【完結】高嶺のバスケ部主将(ヤンデレ後輩&不良後輩×世話焼き先輩)

亜依流.@.@

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松川×姫宮

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心にも無いことを口に出して、松川はもう、姫宮の方を見ることが出来なかった。

自分自身、言っていることが理解できなかった。
さっさと立ち上がり、逃げるように食堂を出る。
彼は追いかけては来なかった。

終わった。

プライドがない?
見損なった?
自分で姫宮を汚しておきながら、自分自身に怒りが沸き上がる。

嫌だ。
彼が誰かのものになるなんて、受け入れられないのだ。

ずっと、美しいままいてくれ。
そう思うかたわら、ずっと、どこかで淡い夢を見ていた。

そ姫宮に一つでも似た特徴を持つ女を抱く度、彼女達越しから、桃源郷を見ていた。
馬鹿みたいに何度も何度も、彼女たちに姫宮を重ねた。

それでも彼のそばにいられる未来を望んでいた。
壊したのは、自分自身だった。
                                                                           
                                                                  
















「松川」


いくらか優しい声に、うっすらと目を開ける。

いつもよりほてった唇と、濡れた瞳。
ぞくりと、背中が痺れた。

馬乗りした姫宮が、積極的に腰を振る。
下から腰をつきあげる。
いっそう甘くなった声は、聞こえるようで、聞こえない。

この幻も今年で三年目に突入した。
さすがに夢だということは!夢を見ながらでも理解出来た。

最初に感じた罪悪感などはもうなくなるほど、彼を繰し抱いた。


















4時半に目覚ましが鳴る。

無機質な音を止める。
手を出している数人の女子からのLINEは、未読無視しておく。

眠気に負けそうなまぶたを開いて、ベッドからムクリと起き上がる。
窓を開けると、まだ日は昇っていなかった。

さっさと寝巻きを脱ぎ捨て、シャワー室へ。
適当なシャツと、スポーツウェアに着替え、外に出る。

ジョギングと筋トレをするのは、毎朝の日課だ。
別に、ダイエットとか健康のためではない。

結果的に健康的な身体ではあるが、夏でも冬でも毎朝早く起きて外に出るというのは、なかなか大変だ。

少し自分の話をすると、生まれつきまあまあ器用な性格だった。
例えば勉強も中の上位は出来たし、スポーツなども、見様見真似で他よりは秀でて出来たりした。

容姿だってそこそこ良い。
人間関係でも上手く立ち回ることが得意と言えるくらいには、気の利く人間だと自負していた。
まあ、言ってしまえば八方美人だ。

けれど、あくまで中の上、というくらいで、天才にはなれない。
限界があった。

高校で姫宮みずきという人間と、一方的な運命的出会いを果たした。
彼がバスケ部に入部すると言うから、自分も彼の後を追ってバスケ部に入部した。

そこで自分の限界を知る。
経験者だったが、見栄を張って始めたばかりだと言った。
姫宮には追いつけなかったからだ。

だから距離が離れないように、1人練習にはげんだ。
毎朝続けているこのジョギングは、そのうちの一つだ。
女を取っかえ引っかえしたり人や物事に執着しない松川には、初めての習慣だった。


