が、その、庵野君のこと呼んでるよ···」
今は、愛想笑いをすることさえ億劫だ。
しかし周りは、庵野の心情など無視して廻っているみたいだった。
いつもの事だ。
廊下はザワザワと騒がしかった。
庵野は視線を彷徨わせる。
「きゃー、私さっき横通り過ぎちゃった!」
「肌の透明感ヤバすぎ···実物あんな近くで見たの、初めて」
女たちがなにか騒いでいる。
しかし、興奮を隠せない様子なのは、男子生徒も同じようだった。
「やべぇ、いい匂いした」
熱視線の中心にいたのは、綺麗な人。
庵野はしばらく姫宮に見惚れていた。
彼がこっちを見る。
庵野に気づくと、姫宮はズカズカとこちらへ近寄ってきた。
「みずき先輩···」
「みやび」
なんの躊躇いもなく庵野の下の名前を呼ばれる。
庵野は、一瞬たじろいだ。
心の奥底に鍵をかけていた。
その向こうにいる少年に、語りかけられた気がした。
昨日、酷いことをしてしまった。
姫宮は、こっちの顔さえ見たくないはずだ。
しかし姫宮は、真っ直ぐにこちらを見つめていた。
「放課後、校門集合」
「え」
投げやりに、しかし庵野にだけ聞こえるような声で告げられる。
待つのは好きじゃない。
しかし、強い瞳が反論を許さない。
姫宮はさっさと階段を昇って行ってしまった。
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