偽物の恋人~男性令嬢ソフィーの初恋

あおき華

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6話

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 馬車が屋敷の玄関前で止まった。中からライアンが降りてくるのが見えた。

 ソフィーは窓辺から急いで離れ、鏡で全身をチェックした。ライアンから届いていたダイヤモンドの首飾りが、鏡の向こうで白く煌めいている。 

 しばらくすると憂鬱そうな顔をした執事が彼女を呼びに来た。

「お嬢様、お客様がお見えです」

 はやる気持ちを抑え、ソフィーはホールに向かった。



「ソフィー」

 ライアンがパッと笑顔になった。

「ライアン、ようこそ!」

 ソフィーは彼に駆け寄った。ライアンはソフィーの手に恭しく口づけをした。

 こんなに堂々とした大人の男性が私に興味を持つなんて、とても信じられない。
 ソフィーは笑いながら、首を横に振った。

「ご両親は?」
「この前、領地に帰ってしまって」

 スミスと破談になり、怒ったソフィーの母は父を連れて領地に帰ってしまった。
 エリックもジェイムズ王子の側近に抜擢されたので、近頃はなかなか屋敷に帰ってこない。

「それは残念だ」
「紹介できなくてごめんなさい。こちらへどうぞ」

 奥の椅子に座ったライアンは興味深そうにホールの内装をぐるりと見回した。執事がわざとらしく咳払いをした。

「彼は怖いね。さっきも、じろじろと睨まれたよ」

 ソフィーは笑った。

「私に男性のお客様が珍しいからよ」
「今までスミスは訪ねて来なかったのかい?」
「あの日初めて会ったわ」

「そうか」
 ライアンは口を引き結んで頷いた。



 そのあと、二人で庭を散策することにした。

 王都の外れにあるハワード男爵家のタウンハウスには、広い庭園があった。昔、先祖が羽振りがよかった頃のなごりだ。

 噴水の池を通りすぎ、芝生の高台を越え、ソフィー達は庭のすみにある小屋の前まで来た。

 ソフィーは小屋を指差した。
「あれが、」
 不意に後ろのライアンに抱きしめられて、ソフィーは短く叫んだ。

「ごめん」
 ライアンがパッと両手を上げた。

「どうか怖がらないで。君といると自制心が無くなるんだ」
 顔を擦ると、自嘲するように肩をすくめた。

「驚いただけよ」
 ソフィーは胸元の首飾りをぎゅっと握りしめた。

「着けてくれたんだね?」
 ライアンが、かすれ声で言った。

「⋯⋯き、綺麗なんですもの」
 とても彼を直視できない。ソフィーはうつむいた。

「ソフィー。よく見せて」

 ライアンの両手がソフィーの両手を握った。ためらいながら視線を上げたソフィーの目の前に、息をのむほど美しいライアンの瞳があった。

「よく似合ってる」

 ライアンは彼女の唇に視線を移して、喉をゴクリと鳴らした。
 ソフィーは、つい唇を舐めた。

 今すぐ離れなければいけないことは分かっていた。彼にプロポーズされたわけでもないのに、近すぎる。
 けれどもソフィーは、彼の情熱に今答えてみたかった。

 指先で軽く唇を撫でられて、ソフィーの体がぶるっと震えた。

「ソフィー」

 うめくように言うと、ライアンはソフィーと唇を重ねた。とても優しいキスなのに、体がしびれるようだった。

 ライアンは体を離して深呼吸をすると、急に明るく笑いかけた。
「今日は、ほどほどにしないとね」

 ソフィーはライアンをじっと見ながら首をかしげた。


「あの小屋が手紙に書いていたアトリエかい?」
 ライアンは、ソフィーが絵を描くために使っている古い小屋に目をむけた。

「え?ええそうよ」
 ソフィーは少し拍子抜けしながら答えた。

「中に入ってみても?」
「ええ、もちろんよ」

 小屋に沢山ある絵を彼に見せたい。絵を描くことには少し自信がある。

 ソフィーは目をきらりと光らせた。

 ライアンは複雑そうな顔でソフィーを見下ろした。

「どうしたの?」
 まばたきをしながら彼を見つめた。

 ライアンは苦い顔をしながら眉間を掻いた。
「世間知らずだと言われないかい?」
「なぜ?」

「簡単に2人きりになってはいけないよ?」
 突然、鼻をキュッとつままれた。

 ソフィーが手を払って鼻をおさえると、ライアンは微笑みながらかぶりを振った。
「かわいいソフィー、君が心配だよ」

 今度は額にキスをされた。


 小雨が降ってきた。

「戻ろうか」
 ライアンが片手をさし出した。

 ソフィーは顔をほころばせて、彼の大きな手を握った。
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