偽物の恋人~男性令嬢ソフィーの初恋

あおき華

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4話

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「お嬢様、とってもおきれいです!」

 マーガレットはドレスアップしたソフィーを見ながら、口の前で手を合わせた。

 ソフィーは苦笑いをした。

 母が用意した赤いドレスは、胸の辺りが開き過ぎていて彼女を落ち着かない気分にさせた。

「マーガレット、この辺りを隠す物はない?」

 ソフィーは眉を下げながら、強調された胸の谷間を指差した。

「だめよ」

 母が突っぱねた。

 ソフィーは母の勧める見合い話をかわし続けていた。すると、母はソフィーの侍女マーガレットにつらく当たるようになった。ソフィーはとうとう逃げられなくなった。

 今日会う相手は銀行家のジョン・スミスだ。ダニエルがクラブで聞いていた名前だった。

「先方が会場で声をかけてくださるから、粗相のないようにね」
 



 舞踏会に着くと、早速スミスが話しかけてきた。少しお腹の出た熟年の男性だ。父より年上だろうと思った。


 演奏が始まった。ソフィーはダンスを申し込まれ彼と移動した。

 何ともじっとりした目つきの男だ。見下す様な話し方、自慢話。ソフィーは次第に頭が痛くなってきた。

 次のダンスの誘いを体調が悪いと断ると、バルコニーに避難した。外は真っ暗だ。

「もう脱いでしまいたいわ」

 スミスの話から、この赤いドレスは彼の贈り物だということが分かった。長いため息が漏れた。


「さっきの方はお父様ですか?」

 突然近くから低い声がした。 
 ソフィーはさっと振り返った。

「いや、父親は娘をあんな目で見ないな」
 
 軽蔑するような響きだった。
 逆光で相手がよく見えない。

「ごめんなさい。もう行きますので」

 ソフィーは警戒してバルコニーを出ようとした。しかし男は立ちふさがって動かない。

「貴方はかなり趣味が悪いか、そうでなければ頭が悪いようだ」

「何ですって?」

「あんな男と結婚するのはやめたほうがいい。金しか取り柄の無い男だ」

 結婚の噂を知っているようだ。

 ソフィーは男を押しのける様に会場に戻った。

「お金に困っているのかい?」
 男はまだ付いてきた。

 明るい場所で改めて男の方を見た。二十代半ば頃。黒髪で背が高い。そしてとても綺麗な顔をしていた。

 ソフィーは思わず赤い顔でうつむいた。言い返そうとしていた言葉が上手く出てこない。

「⋯⋯レディ、今の発言は失礼でした」

 誤解したのか、男の声が棘のあるものから少し柔らかくなった。

「ミス・ハワード、ここでしたか」

 スミスがやってきた。

「こちらは?」

 スミスは値踏みするように男を見た。

「私はジョン・スミスです。セントラル・ストリートで銀行業をしてましてな。ご存知ですか?」

 男はスミスを無視している。まるでそこにいないかの様に返事もしない。

 スミスは小声で毒づいた。

「まあいい、ところでミス・ハワード、婚約者を放ってばかりはいけませんよ。さあ」

 スミスが手を差し出した。ソフィーは不意に、噂話を流したのはスミス本人だと感じた。

「スミスさん。私は貴方と婚約しておりませんわ」

 スミスが表情を歪めた。

「私のドレスを着ておきながら?」

 男がさっとソフィーの手を取った。
「失礼、彼女は私とダンスの先約があるので」

 約束などしていない。

 それでもスミスから逃げたいソフィーは男に頷き、ダンスに加わった。
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