悲恋の大空

暴走機関車ここな丸

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第2傷『心青』

第8話「先輩、風邪?」後編

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 ──少年の日の思い出。


 なんでもない日の今日、どうやらオレと同い歳の子供がうちに来ているらしい。


 だからオレも一応表に出て来てみた。



[幼い論]
 「その子は?」


[施設の人]
 「あら論ちゃん!お外に来るなんて珍しいわね!こちら、今日から入所にゅうしょの塁ちゃんです。塁ちゃん、挨拶出来るかな?」


[幼い塁]
 「は、はい!えっと……あっ、ぁぁ」


[幼い論]
 「……?」



 いくら待っても、目の前のそいつはオレに自分の名前を喋り出す事は無かった。


 恥ずかしそうに口元を堅く閉じて、ただ黙って外方そっぽを向いている。


 そんなに恥ずかしがらなくて良いのに。



[施設の人]
 「……緊張してるみたいね。論ちゃん、この子と仲良くしてね?塁くんって言うから!」



 その後、オレはしばらく塁の様子を見る事にした。



[幼い論]
 「うん、分かったけど……」



 あの時は、まあ絶対仲良くなれないと思っていた。


 塁はいつもひとりで居た。



[幼い塁]
 「……」



 皆んなと遊ぶ時間も、大部屋の隅であいつは……。


 見た目も、暗い色の髪も相俟あいまって。


 塁には誰も寄り付かない。



[幼い論]
 「お前もテストあったんだろ?何点だったの?」



 塁とオレは小中しょうちゅう通して同じ学校にも通っていた。


 オレは塁にテストの点数を聞くと、塁は無言でオレにテストの用紙を見せてきた。



[幼い論]
 「おおっ、凄いじゃん」



 そこには100点満点の文字が……。


 塁はよく、成績面で最高の評価を出す。


 どうやら勉強は出来るみたい。



[幼い論]
 「凄っ、お前1位じゃん……」


[幼い塁]
 「う、うん」



 年に1回のマラソン大会だって、こいつは平気で1位とかる。


 運動も出来るのか……良いなぁ。


 オレは産まれてから、体育なんか一度も参加出来た事が無い。


 塁の奴は勉強も運動もそつ無く出来る。



[仁ノ岡 塁]
 「ふん、ふんっ!」


[幼い論]
 「何描いてんの?」


[幼い塁]
 「うわぁ!?」



 案の定、塁は器用で絵も上手い。



[幼い論]
 「何これ?」


[幼い塁]
 「み、見ないでよ!」


[幼い論]
 「ごめんごめん」



 塁は時々、独創的な一面も見せる。


 何やってもパッとしないオレと違って、塁はなんでも出来る。


 おまけに成長するに連れて、顔も出来上がっていき……。



[幼い論]
 「お前モテんのな」


[幼い塁]
 「モテる……?」



 塁がまたクラスの女子に告白されたらしい。


 でもよく分かんなくてとか言って告白からはいつも逃げてるっぽい。


 この通り塁はつらまで良くなった。


 羨ましいぐらい完璧人間になりやがって。


 でも塁は相変わらず、人とのコミュニケーションを取らなかった。



[男子A]
 「仁ノ岡ってめっちゃキモくね?」


[男子B]
 「ね!喋ってても『あー』とか『うん』とかしか言わないし、無駄に女子にモテててむかつく」


[男子A]
 「そこなんだよなー、何考えてるか分かんないし気味悪い。たまーに変な事言ってるし」


[男子B]
 「キモいし無視しようぜ!」



 友達、オレ以外居ないっぽいし、仕方無いからオレが付いてやらないとな。


 だってこいつ多分だし……。


 一緒に過ごしてく内に、段々塁について察してくる。


 だから、理解してやれる人間が必要だ。


 ……。



[不尾丸 論]
 (塁、今何やってんだろ……?)


[不尾丸 論]
 「……?あれ、洋助?」



 不尾丸の横に立っていた原地はいつの間にか居なくなっていた。



[不尾丸 論]
 (どっか消えた……)



