偽物の恋人~男性令嬢ソフィーの初恋

あおき華

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5話

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 ダンスの間、男はずっとソフィーの顔から目を離さなかった。

「そんなに見られていては落ち着きませんわ」
 ぎこちないステップでつまずいてしまった。

「貴方は私と目が合うのを避けているようだ」
 まさに図星だった。

 ソフィーは彼を見上げた。鮮やかなブルーの瞳が愉しげに細くなった。ソフィーの顔が真っ赤になった。

「何かお話してくださらないの?」
 気まずくてごまかした。

「言いたいことはあります」
「何でしょう?」
「もう二度とこのドレスを着てはいけない」

 ソフィーは小さく声を出して笑った。
「ええ、そのつもりです!」

「貴方も何か話してください」
 促されて、ソフィーはしばらく考えた。

「スミスさんは、権力者のお知り合いもいるそうです。あの様な態度で大丈夫だったのですか?」

 男が首を傾けた。
「レディ、私はそんなに頼りなく見えますか?」
 冗談めかして彼は言った。

「私は貴方のこと、何も知りませんもの」
 ソフィーは足元に視線を落とした。

 ソフィーの背に触れる男の手がこわばった。

「失礼しました。⋯⋯私はライアン・カッセルといいます。ノース伯爵家の次男です」
「ハワード男爵の娘のソフィーです」

 聞いたことのない名前だった。爵位のある家は何百もあるので、別に不思議でもない。

 ライアンはどこで私を知ったのだろう。とりたてて目立つ存在でもないのに。


 ライアンはとてもダンスの上手な人だった。ソフィーは彼の洗練されたリードに身を任せて、夢見心地で踊った。

 何曲も共に踊った。

 気づくと最後の演奏が終わっていた。ぴったり寄り添っているのはもうソフィー達だけだった。

 周りからの好奇の目に、ソフィーは慌ててライアンから離れた。



 舞踏会の帰り、ライアンはソフィーを馬車までエスコートした。きっとスミスを警戒してだろう。
 
 ソフィーは馬車を目の前にして、歩調を緩めた。まだ離れたくなかった。これで最後なのだろうか。

 立ち止まったライアンがソフィーの頬にためらいながらそっと触れた。

 ソフィーは目を見開いた。
「私達、まだ初対面ですわ」
 か細い声しか出てこない。ライアンは短く笑った。


 ライアンは視線を僅かにさまよわせた後、すらりとした体をまっすぐに伸ばした。

「ソフィー、また会ってくれますか?」

 ソフィーは無意識に頷いていた。
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