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「お嬢様、とってもおきれいです!」
マーガレットはドレスアップしたソフィーを見ながら、口の前で手を合わせた。
ソフィーは苦笑いをした。
母が用意した赤いドレスは、胸の辺りが開き過ぎていて彼女を落ち着かない気分にさせた。
「マーガレット、この辺りを隠す物はない?」
ソフィーは眉を下げながら、強調された胸の谷間を指差した。
「だめよ」
母が突っぱねた。
ソフィーは母の勧める見合い話をかわし続けていた。すると、母はソフィーの侍女マーガレットにつらく当たるようになった。ソフィーはとうとう逃げられなくなった。
今日会う相手は銀行家のジョン・スミスだ。ダニエルがクラブで聞いていた名前だった。
「先方が会場で声をかけてくださるから、粗相のないようにね」
舞踏会に着くと、早速スミスが話しかけてきた。少しお腹の出た熟年の男性だ。父より年上だろうと思った。
演奏が始まった。ソフィーはダンスを申し込まれ彼と移動した。
何ともじっとりした目つきの男だ。見下す様な話し方、自慢話。ソフィーは次第に頭が痛くなってきた。
次のダンスの誘いを体調が悪いと断ると、バルコニーに避難した。外は真っ暗だ。
「もう脱いでしまいたいわ」
スミスの話から、この赤いドレスは彼の贈り物だということが分かった。長いため息が漏れた。
「さっきの方はお父様ですか?」
突然近くから低い声がした。
ソフィーはさっと振り返った。
「いや、父親は娘をあんな目で見ないな」
軽蔑するような響きだった。
逆光で相手がよく見えない。
「ごめんなさい。もう行きますので」
ソフィーは警戒してバルコニーを出ようとした。しかし男は立ちふさがって動かない。
「貴方はかなり趣味が悪いか、そうでなければ頭が悪いようだ」
「何ですって?」
「あんな男と結婚するのはやめたほうがいい。金しか取り柄の無い男だ」
結婚の噂を知っているようだ。
ソフィーは男を押しのける様に会場に戻った。
「お金に困っているのかい?」
男はまだ付いてきた。
明るい場所で改めて男の方を見た。二十代半ば頃。黒髪で背が高い。そしてとても綺麗な顔をしていた。
ソフィーは思わず赤い顔でうつむいた。言い返そうとしていた言葉が上手く出てこない。
「⋯⋯レディ、今の発言は失礼でした」
誤解したのか、男の声が棘のあるものから少し柔らかくなった。
「ミス・ハワード、ここでしたか」
スミスがやってきた。
「こちらは?」
スミスは値踏みするように男を見た。
「私はジョン・スミスです。セントラル・ストリートで銀行業をしてましてな。ご存知ですか?」
男はスミスを無視している。まるでそこにいないかの様に返事もしない。
スミスは小声で毒づいた。
「まあいい、ところでミス・ハワード、婚約者を放ってばかりはいけませんよ。さあ」
スミスが手を差し出した。ソフィーは不意に、噂話を流したのはスミス本人だと感じた。
「スミスさん。私は貴方と婚約しておりませんわ」
スミスが表情を歪めた。
「私のドレスを着ておきながら?」
男がさっとソフィーの手を取った。
「失礼、彼女は私とダンスの先約があるので」
約束などしていない。
それでもスミスから逃げたいソフィーは男に頷き、ダンスに加わった。
マーガレットはドレスアップしたソフィーを見ながら、口の前で手を合わせた。
ソフィーは苦笑いをした。
母が用意した赤いドレスは、胸の辺りが開き過ぎていて彼女を落ち着かない気分にさせた。
「マーガレット、この辺りを隠す物はない?」
ソフィーは眉を下げながら、強調された胸の谷間を指差した。
「だめよ」
母が突っぱねた。
ソフィーは母の勧める見合い話をかわし続けていた。すると、母はソフィーの侍女マーガレットにつらく当たるようになった。ソフィーはとうとう逃げられなくなった。
今日会う相手は銀行家のジョン・スミスだ。ダニエルがクラブで聞いていた名前だった。
「先方が会場で声をかけてくださるから、粗相のないようにね」
舞踏会に着くと、早速スミスが話しかけてきた。少しお腹の出た熟年の男性だ。父より年上だろうと思った。
演奏が始まった。ソフィーはダンスを申し込まれ彼と移動した。
何ともじっとりした目つきの男だ。見下す様な話し方、自慢話。ソフィーは次第に頭が痛くなってきた。
次のダンスの誘いを体調が悪いと断ると、バルコニーに避難した。外は真っ暗だ。
「もう脱いでしまいたいわ」
スミスの話から、この赤いドレスは彼の贈り物だということが分かった。長いため息が漏れた。
「さっきの方はお父様ですか?」
突然近くから低い声がした。
ソフィーはさっと振り返った。
「いや、父親は娘をあんな目で見ないな」
軽蔑するような響きだった。
逆光で相手がよく見えない。
「ごめんなさい。もう行きますので」
ソフィーは警戒してバルコニーを出ようとした。しかし男は立ちふさがって動かない。
「貴方はかなり趣味が悪いか、そうでなければ頭が悪いようだ」
「何ですって?」
「あんな男と結婚するのはやめたほうがいい。金しか取り柄の無い男だ」
結婚の噂を知っているようだ。
ソフィーは男を押しのける様に会場に戻った。
「お金に困っているのかい?」
男はまだ付いてきた。
明るい場所で改めて男の方を見た。二十代半ば頃。黒髪で背が高い。そしてとても綺麗な顔をしていた。
ソフィーは思わず赤い顔でうつむいた。言い返そうとしていた言葉が上手く出てこない。
「⋯⋯レディ、今の発言は失礼でした」
誤解したのか、男の声が棘のあるものから少し柔らかくなった。
「ミス・ハワード、ここでしたか」
スミスがやってきた。
「こちらは?」
スミスは値踏みするように男を見た。
「私はジョン・スミスです。セントラル・ストリートで銀行業をしてましてな。ご存知ですか?」
男はスミスを無視している。まるでそこにいないかの様に返事もしない。
スミスは小声で毒づいた。
「まあいい、ところでミス・ハワード、婚約者を放ってばかりはいけませんよ。さあ」
スミスが手を差し出した。ソフィーは不意に、噂話を流したのはスミス本人だと感じた。
「スミスさん。私は貴方と婚約しておりませんわ」
スミスが表情を歪めた。
「私のドレスを着ておきながら?」
男がさっとソフィーの手を取った。
「失礼、彼女は私とダンスの先約があるので」
約束などしていない。
それでもスミスから逃げたいソフィーは男に頷き、ダンスに加わった。
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