 ……。



[永瀬 里沙]
 「ま、素人の演劇なんて、こんなもんよね」



 劇の終わり、里沙ちゃんは速攻開き直っていた。



[朝蔵 大空]
 「と、とりあえず皆んなお疲れ!」



 後方には萎えに萎えまくった男子達が静かにそれぞれ固まっている。



[嫉束 界魔]
 「最悪、黒歴史だ……」


[笹妬 吉鬼]
 「恥ずかしかった」


[巣桜 司]
 「狂沢くーん!!お疲れ様ですー!」



 水のペットボトルを持った司君がこちらに駆けてくる。



[狂沢 蛯斗]
 「ストーップ!!」


[巣桜 司]
 「!?」



 司くんは狂沢くんの言葉に咄嗟とっさに足にブレーキを掛けてなんとか止まる。



[狂沢 蛯斗]
 「今ちょっと気が立ってるんで、近付かない方が身の為ですよ?」


[巣桜 司]
 「そ、そんなぁ……」


[刹那 五木]
 「お……おれ悪くないだろー?」


[狂沢 蛯斗]
 「ホモの方は黙って下さい!」


[刹那 五木]
 「ホモって……ちょっと待ってよ!だってそう言うシナリオだろ~?」



 狂沢くん、五木くんから大きく距離を取って威嚇している。


 その姿はまるで猫だ。



[文島 秋]
 「ふふん。でも、楽しかったよね?」


[木之本 夏樹]
 「まあ、思い出ってやつだよな?」


[朝蔵 大空]
 「あはは!」


[木之本 夏樹]
 「……!」



 その場の雰囲気に思わず私の口からも笑いが漏れてしまう。



[木之本 夏樹]
 (やっぱり可愛い……)



 木之本は大空の様子に見とれ、自らの頬を染めてしまう。



[文島 秋]
 「お、どうした?木之本、告るのか?」



 そこで文島がすかさず茶化しに行く。



[木之本 夏樹]
 「は!?告るのかって……こ、告る訳無いだろ馬鹿ッ!!」



 木之本は真っ赤な顔で文島に怒鳴りつけた。



[文島 秋]
 「お前そんなにマジになるなよ」



 その時……。



[???]
 「あ!先輩ーー!!」


[朝蔵 大空]
 「……?」



 声のした方を見ると、誰か男の子がこちらに駆けて来るのが見えた。



[永瀬 里沙]
 「あ、おー原地くんじゃーん。お疲れ~」



 誰だろ?


 ん?今里沙ちゃん、原地って……。



[原地 洋助]
 「里沙先輩、劇!とっても素晴らしかったです!!めちゃくちゃ感動しました!」



 声の大きい子だなぁ、いちいち語尾に『感嘆符かんたんふ』が見えるよ。


 これが里沙ちゃんがずっと言ってた、原地洋助くん?


 私の事、知ってるって言う……。



[永瀬 里沙]
 「ありがと、ありがと。ま、そんなに褒められるものじゃないと思うけどね~」


[原地 洋助]
 「あははっ!」



 原地くん、見るからに元気そうな感じの子、オレンジ色の髪に、四白眼しはくがんのツリ目で、濃い緑色の瞳で表情も豊か。


 爽やかでTHE・体育会系男子って感じ……。


 はたから見てても笑顔が眩しい……私とは住む世界が違う。


 原地洋助くん、多分私の苦手な人の部類だ。


 怖いからちょっとだけ、里沙ちゃん達から一歩下がった所に居よう。



[永瀬 里沙]
 「いやぁ、それでもここまで大変だったんだよー、ほんとに。イケメン集めるのもだし、何よりSFCの監視がさぁ……」


[原地 洋助]
 「へぇー、そうですかー…………」



 あれ、なんか原地くんが一瞬こっちチラッと見た?


 なんてこった私、ちゃんと視界に入っちゃってるかも……。


 め、目障めざわりかもしんないから違う所に行こう。


 もっと離れた場所に移動しようと思い、私が後ろを振り返って歩き出そうとした所。



[原地 洋助]
 「あの」


[朝蔵 大空]
 「……!?あ、わ、私?」



 気付くと原地くんもこっちに来ていて、私に声を掛けて来た。


 私はビクつきながらもなんとか返事をする。



[原地 洋助]
 「大空先輩ですよね?」


[朝蔵 大空]
 「……ぅん」



 上手く言葉が出せずに私はただ彼にうなずくだけをした。



[原地 洋助]
 「…………」



 怖い!怖い!無言が怖い。


 しかもこの子、見れば目付きも鋭めだし。



[原地 洋助]
 「ずっと好きでした、ボクと付き合って下さい!」



 !?