けれど、もう必要も無いのかもしれない。
走りながら、姫宮とのやり取りを何度も思い出して、立ち止まりそうになった。

格好つけるのが大好きなくせに、芯のない人生を送ってきたと思う。
その場が良ければいい、楽しければいいと、楽をしてきた人生だった。

姫宮と出会って、初めて見返りを気にせず、人を気遣う自分がいた。
初めて誰かの愛を求めたり、幸せを願ったりした。

辛い自主練だって続けた。同じ大学を目指すために、休みの日はバイトをふたつ掛け持ちして予備校に通い、勉強だってした。

自分の人生は、全部姫宮出できている。
そんな彼との関係をぶち壊したのは、自分からだった。
もう、3日前のことだ。


『みずきくんのこと悪く言いたくないけどさぁ』


それから口を聞いていない。










『松川、言い難いことなんだが···今度の試合、お前が出る予定だったポジションに庵野を入れようと思っている』


昨日、部活でのことだ。
個室に呼ばれた松川は、監督からレギュラー外しの布告を受けた。

よりにもよってあの庵野雅に、自分の死守していた座を、いとも簡単に奪われる。
返答ができなかった。

松川を他所目に、監督は姫宮を呼び出した。
姫宮は松川の方をちらりと見てから、監督に会釈した。


「松川の代わりに庵野を出す」


監督が悪いのではない。
能力の高い者を選別し、使えない者は降ろす。バスケ強豪校として、当たり前の判断であることはわかっている。

込み上げてきた悔しさを押し殺すために、じっと一点を見ていた。


「そのポジションは松川じゃないと回んないと思います」


姫宮はそう言った。
目を見開いた松川は、やはりただ同じ場所を見つめていた。


「松川のポジは実力より、長い間続けてきた俺や他のメンバーとの感覚が1番大事なので、いきなり変わったら困ります」


次の試合は今作ってるチームプレイを壊さず行きましょう。姫宮は堂々と言ってのけた。
少しの躊躇いもない。

考え直した監督に、姫宮はありがとうございますと言い、来た時と同じように駆け足で去ってゆく。

贔屓しているわけではない。本当にそう思っているとわかる真っ直ぐな声音は、美しく潔い。
松川はやはりじっとしたまま、何も言えなかった。








最近彼と何らかの関わりがあったとすれば、それだけだ。
彼を心無い言葉で侮辱した自分。
そんな自分の実力を認め、チームに必要だと言った姫宮。

とてもじゃないが、彼に、ありがとうとかこの前はゴメンなんて事は、言える立場ではなかった。
とりとめもない思考をまぎらわせたくて、走りながら、イヤホンを耳にかける。

ミュージックアプリを開き、オススメにポップアップされたアルバムを適当に押す。

走るスピードをいつもより早めに設定して、苦しいくらいで保つ。そうしなければ、返って呼吸が保てないようだった。

聞いたことのあるようなないような曲が流れてきた。
よりによってラブソング。

初めて意識した歌詞は、まるで自分の醜い想いを正当化しているような歌詞で、切ないというよりも、やるせなさが勝った。

とうとう足を止めて、スマートフォンの電源を切る。
いつの間にか、日が昇り始めていた。

乱れた呼吸を整える。
きっとこれからは、こんな風にまた息が乱れる時があっても、1人で起きあがれる。
背を撫でる手は、忘れよう。

来た道を戻って、何度か、器用に舌の先で舌ピアスを舐めてみたりした。





















『先輩おはようございます』『今日の昼食、ご一緒しても宜しいですか?』『みずき先輩、お忙しいですか···?』『ご返信いただけたら幸いです  』


庵野は落胆した。
オール既読無視。姫宮は、完璧なほど自分に興味が無いみたいだ。


庵野はとうとう痺れを切らし、教室の前で待ち伏せを臨むことにした。
授業が長引いているらしい。
庵野は廊下で待機する事にした。

しばらくすると、休み時間をまちわびていた生徒たちがゾロゾロと教室を出てくる。
それから担当の教師が出てきて、庵野は窓際から扉の前へと進んでいった。


「あれ、庵野クンだぁ♡」


教室から出てきた数人の女子生徒に囲まれる。もちろん顔だってぼやっとしか見た事がないし、名前も知らない。


「まぁた、みずきくん待ってるの~?」

「てか抱いて」


化粧が濃くて、区別がつかない。
この種の人間は面倒だ。


「いえ、そんな······」


ハイともイイエともつかない返答と共に、にこりと笑みを添えてセクハラ発言をかわす。
庵野が足止めをくらっているうちに、姫宮先輩、と姫宮を呼ぶ別の人物の声がした。

聞き覚えがある。
庵野は嫌な人物を思い出しながらそっちの方を見る。

案の定そこにいたのは更衣月だ。
不満そうなわけは、自分と同じ理由だろう。

この自分があんなゴミと同じ扱いなんて。
かなりショックを受ける。


「ねぇ、聞いてる~?」


突然腕を掴まれ、豊満な胸元をぐりぐりと押し付けられる。
きゃあん、と腑抜けた声を上げる女の先輩。完璧なセクハラだ。

少し力を入れて抵抗しかけ、女にしては強すぎる握力に、執念深さを感じて後ずさる。


「聞いてますから、」


適当に返事をしつつ、また教室の方へ視線をやり、姫宮を探す。
彼は席から居なくなっていた。


「庵野君ってぇ、腹筋めっちゃ凄いってマネージャーから聞いたよぉ」

「えっちすぎ」

ボインボインと腹の辺りで脂肪が揺れる。
反対側の扉から出てきた姫宮が、こちらを振り返った。
目が合う。


「あ、みずきせんぱ·····」


無表情だった姫宮の視線が自分を見てから、呆れたような軽蔑したようなものになったのは一瞬。
彼は、まるで目なんか合わなかったとでもいうように、ふいと視線をそらした。







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