[朝蔵 大空]
 「うぇっ!?」


[一同]
 「「「……!!!??」」」



[狂沢 蛯斗]
 「っ!……むぶぶぅっっ!!」



 その時ペットボトルの水を飲んでいた狂沢くんもびっくりしたのか口の水を吹き出してしまう。



[嫉束 界魔]
 「……っ!?」



 その水が水鉄砲のように嫉束くんに掛かる。



[巣桜 司]
 「あぁっ!狂沢くん大丈夫ですかー?」


[笹妬 吉鬼]
 「すげぇ……狂沢」


[嫉束 界魔]
 「うわ、ちょっともー最悪なんだけど!!」


[狂沢 蛯斗]
 「ご、ごめんなさい……」


[刹那 五木]
 「き、汚いよ~狂沢くんっ!」



 五木くんはその様子を見て爆笑している。



[木之本 夏樹]
 「なんっ!?」


[文島 秋]
 「おーっと!まさかの先越されたかー!」


[卯月 神]
 「!?」


[卯月 神]
 (僕の目の前で……)


[永瀬 里沙]
 (彼氏の目の前で!?)


[朝蔵 大空]
 「……」



 今私……この子に告白されたの?


 いきなり、は?初対面だよね??


 え、はい?


 私は酷く狼狽うろたえて何も言い出せずにいる。



[永瀬 里沙]
 「ちょ、ちょっと待って!」



 そこで私と原地くんの真ん中に入って来たのは里沙ちゃんだった。



[原地 洋助]
 「……?」


[永瀬 里沙]
 「この子、彼氏居ます!」


[原地 洋助]
 「彼氏……」



 ちょ!里沙ちゃん!!


 卯月くんと私は、一応付き合ってない事にしてるのに!!



[原地 洋助]
 「……彼氏、彼氏は誰ですか?」



 ほらこう言う事になる。


 もうやだ、里沙ちゃんに任せてずっと黙っていよう。



[永瀬 里沙]
 「ほら、先輩。聞かれてるよ?」


[朝蔵 大空]
 「私!?」



 私は気付かれないように卯月くんと目を合わせる。



[卯月 神]
 「……」



 こちらを見て黙っている卯月くん。


 その次の瞬間。



[卯月 神]
 『言ったらダメですよ朝蔵さん』



 卯月くん!?く、口動いてないのに。


 卯月くんまさか腹話術!?


 あれれ、でもおかしいな卯月くんの声が凄くはっきり聞こえる。


 はっ!もしかして、これ……。


 『脳内に直接』ってやつ!?


 って!そんな事出来るの!?



[朝蔵 大空]
 「すみません、里沙ちゃんが言った事は嘘です。彼氏なんて居ません、でも貴方とは付き合えません!ごめんかさい!」



 最後ちょっと噛んだーっ!


 私はそれだけ言い残して、恥ずかしくなった私は皆んなをその場に置いて走り去った。



[原地 洋助]
 「……」


[永瀬 里沙]
 「ちょっと、原地くん!」



 里沙が原地に声を掛けようとするも……。



[原地 洋助]
 「失礼します」



 原地はそれを無視して前に走り出す。



[永瀬 里沙]
 「あっ」


[刹那 五木]
 「あ、追い掛けて行った……足早ぇ~」


[嫉束 界魔]
 「何あの子?変な子」


[笹妬 吉鬼]
 「分からん」


[巣桜 司]
 「また濃い人だなぁ」


[狂沢 蛯斗]
 「変な人ですねぇ」


[文島 秋]
 「……君が追い掛けるべきじゃないの?」



 文島は卯月の方に視線を送る。



[卯月 神]
 「……」



 ……。



[朝蔵 大空]
 「はぁはぁ……」



 に、逃げて来ちゃった!!



[朝蔵 大空]
 「はぁはぁ……ゴホッゴホッ」



 その時、前方から人影が見えた。



[原地 洋助]
 「せーんぱい!」


[朝蔵 大空]
 「……!?」



 逃げれてなかった!!!


 ニコニコ笑顔で私の前に立つ原地くん。



[朝蔵 大空]
 「さ、さっきのは……冗談ですよね?原地くん?」


[原地 洋助]
 「え?」


[朝蔵 大空]
 「……ア!ほら!嘘コク!そう嘘コク!ほら、運動部ってよくそう言うのあるでしょ?」



 じゃないと説明がつかない。



[原地 洋助]
 「……」



 そうだ、きっとタチの悪い嘘コクってやつだ。


 ここは先輩として、ちゃんと指導しておかないと!



[朝蔵 大空]
 「せ、先輩を揶揄からかうような事はしちゃダメだよ?だから、何かの罰ゲームであってもこう言う事は……」


[原地 洋助]
 「罰ゲームじゃないです」


[朝蔵 大空]
 「!!」



 『やめてほしいな』と私が言葉を言い切る前に、原地くんにバッサリと否定された。


 罰ゲームじゃなかったら何ー?





 「先輩、風邪?」おわり……。
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